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フェバル保管庫  作者: レスト
人工生命の星『エルンティア』(旧)
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A-2「リルナ、仲間を修理に連れて行く」

 リルナは、自分専用の空飛ぶ水色のオープンカーを運転して目的地に向かっていた。後部座席には、傷付いたトラニティとジードが力なくもたれかかっている。


 彼女が向かっているのは、ガソット工房という場所だった。その工房は個人経営ながらも、中央工場に様々な特殊パーツを提供しているところである。リルナ自身とプラトーを除けば、ディーレバッツ各員の様々な特殊機能を実現するパーツは、ほぼ全てここで開発・実装されていた。


 やがて、車は目的地に到着した。合金と軽素材中心で造られる現代建築物の中にあって、遥か時代遅れのコンクリート造りという、ガソットという男のこだわりを感じさせる建物だった。それを眺めて、リルナはほんのりと表情を緩める。実は彼女もまた、これを打ち建てた彼自身と同様に、この古臭い感じがなんとも言えず好きだった。どこか懐かしい気分になるのである。時代の最先端を行く彼女がそれを言うと、意外と思われてしまうことが多い。反応が一々決まって煩わしいので、そのうちあまり誰にも言わなくなってしまったのだが。


「トラニティ。ジード。着いたぞ」


 二人からの返事はない。彼女は小さく溜め息を吐いた。


「また気を失っているか。やれやれ。手酷くやってくれたものだ――ユウめ」


 その名を呼んだとき、再び強い殺意が彼女の中で燃え上がった。一方で、やたらとユウにこだわってしまっている現状に、彼女は自分でも心のどこかでちょっぴり可笑しいなと感じていた。彼女は、両肩にそれぞれトラニティとジードを背負っていくことにした。


 工房に入るとすぐに、主であるガソットが出迎えた。彼自身はこれといった特徴のないごく普通のナトゥラである。


「リルナさんじゃないですかい! 本日はそちらのお二人で?」


 ガソットは、リルナが背負っている二人を見て、すぐに用件を察した。


「ああ。全身破損だ。手痛くやられている。本来なら中央工場に預けてフルメンテナンスにかけるところだが、それをやると相当時間がかかってしまう。今は差し迫った事態ゆえ、こちらに直接依頼をしに来たわけだ」

「そういうことですかい」

「簡易修理で構わないから、とりあえず二人を問題なく動くようにしてくれ。それからトラニティは内臓トライヴシステム、ジードは機体の変形・硬化機能がまた使えるようにしてやってくれ。代金は後日、予算から下り次第振り込むつもりだ」

「わかりやした。ばっちりお任せ下さいや」

「頼むぞ。では、わたしは仕事に戻らなくてはならないので。早いがこれで失礼する」


 リルナはガソットに二人を預けると、すぐに街へと出て行った。ガソットは専用のドックにトラニティとジードを移すと、ぶつくさ独り言を言いながら早速作業に取り掛かる。


「あちゃあ。本当に全身がこっぴどくやられちまってらあ。凄まじいな。こりゃほとんど全部とっかえる必要があるかねえ」


 手元のチェックリストを眺めながら、全身各所のパーツを一つ一つつぶさに点検していく。胸の、人間で言うと心臓辺りを見つめたガソットは言った。


「あらら。二人とも、CPDまで壊れてら。まいったなあ。あれ、中央工場でしか取り扱ってないんだよな」


 CPD。数十年前から中央政府主導で導入された、画期的な動力炉補助パーツの名である。ナトゥラの思考回路とは独立した思考演算回路を持っているこのパーツは、動力炉の働きを適宜調節してそのパフォーマンスを高めるだけでなく、ナトゥラの思考回路、特に反射を司る部分にアシストして、全体的な身体機能を向上させる。


 元々機動力の低い子供のチルオンにはなくても大して違いのないものであるが、機動力高い大人のアドゥラでは、CPDのあるなしでスペックに明確な差が現れる。そのため、機体更新をする際に、必ず取り付けることが義務付けられている法定パーツの一つでもあった。やむを得ない事由を除き、これを取り付けていないナトゥラは旧式のものとしてすべからく処分対象となる。


「ちっとパフォーマンスは下がるが……まあとりあえず動けばいいなら、少しの間はなくても問題ないやな。壊れたのが悪さしてもいけないから、一時的に取り外してしまうか」


 ガソットはそう結論付けると、トラニティとジードからCPDを取り外して、修理の作業を続けた。






 一方その頃、リルナはステアゴルから、ユウが中央管理塔に侵入したという知らせを聞き、静かに憤りを感じていた。


「舐めた真似を」


 念のため警備を割り当ててはいたが、まさか本当に中枢に忍び込もうという馬鹿が存在するとは思わなかった。お前が来てから、前代未聞の事件ばかりだぞ。だが――


「調子に乗り過ぎたな。今度こそ逃げ場はない――殺す。確実に殺す」


 彼女はそびえ立つ塔を睨み付けると、そこへ向けてアクセルを全開に踏み込んだ。

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