ようやく一日が終わり
夜中にふと目が覚めた。
またあの夢だ。
くだらない、未だに昔の事を思い出すなんて。
ついでにトイレがしたくなった。
水しか飲んでなかったからかな。
たしか外に便所があったな…。
しかしなんともすごい一日だったなあ。
田舎を飛び出して遭難して、変な幼女にあって、生まれて初めて魔法見て、それの手下になって、ゴリラにされて…。
そういえば本当に元に戻るんだろうか?
手を洗おうと、桶の所に行く。
相変わらず毛むくじゃらだ。
水に映った顔は俺の面影のあるゴリラだ。
まあ実際のゴリラは絵でしか見たことがないがな。
「よく寝たわ。」
いつの間にかマリアが後ろにいた。
「おお!いつの間に!」
「ふん、お主に気配を感じさせないくらい簡単じゃ。」
「そんな事はないと思うけどなあ、これでも敏感な方だったから…。ゴリラになってるからか?」
「関係無いわ。まあお主は確かに体術は優れておるからな。何かやっておったのか?」
「…ああ、小さい頃からな。」
やらされていたって方が正しいけど。
「なあ、お前なんであんなとこにいたんだ?さっきは思い出せないみたいな事言ってたけど。」
ずっと疑問に思ってたけど聞けなかった事を聞いてみた。
なんで聞かなかったと言われると自分でも分からないが。
どっかでただの幼女の戯言だと思いたかったのか、偉そうな事を言って地元から飛び出しておきながらおかしな事に巻き込まれるのを避けてたのか。
「…わからん。」
「なんで分からないんだ?」
「分からんものは分からん。思い出せないだけか、記憶がないのかもすら分からんしな。まあわらわが起きてしまえばこっちのものよ。何人が来ようがな。明日はすぐ旅立つぞ。早めに寝ておけ。」
「えっ?どこか行く当てでもあるのか?」
「わらわほどの者がこんなとこにいつまでもおれるか。もっといろんなものがあるところに行くのじゃ。」
つまり当てはないってことね…。
そう言い残してマリアは再び小屋の中に戻った。
わからないか…。
あいつ自身もなんであんな事になっていたかはわからない。
わかってる事と言えば、魔法を使える幼女って事くらいか。
でもわからないってのも面白いかもしれないな。
俺が聞けなかったのははっきり知りたくなかっただけか。
あいつの素性や目的を知って、一緒に居たくなくなるかもしれない事を恐れてたのかも。
せっかくつまらない日常から離れたかったんだ。
ちょうどいい。
あいつが何者か、何が目的か、一緒にいて見極めるもの悪くは無い。
そう思い、俺も小屋の中に戻った。