到着
マリアの『まだか?』攻撃にうんざりした頃、ようやく街に着いた。
トキトイア城下街。
この国のほぼ中央に位置する、トキトイア城を中心に発達した大きな街だ。
とりあえず宿を決めなければ。
金は元々の俺の分とタヌシの爺さんにもらったモノを合わせても贅沢は出来ない。
安宿のありそうな下町に向かおう。
「おい。どこにいくつもりじゃ。」
「ん?とりあえず宿を…。」
「まずは着替えじゃろうが!こんな貧相な服をいつまで妾に着せておくつもりじゃ!」
「…服なんかどうでもいいだろ。」
「服なんか、とはよく言えたものじゃな!この野蛮人が!妾ほどの一流のレディは着るもの一つとっても一流でなくては我慢できんのじゃ!」
「あー、うるさいうるさい。後でな、後で。まずは宿、宿。」
安宿のありそうな方を探していると、街の東側はなんだかさびれてるような感じがした。
「あっちの方かな、行ってみ…、あれ?あいつどこ行った?」
さっきまで足元にいたマリアがいない。
ふと見わたすと少し向こうの店から、ものすごいきらびかな服を着て、出て来たマリアを目撃した。
あのガキ!
俺は大急ぎでマリアのところに駆けていった。
「おい!おい!お前その服、どうやって手に入れたんだよ!」
「もちろん買ったのじゃ。」
「え!?お前金持ってたの?」
「もちろんじゃ。」
懐から何かを取り出す。
「お前、それ俺の財布じゃねえか!いつの間に!?」
「わらわの魔術にかかれば、たやすいことよ。」
「てめえ、ふざけんな!ただのスリじゃねえか!」
すぐ取り上げて中身を確認する。
「ほとんど無くなってるじゃねえか!どうすんだよ!?泊まるどころか飯も食えねえぞ!それ、返してこい!」
「返品は不可だそうじゃ。」
「嘘つけ!」
マリアを引っ張って店に入った。
「おい、これ返品してくれ!」
「あ、お父様ですか?一度来たものは当店では返品は…。」
「早くしろ!」
有無を言わさぬ勢いで、店員に詰め寄った。
「早く脱げや、マリア。」
マリアは聞こえないふりをしていた。
「おい!」
「うるさいのう、これがあればいいんじゃろうが?」
そう言って振り向いたマリアの手には大量の金貨が乗っていた。
「え?お前、これどうしたんだ?」
「すぐそこにあるじゃろ?」
そう言って、店の奥の金庫を顎でさした。
「お、ばっ!」
すぐさまマリアの手を隠した。
「お客様、どうされました?返品されますか?」
「い、いや、返品したいんだけど…。おい、お前ふざけるなよ、泥棒じゃねえかよ…!」
「まったく大丈夫じゃ。わらわの魔法で誰も気づかんわ。」
「そういう問題じゃねえんだろ…!お前、早く戻せよ!」
「嫌じゃ。」
「こ、このクソガキ…。」
「お客様…?」
店員が後ろから覗き込もうとしてる。やばい!
「あー、やっぱりこの服もらってくわ!あとなんかウチの子がお金拾ったらしい。お宅のお金じゃない?はい、お返しします。それじゃ!」
「えっ?あ、あの、これは!?」
金貨を素早く取り上げて、店員に押し付ける。そのままマリアを持ち上げてすぐさま店から飛び出した。