間話1「動き出す仮面の者たち」
サークリスの地下深くにとある施設があった。そこには様々な魔法書が収められ、怪しげな装置がいくつも存在していた。中には違法な物まであった。
施設の奥にある一部屋で仮面の者が二人、会話をしていた。仮面には声の質を変える魔法がかかっているようで、機械音声のような声が部屋に響き渡る。どうやら一人は男、一人は女のようだ。
「状況は進んでいるのかね」
「はい。もちろんです。マスター」
「よろしい。この調子で頼むよ」
マスターと呼ばれた男は、満足気な声で言った。
「はっ」
「さて。あの場所に、我々の計画を一歩進めるものが眠っているらしいことがわかった。なんとしても押さえねばならない。だがあそこはエデルの遺産。少々警備が厳重で、応援を呼ばれると厄介だ。強引に行ってもどうにかなるだろうが、目立ってしまうだろう。今はまだ目立つときではない」
「……それならば、一つ良い手があります」
「ほう。言ってみたまえ」
女が、仮面の奥で嗤った。
「星屑祭。そのときは、魔法隊及び剣士隊の人員の大半が町の警備に回されます。そこでヴェスター達をけしかけ騒ぎを起こし、奴らが戦力をそちらに回している隙にやってしまうというのは」
「ふむ。それは良い案だね」
「騒ぎを起こす場所、そして規模は、どのように致しましょうか」
「規模はほどほどが良いだろう。あまり規模を大きくして、首都から戦力を呼ばれてはまずい。場所は……そうだな。コロシアムで良いだろう。最終日、三日目というのはどうだ。魔闘技の決勝トーナメントが行われる日だ。人もそれなりに多く集まるだろう。そこでテロ紛いのことをすれば良い」
「コロシアムですか? あそこは町の中心地ですよ。さしものヴェスターでも、逃げ切れないのでは」
「考えたのだがな。あれは少々尖りすぎだ。思慮も足りん。正直、今回のことが上手くいけばもう要らん駒だよ。あれが上手くやって引き揚げられればそれでよし。さもなくば――ここで始末しようと思う」
「……なるほど。そういうお考えでしたか。彼に頼むのですね」
「そのつもりだよ」
男が仮面をわずかに外し、コーヒーのような黒い飲み物を飲んだ。
「ところで今期の魔法学校には、まさに黄金世代と言っても良いほど素質を持った学生が集まっているな。彼らの素質は、実に素晴らしいものだ。
特に、アーガス・オズバインは別格だ。それに今年入学したユウ・ホシミという子も、まだ途上ではあるが中々の素質の持ち主だね」
「確かに。これほどの学生が集まるというのは、今までありませんでしたね」
「どうだね。こちらに引き込めそうな者はいるかね」
「何人かはいけると思います。ただ、マスターが今仰ったあの二人については……正直、あまり期待は出来ませんね」
「そうか。残念な話だよ」
「……彼らをこちらへ引き込めれば、素晴らしい駒となります。ですが、無理ならば……」
「いずれは厄介な存在となるかもしれない、か……」
「はい。わたしはそう思います」
「ふむ……だが、所詮はまだ学生に過ぎない。放っておけば良いさ」
何を思ったのか。仮面の中の女の表情がほんのわずかだけ曇った。男はそれに気付いていないようだった。
「さて、話はこれくらいでいいだろう。我々の目的のため、お互い励もうではないか」
「……はっ。必ずや、マスターの御意志のままに」
「うむ。これからもよろしく頼むよ」
「それでは、やり残した人体実験がありますので。失礼します」
女は頭を下げると退出していった。
それから男がしばらく書類に目を通していると、やがてドアがノックされた。
「入りたまえ」
ドアが開く。
「壮健だな。マスター・メギル」
「やあ。君か。先程、君の話を少しだけしていたよ」