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我がま魔女!  作者: 青丸 マコト
魔女っ娘、復活!
3/10

コンゴウは熊さんと対決。

コンゴウは泥の中で再び目を開けた。

やはり体は燃えてはいなかった。


いったいどういう仕組みだ?

コンゴウは直ぐ様立ち上がった。

雨に当たっても消えないし、かと言って本当に燃える訳でもない。


先ほどの感じから言うと、どうやらあの幼女が何かをしているようではある。

確かにこんな森にあんな幼女が一人でいるのも怪しい。

コンゴウはちょっと怖くなったので、このまま立ち去ろうかとも思った。


なぜなら先ほどの炎が幼女の力だとすると、これはいわゆる魔法というヤツだ。

しかし魔法はこの世界では忌み嫌われている。

昔から魔法を使う魔女の言い伝えはあり、その大半が悪人だ。

王国を乗っ取ろうとしたり、王様を操って戦争を起こしたり、他人を犠牲にして何百年も生きたり…。

そんなに関わっていたら、何をされるかわかったものではない。


しかしコンゴウはためらってもいた。

逆にその魔法のせいで、ここに閉じ込められてるかわいそうな子かもしれないと思ってしまったのだ。

そう考えると、コンゴウはそのまま放っておく事も出来ない性格だった。


あれが魔法だとしても、コンゴウを傷つけずに追い払おうとした。

悪人がそんな事をするだろうか?

雨に濡れながらコンゴウは考えていた。


そんな時に目の前にうごめく影が見えた。

なんだかでかい動物のようだったが、一瞬光が消えたと思ったら、その影も消えた。

もしかしたら、何かが先ほどの幼女のいた部屋に入っていったのか!?


コンゴウは直ぐ様走り出して、幼女のいた部屋に入り込んだ。

大きな影の正体は、熊だった。

コンゴウと同じくらいの大きさの熊が、部屋の真ん中から幼女の方に向かおうとしていた。


コンゴウはそのまま走り、熊の前に回り込んだ。

熊は突然の人間の登場にビクッとなった。

しかしすぐに牙を剥き威嚇した。


熊はこの世界でもそう珍しい生き物では無かった。

普通にどこの山にも居て、コンゴウの田舎にもいた。

しかし腕自慢のコンゴウでもせいぜいイノシシくらいで、熊と素手で相対した事は無かった。


「おい、起きろ!」

コンゴウは幼女に呼びかけた。

「さっさと逃げろ!」

幼女はめんどくさそうにこっちを振り返った。


「なんじゃあ、今度は熊みたいなヤツが来たのか?ゴリラと熊じゃなく、もっと見栄えの良いヤツはおらんのか?」

「熊みたいじゃなく熊だ!早く逃げろ!」

「言われんでも分かっておるわ。お主逃げろというが、お主はどうするんじゃ?」


そう言われるとコンゴウも困った。

とっさに熊の目の前に立ちはだかってみたものの、実際自分並みにでかい熊なんて戦った事がないし、勝てる気もしない。


「と、とりあえず時間稼ぎをして、様子を見て逃げるかな…?」

「ほう、この熊相手にか?死ぬぞ。」

「こっちも言われなくても分かってる!いいから、逃げろ!」


コンゴウが熊から幼女の方を向くと同時に、熊が襲いかかってきた!

