旅立ち
「ここから南に下っていけば、大きな城壁が見えるはずじゃ。そこがこのあたりで一番大きい街、マッシ城下じゃ。」
朝になりタヌシの爺さんに道を教わり、食料も分けてもらった。目が覚めても、ゴリラのままだった。やっぱり昨日の事は夢じゃなかったのか…。
「歩きだと二日はかかるぞ」
「二日~?無理~。おい、ゴリラ、馬は用意できんのか?」
「ウマ~?そんなのどこにいるよ?」
「わしの住んでた村に行けば、馬くらいならあるじゃろうが…、方向は真逆じゃなあ。」
「そこは服屋はあるのか?」
「いえ、本当に小さい村で…。マリア様にご満足いただけるような服はちょっと…。」
「じゃあ、嫌。」
こいつどんどんワガママになっていくなあ…。
「いい、いい。歩いて二日だろ?俺なら一日あれば着けるよ。」
自慢じゃないが、体力だけは自信がある。飯も腹いっぱい食べたし。
「まあ、確かに馬に乗るのも、ゴリラに乗るのも大差は無いかもしれんな。」
「…乗せねえよ?お前も歩け。」
「ほう、ずっとゴリラのままでいたいのか?」
「…クソガキ…。」
仕方なく抱っこしようと、手を伸ばす。
「無礼者が!」
手をピシッと叩かれた。
「跪くんじゃ、わらわが乗り方は決めるわ。」
「へいへい。」
跪くとマリアは頭の上に乗ってきた。
「お前、頭はやめねえか!無理だろ、そんなとこ!」
「良いから立たんか!」マリアは髪の毛を引っ張って催促する。
このガキめ!思い知れ!
俺は勢い良く立ち上がった。
「おお、無駄にでかいだけあって、良い眺めじゃなあ。」
あれ?重くねえぞ?子供ってこんなに軽いものなのか?しかも全然驚いてねえ。
確かに頭の上にいる感触はあるんだが、こいつどうやって乗ってるんだ?
「よし、いつまでもこんな田舎にいてはわらわの品は損なわれるわ。下僕よ、出発じゃ。」
意地悪して頭を振ってみた。
「このたわけが!乗りづらいわ!」
頭をゴチンと殴られたが、落ちそうな気配はなかった。本当にこいつどうやって乗ってるんだ?
「ではマリア様、お気を付けて。わしも足腰が丈夫ならばついて行きたいのですが…。」
「よいよい、お主は今までどおりわらわの寝床をきちんと見ておいてくれ。」
「え、あそこってそんな大事なのか?ただの枯れた森じゃないのか?」
「馬鹿者、あそこはわらわの土地ぞ。いつかはあそこにでっかい城を建てるんじゃからな。」
そうなんだ。
「それからくれぐれも魔女の力は、お控えください。今の時代、魔女と分かればどのような事があるかわかりませんから…。」
「ほう、それはどういう事じゃ?」
「今の時代は魔法は伝説やお話の中の事なのです。しかも魔女は悪しきものだったとするのが今の世の流れなのです。」
「確かに俺自身魔法なんてものは信じてなかったし、俺が知っている物語でも魔女はだいたい悪者だったからなあ。」
「ふむ、覚えておこう。」
「いや、だったらこれ解けよ!思いっきり魔法でゴリラになってるじゃねえか!」
「お主は元に戻っても、ほとんど変わらんじゃろ?見栄えが気になるなら、顔を隠しとけ。」
魔女の従者はゴリラって初めて聞くぞ。もっと格好いい動物にしてくれ…。