四郷鮎美の戦い
一方、その頃。
日本のどこかにある、山と海に囲まれた巨大な崖の上。
人里離れたその場所で、一人の女性が佇んでいた。
崖の先に見える大海原は、朝日の輝きを浴びてまばゆい光を放っている。その眩しさを手で覆い隠し、女性は足元に視線を落とす。
そこには――全てを埋め尽くすような瓦礫や金属片の山が、広範囲に渡って積み上げられていた。
何に使われていたのか。ここがどんな場所だったのか。それが全く想像できない程に、何もかもが粉々になっている。
ともすれば、ジャンクヤードにすら見えるかも知れない。何も知らない人間が目の当たりにすれば、そう認識してもおかしくはないだろう。
――だが、その女性は違う。
全て知っているのだ。
ここに何があったのか。ここで何が行われたのか。
ここが、どんなものを生んだのか。
「……」
その悍ましさ。恐ろしさ。それら全てを知った上で、彼女はここに来ていた。
痛ましい記憶を掘り返すことになろうとも。苦しむことになろうとも。
そのリスクに見合うだけの値打ちが、ここにあるのだから。
「……本っ当。私も、堕ちるとこまで堕ちたものね」
そして。この大量の鉄屑の中で転がっていた、「巨大な指」を思わせる鋼鉄の物体を目の当たりにして、女性は自虐するような口調で小さく呟く。
――まるで、自分がこれから「大罪」を犯すことを予見しているかのように。