目の端で認識したコンゴウは、とっさに熊の右手を避けて、右拳を熊の顔面に叩き込んだ。

コンゴウの拳は自然石すら叩き割る破壊力を持っていたが、熊は倒れることなくコンゴウの方をゆっくり見た。


コンゴウは恐れた。

自らの拳をまともにくらって一切効いてないなんて、生まれて初めてだったからだ。


今度は熊は突っ込まずに立ち上がった。

でかかった。

コンゴウは自分より大きい相手を見た事が無かった。

しかし熊は人間のように小回り出来ないはずだ。

とっさにコンゴウは熊の横から後ろに回り込もうとした。

しかし幼女がまだ自分の後ろにいる事に気づいてとっさに止まってしまった。


「おい!お前、早く逃げろよ!」

「前っ!」

幼女の声で目の前から熊のするどい爪が襲ってきたのを、とっさに顔を捻って交わした。

しかしそのまま肩に爪を食らった。

引き倒されそうになったのを、肩の肉を削られながら耐えて、激痛が走る前に熊の顔面に全体重をかけた踵を打ち込む。


さすがの熊もこれにはよろめいた。







さて、相手はでかい図体からして、動きは俺より遅い。

ならば…。

左前構え、中腰になり、すり足でじわりと距離を詰め始める。

熊は動く素振りを見せない、本当の泥人形みたいになってる。

熊の手が届く距離に近づく。

刹那熊の右手が動く前に、左胸に左拳を叩き込む!


すぐさま左手をひき、そのまま熊の右手を紙一重で後ろに避ける。

やはりすぐには取り込めないようだな。

基本をおろそかにして、そのまま蹴り足を残すなんて、まったく…。


次はこれの確認だな。

熊の右側に回り込む。

今度は左手が襲いかかってくる。

下にくぐって避ける。

唸りを上げて襲いかかる左手が急に止まり、下に避ける俺の動きに合わせてきた!

ギリギリ両手で受け止める。

すぐさま今度は左側に回り込む。

右手は襲いかかったが、すでに俺は腕の届かないように距離に空けていた。


よし、読み通り!

こいつは自発的に動いていない!

俺の動きを別角度で見てる動きだ。

つまり幼女が見て、熊を操ってるわけだ。


しかし一体何なんだ。

泥で作った熊を意のままに操る裸の幼女…。

そのままおとぎ話だな。


さて、操ってるのが幼女と分かれば話が早い。

あの娘をどうにかすればいいんだが…、子供に乱暴は出来ぬ。

動きは俺の方が早いし、あの泥熊が操り人形なら尚の事、倒せる気もしないし。

よし、決めた、逃げる!


すぐさま後ろを振り返り、上着と荷物入れを掴み、入ってきた木の根の穴から飛び出した!


穴から飛び出して外に出たら、すぐ目の前に幼女がいた時はさすがに驚いた。

「え!なんで!?」

確かに熊の左後ろの壁沿い、部屋の奥にいたはずなのに。

魔法か!?

すぐに幼女の近くに泥の熊が形作られた。

魔法だ!

魔法だ!魔法だ!


幼女は空中にふわりと浮きつつ、顎に手をやりながらこっちを眺めた。

「ふむ、ゴリラのような外見に似合わず、頭は回るようじゃな。」


「大きなお世話だ。」

好きでゴリラみたいに生まれたわけじゃねえ。

「あのな、お前が消えろって言うから、消えようとしてるのになぜ追いかけてくる?」

確かに起こしたのは悪かったけど、一方的にこっちがやられてるんだし…。

はっ!

もしや養分とか言ってたけど、こいつが眠ってる間の栄養って、まさか…人間!?


幼女は少し考えて、

「お前に興味が湧いた。」

こんな子供に言われても嬉しくないセリフだ。


「…俺もお前に興味はあるが、それ以上にめんどくさいのが嫌いなんだ!じゃあな!」

反対方向に逃げようとしたら、なぜか幼女と熊の方に突っ込んでいった。

「うええぇぇ!?」

熊の右手を避け、滑り込みながら股の間を抜ける。


「なんだ!?なんだ!?」

何がどうなった!?

確かに後ろを振り返ったはずなのに、前に幼女がいた。

いや、木の位置からして幼女と熊は同じ位置だ。

俺が突っ込んだんだ。

滑り込んで躱したせいで、俺まで泥人形になったみたいにグチャグチャになった。


「なかなかやりおるのう。その腕に免じてわらわの下僕として遣わす。」

幼女は上から見下ろしながら言い放った。

なぜそうなる?

