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フェバル保管庫  作者: レスト
剣と魔法の町『サークリス』 前編(旧)
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14「星屑祭一日目 アリス & ミリア VS カルラ & ケティ(アリス視点)」

 あたしは、余裕を持って佇んでいるカルラさんとケティさんをじっと見据えた。


 二人は実力者よ。全開の火魔法を放っても、大怪我してしまうようなことはないはず。


 なら、使うのは『ボルク』の上の『ボルクナ』のさらに上。上級の火魔法で勝負。


 まずは挨拶代わりの一発よ!


 あたしは両手を突き出して構えた。


 燃え盛る炎よ。


『ボルアーク』


 あたしの放った炎が、壁をなすようにして、二人を包み込むように迫っていく。その高さは二人の身長を大きく上回っており、飛び上がって回避出来そうなものではない。


 そのまま呑みこんでしまうかと思われた矢先、二人の周囲に巨大な砂の壁が盛り上がって、それに炎は弾かれてしまった。


 砂の壁が元に戻ると、何事もなかったかのように余裕そうな二人が現れた。


 やっぱり防がれたわね。ま、これがすんなり通るとは思わなかったけど。


「おかえし!」


 カルラさんが叫ぶと、『ボルアーク』を打ち返してきた。質、威力共にあたしのものと比べても申し分ない。


 それに対して、あたしには対抗手段がなかった。火魔法は得意だけど、火を防ぐのは得意ではないから。


 けれどもこれはタッグ戦。あたしには頼れる味方がいるわ。


「私に任せて、下さい」


 そう言って進み出たミリアは、水魔法、おそらく上級の『ティルオーム』を炸裂させる。炎の壁があたしたちを襲う前に、怒涛の水流が押し寄せて消火してしまった。


 火と水、二つの強力な魔法がぶつかることで莫大な蒸気が発生し、さらに闘技場の砂を巻き上げて、視界が急に悪くなる。


 近くに居たミリアのことは見えるけど、カルラさんとケティさんの姿は見失ってしまった。


 くっ。お互い様だけど、これじゃどこを攻撃したらいいのかわからないわ。


 動くに動けず困っていると、身体を包み込むようにふわりと光のベールがかかった。


 すると驚いたことに、途端に見通しが良くなったの。


「アールカンバーを、使いました。多少の、視界の悪さなど、ものともしないはずです」

「ナイス。ミリア」


 今のあたしにははっきりと、慎重に動く二人の姿が映っていた。


 二人はまだこちらには気付いていない。


 チャンスね!


 轟け。雷鳴よ。


『デルシング』


 高速の雷撃を二つ放ち、正確に二人の居場所を狙う。


 迸る雷光によって、二人は途中で攻撃に気付いたみたいだった。


 だけど、雷魔法は速さが取り柄。今から魔法を唱えたって間に合わない。


 これはかわせないでしょ!


「きゃあああああああーー!」「わああああああああああーー!」


 予想通り、見事に直撃。


 電撃に痺れた二人の叫び声が、闘技場に響き渡る。


 よーし! 先制攻撃が決まったわ!


 強いと知っていた先輩たちに対して先んじられたという事実に、嬉しさが込み上げてくる。


 ぐっと拳を握りしめ、こちらを振り返ったミリアとアイコンタクトを交わして喜びを分かち合った。


 しかし。


 叫び声の大きさに反して、二人は少しよろめいた程度で倒れることはなかった。


 んー、ダメか。


 あたしが今放った魔法は、普通の人が相手ならば命すら奪いかねないほどの威力だった。だけど、魔力がある者には魔法に対する耐性がある。これくらいでは決着はつかないみたいね。


