イケメン
「てめえ、もう一度言ってみろ!」
急に野太い男の声で吠えられた。いや、こいつに言ったんですけど…。と思ったら騒ぎはここではなく目の前の人だかりの方だった。
騒ぎの中心には黒いヒゲを携えた男が3人いた。その中でひときわ大きい男がボスか。顔に傷が有りどう見てもカタギには見えない。
絡まれてるのは女性が四人…、いや、女性が3人と一人大きいのは男か?
銀色のような長い髪を後ろで三つ編みにしてたので女性かと思ったが、180cmくらいの高い身長、そして目立つのはその顔だ。切れ長の瞳と高く筋の通った鼻、微笑みをたたえた唇。中性的な感じでなく、男らしさも感じる、男の俺から見ても整った顔をしてると思ってしまうほどのイケメンだ。
女を3人も引き連れてやがる、気に食わねえ男だ。
「お前らは女性に話しかけられるような男では無いと言ったんだ。彼女たちのような美しい女性に話しかけたいなら、僕のような見た目になってからにするんだな。」
イケメンは一歩3人組に近づいて、腕を体の前に組みながら堂々と相手をけなした。
「いい度胸してるな、色男。女の前だからと言って格好つけて二度と女と歩けない顔になったヤツを知っているぜ?」
確かに普通はそうだが、俺には分かった。あのイケメンが相当出来る事が。左の腰に下げている剣から見てヤツは剣士だ。
すでに剣の柄に手はかかっている。周りには分からないのか。もうすでに目の前の3人組は間合いに居て、イケメンはすでに3人を斬る状態になっているのに。
いくら達人でも3人相手はキツい、同時にかかってこられたら、かわすので精一杯だ。しかしそれは両方が殺す気ならの話だ。片方がまだその気になっていないうちに、一人の方は3人を殺す準備が終わっているんだ。そして容易く目の前の絡んできた連中を殺そうと出来るイケメンは相当修羅場をくぐってきてる事も用意に想像が付いた。
「なかなか良い見た目の男じゃな。」
マリアはいつの間にか俺の頭の上に乗っていた。こいつなんで重くないんだ?
「あれで腕も立つなら下僕に欲しいのう。」
どうやらマリアも分かったみたいだ。
まあ確かに立ち位置が良くて、殺人の覚悟を話すように出来るからといって、腕が立つとは限らないか。剣なら腕が無くても人は殺せるしな。そう腕が立つなら…。
そう思った瞬間、3人組の左側の男がイケメンの後ろに回り込もうと横に動いた。
するとイケメンもその男の横にずれた。するとすでにイケメンの剣は後ろに回り込もうとした男の首スジにくっついていた。いつ、抜いたかもわからないような肩でも組むような自然な動きだった。笑って見ていた3人組の顔が一瞬で引きつる。
うかつすぎる、臨戦態勢の相手に「殺り合う気を見せる」なんて。
「て、てめえどうゆうつ、つもりだっ!」
ボスらしい男が腰の剣を抜こうとした。
「ひいいっ…!」
イケメンの剣が横にスライドし、男の首から赤い血が流れる。
「う、ううっ…!」
イケメンの剣は細い分、切れ味は鋭そうだ。そういうタイプの剣士のようだ。
間違いない、イケメンは剣の腕も達人だ。普通は異常な動きがあれば攻撃の瞬間を気づけるんだけど、動きが読めなさすぎる。剣は力がなくても急所を切れば人を殺せるから、絶対に避けなければいけないのに、今の動きはいつ剣を抜いたのかわからなかった。手品と同じ理屈だ。
今間違いなく、剣を突きつけられてる男だけでなく目の前のボスも切られるのを待つだけの状態だ。
この状態にしたから、一番遠い位置の男は二人を見捨てれば逃げれるかもしれない。俺ならボスを後ろから蹴って盾にするな…。
「さあ、どうする?」
イケメンは少しも動かずに、言葉を発した。スマートに立っているように見えるだろうが、実際は力を異常に込めている。二人同時に切り殺せる準備をしてるのに、そう見えない。それだけでも相当に鍛え込んでいることも分かる。細く見える体は筋張った筋肉しかないんだろうな。
「わ、わかった。俺たちが悪かった…。」
ボスは剣に近づけた手を上にあげた。
さすがにボスだけあってあの状態になったら分かるか。後ろの男はまだ悔しそうな顔をしてるのが、あまりにも場違いだ。