「…いやだと言ったら?」

「本物のゴリラにする。」


えっ!?

「ちょっと待て!ちょっと待って!」

慌てて立ち上がる。

えっ?ゴリラにするってそんな事まで出来ちゃうの、この娘!?


「お前の予想通り、この熊はわらわが操っていた。しかしそれを理解しながらも、わらわを狙わなかったその行動に免じて、チャンスを与えようというのだ。」


いや、そのチャンスいらねえけど。

ふと気づくと、熊は消えていた。


「さて、名前を聞いてはおらんかったな。」


「俺はコンゴウだ。お前は?」


「ふむ、コンゴウ、コング…、なんじゃ見た目だけじゃなく名前もゴリラか。よかろう、ゴリラよ、お主は今日からこのマリーアントの下僕じゃ!」


マリーアント?また呼びにくい名前だ。

「おい、マリーアントって呼びにくいし、俺はゴリラじゃねえ!」

「ふむ、ゴリラよ。ならばわらわの事は『マリア様』と呼ぶが良いぞ。さて一度わらわの寝室に戻るぞ。先ほどの革袋でも何も無いよりはマシじゃからな。」


何がマリア様だ。

しかし一旦戻るのは賛成だ。

雨に濡れて寒いし、気が抜けたらやっぱり腹が減ってきたぞ…。

挙句に大ケガまでしてるしな、さすがのタフガイの俺も下手すりゃ死ぬ…、あれ?

雨で泥が流れて体が見えたら無傷だった。

さっきの熊に服ごと引き裂かれてなかったっけ?

投げ捨てた服を拾い上げると、服も敗れてはいなかった。

これも魔法か?


「おい、俺のキズって魔法で治してくれた?」

「ん?馬鹿者、先ほどの出来事はすべてわらわの魔法で作り出した幻覚じゃ。」


さっきの泥で出来た熊だけじゃなく、戦っていたこと自体もってことか?

なんだか頭が混乱してきた。

腹が減りすぎて考える力も弱くなってるな。


とりあえず先ほどの木の穴に戻った。

戻るとマリアはすでに俺の革袋を着ていた。

いざ着てみると、さすがに間抜けだな。思わず笑ってしまった。

「まったくこのわらわがこんなものを着るとは…。ゴリラよ、すぐにでも着替えと食物が必要じゃ。わらわの世話をしておったものが森の外にいるはずじゃ。そこへ行くぞ。」


「な~んだ、やっぱりそういう人いるのか。」

俺は安心した。

「てっきり寝ている間、森に迷い込んだヤツを栄養分にしてるのかと思ったよ。」


そう言ったらマリアは周りを見渡した。

「この木はおそらくそうしておったはずじゃがのう。そうじゃなかったらこれだけ元気なはずなかろう?」

「マジか!?じゃあ今までこの森に迷い込んでいたヤツラはこの木の養分に…。」


「冗談じゃ。まあ遭難した奴らは本当に木の養分になったかもしれんがな。わらわが人間を養分などにするか、気持ちの悪い。わらわの栄養は世話する者たちが食事として貢いでくれておったはずじゃ。」


そんなものか。

俺は荷物をまとめて、服の中に入れた。


「その木箱はなんじゃ?」


「これ?日記だ。」

「お主ほど意外性のある男も珍しいのう。とうていそんなもの書いてそうに見えんぞ。」

「ほっとけ。さあ、行くぞ。お前、道分かるか?」

「分かる訳ないじゃろうが。お前は分からんのか?使えん下僕じゃな。」

「この野郎…。」

「どうするんじゃ?腹が減ったぞ。」

「そりゃこっちのセリフだ!魔法使いなんだろ!?魔法でどうにかしろよ!」

「魔法もそこまで万能ではない。」


結局、最初の問題に戻っただけじゃねえか。

魔法使いの幼女と遭難してるだけだ。

誰か助けて。


「…おい、中に誰かおるのか?」

入口の方から声が聞こえた。


た、助かった!