「中々やるようね!」カルラさんが楽しそうに声を張り上げる。

「正直、舐めてたわ」ケティさんがやれやれと言った調子で、カルラさんほどではないがこちらに聞こえるくらいの声で言った。


 それから二人は、二言三言ほど言葉を交わしているようだった。けどこちらまでは声が届かず、何を言っているのかまではわからない。


「何が、来るんでしょう」


 ミリアが心配そうに尋ねてくる。


「さあね。でもさっきの攻撃であたしたちがここにいることがばれたわ。早く移動しない、と……!」


 そのとき、ケティさんが何か魔法を使った。


 彼女のすぐ近くに、直径が等身大ほどの球状の闇が生じる。


 まるで見たことがない魔法だった。


 それは蒸気と巻き上がった砂だけをぐんぐん吸い込んで、一気に闘技場を晴れ上がらせてしまった。


 あたしたちの姿が露わになる。これでアドバンテージは存在しなくなった。


 さらに、正体不明の魔法に心を奪われた一瞬の隙をついて、カルラさんが攻勢をかけてきた。


 彼女は風魔法を放ってきた。それは、一つ一つは小さいけれど、雨あられのように注ぐ風の刃たち。


 無数の刃が、あたしの服を、肌をじわじわと切り裂いていく。


「っ……」


 全身に痛みが走る。


 目の前では、ミリアも同じように顔をしかめて痛みに耐えていた。


 そうして動けなくなっていたところに、特大の風圧が腹部に直撃した。


 身体が地面から浮く。ぐんぐん後ろへ飛ばされる、嫌な浮遊感。


 あたしはそのまま吹っ飛んで、闘技場端の壁に強く叩きつけられた。


 背中に大きな衝撃を受けて、砂地にうつ伏せで倒れ込む。


 闘技場はたくさんの歓声と、少し悲鳴が混じったような声に包まれた。


 頭が、くらくらする。少しぼんやりしてる。


 まずいわ。かなり、大きなダメージを食らってしまったみたい。


 前を見ると、ケティさんが一歩一歩ゆっくりとこちらへ迫っていた。


 横を見る。


 あれ? ミリアが、いない。あの子はどこへいったの!?


 もっと良く見回すと、闘技場の反対側の壁。そこにミリアがあたしと同じように倒れていた。そしてあちらの方には、カルラさんが迫っていた。


 しまった! やられたわ!


 あたしは心の中で毒吐く。 


 先輩たちの狙いは、あたしたちの分断にあった……!


 あたしたちは、個々の力量では自分たちに劣る。けど、チームワークによっては苦戦を強いるかもしれない。そう判断して、確実に勝つ方法を取ってきたというわけね……


 でもね。あたしたちだって、血の滲む様な努力をしてきたのよ! 一人一人になったって、そう簡単にはやられないんだから! ミリアとどうにかもう一度協力して、あの技で鼻を明かしてやるわ!


 よろよろになりながらも、あたしはどうにか立ち上がる。


「へえ。良い根性してるじゃないの」


 ケティさんが感心したように言った。


「負けん気なら、人一倍あるんですよっ!」


 火の球よ。かの者を穿て!


『ボルケット』


 高密度の豪火球を、目の前のケティさんに向かって放つ。


 だが、それは彼女が出現させた氷の盾によって防がれてしまう。


「無駄よ」


 彼女の手から放たれた闇の炎が迫る。


 直感的にまずいと思ったあたしは、ふらつく身体を必死に押してそれをどうにか避けた。


 だが、追撃は止まない。


 次は凍てつく冷気があたしの周りを覆い尽くす。


 今度は、かわせなかった。


「いったあああいっ!」


 右腕に、激痛が走った。


 見ると、そこには分厚い氷が張りついていた。凍りついてしまって全く動かせない。


 そこに、ケティさんが冷静に諭してくる。


「一年生にしては、よくやってるわ。でも、その腕じゃもう戦えないね。降参して治療を受けなさい」


 ケティさんの言う通りだった。確かに、このままでは戦えない。


 それにこの腕を放っておけば、魔法使い生命に関わるかもしれない。早急に治療を受けるべきだった。




 仕方ない、わね。




 あたしは、その言葉を受けて――――




 降参なんてしなかった。




 左手で火を操って、右腕の氷を溶かし始める。


 仕方ないわ。荒療治だけど、試合を続けるにはこれしかない。


「あなた、なんて無茶を……!」


 ケティさんが、あまりのことに呆れていた。


 今は呆れてるけど、ずっと見ていてはくれないでしょう。あまり時間はかけられない。少し火傷するけど、火は強めでいくしかないわね。


 そうして右腕の氷を全て溶かし切って、ちゃんと動くことを確認すると、その右手でケティさんに指を突きつけて言った。


「言いましたよね? 負けん気なら、人一倍あるって!」



 すうーーーっと、息を吸い込んで。


 闘技場の声援をかき消すくらいの気持ちで、あたしは叫んだ。




「ミリアーーーーーーーーーー!」




 遠くでカルラさんに苦戦している様子のミリアが、こくりと頷くのが見えた。


 どうやら、ちゃんと伝わったようね。


 もう長くは戦えない。事前に練っていた作戦を実行するのは、今しかない。


 ユウ! 今こそ力を借りるわ!


 風よ。あたしにその疾風のごとき速さを授けよ。


『ファルスピード』


 あたしは、風の力を使って加速する。


 一ヶ月間、あたしたち三人は一緒に猛特訓した。そのとき便利だからって、ユウにじっくり教えてもらったこの魔法。


 今ここで、ケティさんを振り切るために使わせてもらうわね!