「い、居ます居ます!遭難してます!」


入口からすぐに外に出てみると、老人が立っていた。

「お前、どうやってこの中に入り込んだんじゃ?この木の中に人が入れるとはのう…。ずっとこの森の管理をしとるが初めて知ったわ。」


「ほらな?世話する者がおると言ったじゃろうが。」

マリアが得意げに木の入口から出てきた。


「お主、子供連れじゃったのか?昨日あった時はおらんかったのに、迷子にでもなっとったのか?」

そう言われて、昨日あった謎の老人だというのを思い出した。


「おい、じいさん!昨日会った時こんな恐ろしい森だって教えてくれよ!」

「言ったじゃろうが、森に行くなと。まあ、実際にこの森で遭難した奴に初めて会ったがな。」

え?そうなの?方向音痴だったのか、俺。


「お主か、今までわらわの世話をしておったのは?」

マリアは老人を見上げながら偉そうに話しかけた。


「ふむ、随分おませなお嬢ちゃんじゃな。わしが世話してたのは、この木じゃよ。昔から枯れ木しか無かったこの森で唯一元気なこの木の世話をするのがわしの役目なんじゃよ。」


「じいさん、とりあえず腹が減って死にそうなんだ。頼む、ご飯食わして!」

「ふむ、じゃあわしの家に行くか。ついてこい。」

じいさんは森の中を慣れたように進んでいく。


「これ、わらわに歩かせるつもりか。乗せろ。」

乗せる?おんぶってことか、仕方ねえな。


「ほれ、乗りな。」

その場に跪いてマリアを促した。

「よし、良いぞ。」

え?乗った?

足が顔の横にあるのは見えるから、頭の上に乗っているのようではあるが、重さを全く感じなかった。

「お前、随分軽いな?」

「あたりまえじゃろう、わらわのスタイルを見たじゃろうが。スレンダーボディじゃったろうが。」

スレンダーというより、単純に体が小さいだけだろ。


おっと、それどころじゃない。

じいさんを見失ったらそれこそ餓死してしまう。

俺は老人のあとを追って、森を駆けた。

ようやく森を抜け出した。

とりあえず雨は止んだが、辺りはすっかりと暗くなっていた。


「ようやく抜け出たか。まったく陰気な森じゃったな。」

俺の頭に乗ってたマリアがうんざりした声で話しかけてきた。


「お前がいた森だろうが。」

「確かにそうじゃが、なんでおったかよくわからん。」

そうなのか?

寝起きで頭がぼーっとしてるのか?


「そんな事はどうでもいいから、召し物をどうにかせい!いつまでわらわにこんなものを着せる気じゃ!」

そんな事言われても…。


「なあ、じいさん。この子供の服がないんだけど、着るものとかあるかな?」

「子供が着るものか?ここにはちょっと無いのう。わしの服で良いか?」

「だって。」

「まあ、こんなところでは仕方ないのう。さっさと街にでも行きたいのう。」

マリアは遠い目をした。

子供に見えんぞ、まったく。


「しかしお主の娘さんは可愛いのう。こんな可愛い子供にボロを着せておったらいかんぞ。ちゃんと仕事はしておるのか?」

痛いところをつかれた。

俺の子供では無いが、無職である事は当たり。

「いや、まあ仕事を探してるんだけど。この辺で大きい街ってどこかある?」

「ああ、仕事を探しておったのか。まあ、飯の時に街への行き方をおしえてやるわい。とりあえず風呂でも入れ。」


風呂かあ、何日ぶりかなあ。

マリアを担いで小屋の裏に回る。

おお、木で作った桶のような風呂があった。

家の裏側の扉から脱衣所らしきとこに入る。


「おい、ゴリラ。何でお主が服を脱いでおる?」

「えっ?風呂入るんだろ?」

「わらわが先に決まっておろうが!どれだけ図々しいんじゃ!?」

「別に一緒に入ればいいじゃねえか。」

「どこの世界に主と共に風呂に入る下僕がおる!だいたいお前は幼女趣味の変質者か!?」

「大げさに言うな、だいたい下僕じゃねえし。じゃあ入れよ。」

上着を持って奥の部屋に戻ろうとした。


「コラ、何処へ行く?」

「へ?どうせ風呂入れないなら先に飯でも…。」

「この愚か者が!主より先に食事する下僕がおるか!ちゃんと見張っておかんか!」


飯もダメだと!?

さすがに温和な俺もいい加減キレた。


「てめえ、いい加減にしろ!別に下僕になったわけじゃねんだぞ!だいたい見張りなんざ必要ねえだろ!俺とあのじいさんくらいしかいねえよ!」

「貴様!わらわの下僕になれるのが、どれだけの名誉と幸運かわかっておらんのか!?」

「やかましい、バカ!」

「ゴリラになれ~、ゴリラになれ~。」

そう言いながらマリアは手を変なふうにプラプラし出した。

どんな魔法だ!


「何を騒いどるんじゃ?…ひっ!」

え?

入ってきたじいさんのこの驚きようは…、まさか!