「なっ、はやっ!」


 驚くケティさんの脇をすり抜けて、あたしは同じく加速したミリアと、闘技場の中央で合流する。周りは突然の展開に騒然としていた。


「いい? あれ、いくわよ!」

「あれですね。わかりました」


 あたしたちが狙うのは、残る魔力の全てを込めた、最大の一撃。


 後のことは考えない。この試合で、出せる全てを出し切るのよ!


 ミリアが強く念じると、闘技場のやや上の方に大きな雲が現れた。彼女の持つ最大の水魔法の一つ、『ティルハイン』。魔力を持った雲を生成する魔法。


 あたしは、そこへ全力の上位雷魔法『デルバルト』を打ち込む。


 すると出来あがるのは、雲の力で増幅された強力な雷。その強さも速さも、さっき放った『デルシング』や、この『デルバルト』の比じゃない。


『ファルスピード』で完全に意表は突いた。かわすのは不可能。これなら、あの二人だってきっと!


 いっけーーー! 合体魔法!


『デルレイン』


 特大の雷がカルラさんとケティの頭上を襲う。それはほんの一瞬のことであり、まばゆい光が闘技場全体を覆う。


 あたしは、思わず目を瞑った。



 そして、目を開けると――



「う……」


 目の前に、咄嗟に闇の球で威力を軽減していたらしいケティさんが映った。


 彼女はそれでも魔法の威力を殺しきれずに、ばたりと倒れ込んだ。



 ケティさんが、倒れてる。


 あたしは、立ってる。


 そのことが、意味するのは。



 ……やった! やったわ!




 あたしたち、勝ったんだ。勝ったのよ! あの二人に!




 勝利の喜びを分かち合おうと、ミリアと、同じように倒れているであろうカルラさんの方を見た。


 だけど、喜んでいるはずのミリアの表情は――――驚愕に包まれていた。


 それもそのはず。


 あたしにも、衝撃が走ったのだから。


 砂地に開いた大穴。


 間違いなく、特大の雷によるものだった。


 そのわずか横に――――




 カルラさんが、無傷で立っていたの。




 まさか……あり得ない。


 あれを、かわしたって言うの!?


 カルラさんは、驚いたままのあたしたちの方へゆっくりと歩み寄って来る。その歩みは堂々として、威圧感さえあるものだった。


 そしてなんというか、ギラギラしているというか。本気になるとこうも感じが変わるのかって感じだったわ。


 あたしたちのすぐ前まで来たカルラさんは、ふっと笑った。


「驚いたわ。あなたたちが、まさかそこまで成長をしていたなんて。ユウと、間接的にはアーガスの影響かしら。あーあ。ほんとあの二人、うちに欲しいわ。それに、あなたたちもね」


 カルラさんは退屈そうに首を回して、伸びをしてから続けた。


「で、どうするの? まだやるつもり? ケティは倒れちゃったけど、わたし一人で魔力のほとんど残ってないあなたたちの相手をするくらい、わけないわよ」


 そう。このタッグ戦。二人とも倒さないと勝ちにならないルールになっていたの。


 既に魔力を使い果たしてしまったあたしたちは、ただの人間と変わりない。対するカルラさんには、まだまだ余力が残っていた。


 負けず嫌いとは言っても、さすがに全く勝ち目のない戦いをするほどあたしも馬鹿じゃなかった。ミリアと相談して、泣く泣く降参することにしたわ。


「参りました」

「降参、です」


 そこで、司会者のトーマスが叫んだ。


「劇的なクライマックスからの、静かな決着ーー! 奮戦したアリス&ミリアチーム、わずかに及ばず! 一回戦第一試合の勝者は、カルラ&ケティチームだーーー!」


 闘技場は大歓声に包まれた。負けたあたしたちにも温かな拍手が送られる。


 まあ確かに負けはしたけど、やることはやり切ったし、まんざらでもない気分だったわ。





 そして、退場して。


「負けちゃったね」

「ですね……」


 ミリアの顔は、なぜか思いつめているようだった。


 単純に負けたことを悔しがっているのではなくて、もっと違うことで考え込んでいるようにあたしには思えたの。


「どうしたの?」

「何でもないです」

「なーに。あなたまで隠し事?」

「……すみません」


 ユウが何か話してくれる気になったら、今度はミリアか。試合が始まるまでは普通だったし、どうしたのかしら。


 でも、彼女が何を考えているのかわからなくても、あたしの言うことは一つだった。せっかくの祭りなんだから、楽しまなくちゃね。


「ほら、くよくよ考えずにさ。行こう。ユウが待ってるよ」

「……そうですね。一旦保留にしておきます」

「そうそう。それがいいよ」

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