風呂桶の中を覗き込む。

風呂桶の中の水には黒い毛の塊に包まれたゴリラが映っていた。

「ぎゃああああ!!!」




「ふむ、いい気分じゃ。これ、ゴリラよ、もっと火を焚かんか。わらわは熱い方が好みじゃ。」

マリアは気持ち良さそうに桶の風呂に入っている。

俺は黙ってカマドに息を吹き込む。

息を吹き込む竹を握る手をじっと見る。

手は毛むくじゃらだ。

まあ、実際毛深いほうだけど、まさか本当にゴリラにされるとは思わなかった。

どうしよう。

「おい、そろそろ戻してくれない?」

「ふう、そろそろ腹が減ってきたのう。おい、あの老人に飯はまだかと聞いて来い。」

くっ…。


じいさんが小屋から出て来た。

「おい、飯の支度できたぞ。」

「おお、左様か、ならばそろそろ上がるか。ゴリラよ、タオルと召し物を持って来い。」

…はい。」

畜生、一生このままなら即、死んでやる。


「爺さん、服はこれ?」

脱衣所に入り、床の籠の中に小さい服を見つけた。

「そうじゃ。…それにしてもあの娘は本当に魔法使いなんじゃな…。」

じいさんは俺を見てしみじみ言った。


「まあな。俺も初めて見た時はびっくりしたよ。てっきりおとぎ話と思ってたからな。」

「いや、わしもそうじゃぞ。魔女や魔法なんて大昔の言い伝えじゃから。」

「言い伝え?」

「ああ、あの森に魔法使いが守り神の木を植えたという言い伝えじゃ。だからわしらの村ではずっとあの木を世話しとったんじゃ。」

「いつから?」

「少なくともわしが子供の頃からやっとったのは間違いない。」

「それって5、60年くらい前だろ!?じゃああいつ、ずっと昔から子供のままなのか!?」

「いや、あの木は確かに昔からあったが、中にあの娘がいたかはちょっと分からんからのう。」

「なるほどね、ずっと昔から木はあったけど、あの子は最近あの木のところに来たって事か。」

「ただ、言い伝えの魔女は赤い髪の女性だったらしいがな。」

「じゃあ、やっぱり…。」


「コラ、ゴリラ!召し物はまだか!?」

「あ、ああ!今持ってくよ!!」

じいさんの服を持って、マリアの元へ向かった。


「なんじゃあ、これは!?くさいぞ!?年寄りくさいわ!」

「こら!そんな事言うもんじゃねえぞ?善意で用意してくれたものに…。」

「こんなみすぼらしい服しかないのか!わらわのデリケートな肌にはシルクしか合わん。」

このクソガキ…。


「本当に申し訳ありません、魔法使い様。このような服しかご用意が出来ませんで…。」

じいさんは申し訳なさそうにあやまった。

「いやいや、ありがたいよ、じいさん。まったくわがまま言ってんじゃねえぞ、服をもらえるだけありがたいと思え!」


「こりゃ!魔法使い様になんて口をきいとるんじゃ。これ以上変なものに変えられるぞ?」

じいさんをかばったのに、逆に怒られてしまった。


「まったく、どうしようもない奴らじゃな。仕方ない、今はこれで我慢するが、街に着いたらすぐにでも代わりを用意するのだぞ?」

俺に言ってるのか、このガキャ。


マリアとじいさんは部屋の中に入っていった。

俺も風呂に入ることにした。

服を脱ぐと体中毛まみれだった。

本当にゴリラじゃねえかよ。

でも大事な所は…、見慣れた俺だ。

ちょっと安心。


毛だらけの体を洗ったら幾分スッキリしたが、お湯が泥まみれになってしまった。

「いやー、悪い。じいさん、ちょっと風呂は次入れないくらい汚れちゃったよ…。」

食堂に入ると、二人とも食卓に座っていた。

マリアはとても子供とは思えないくらい、食事をかっこんでいた。

というか、目の前に空の皿が山盛りなのは?

「おい、ちょっと。そいつどんだけ食ってんだ!?」

「ガツガツガツ!」

瞬く間に肉の塊が消えたと思ったら、パンが二個三個と口の中に入って、ワインでそれを一気に流し込んでやがる。


「おい!まてまてまて!ちょっと残せ、馬鹿!」

テーブルに近づいた時には、すでに遅く、空の皿しか残ってなかった。

「ふー、腹八分目というところじゃが、暴食も良くはないからな。このくらいにしておこう。」

「じいさん、残りは…?」

じいさんは申し訳なさそうに首を横に振った。


「ふざけんな!どんな胃袋してやがる!!いや、そうじゃねえ!残しておいてやろうとは思わんのか!」

さすがに堪忍袋の尾が切れた。

一生ゴリラにされようが知った事か!


「老人よ、わらわは体を休めたくなった。寝室へと案内せよ。」

マリアは完全に俺を無視して、大あくびをした。

「では、こちらへ。」

部屋の奥の扉が寝室だった。

「うむ、ではわらわは床につくので、きちんと見張っておけよ、ゴリラ。」

「言ってろ!勝手に寝てろ!」

マリアは部屋に入って行った。


あのガキがあ~。

さすがの俺も幼児虐待しちまうぞ、まったく。

それにしても腹が減った。

「なあ、じいさん。何か食べ物でも残ってない?」


「ああ、ちょっと待っておれ。保存用のパンが確かあったはずじゃ。多少硬いが何も無いよりはいいじゃろ?」

「ああ、助かるわ。もう二日も水だけだから。」

じいさんが奥から、箱に入ったパンも持ってきてくれた。

「うおーい、久しぶりの食い物だ。助かった!」

「本当は肉とかあったんじゃがな。あの娘はバケモノじゃな。わしの一週間分の食物が全部無くなったわい。」


「じいさんはあの木を世話してるって言ってたよな。つまりじいさんの村では誰かが世話係をするって事か?」

「そうじゃな、わしは身寄りもないからのう。あの木の世話をする代わりに他の村人から食料を分けてもらっとるんじゃ。」

「そうなんだ。大変だな。」

「まあ、今までずっとそうしてきたからのう、代々村の年寄りがな。あの木のおかげか村自体も飢饉などになる事もなかったからのう。」

「へえ、じゃあこの辺は豊かなんだ。」

俺は二個目のパンを口に運んだ。


「そうじゃよ。だからお主もわざわざこの辺に仕事を探しに来たんじゃろ?」

「そうそう。なんか働けるとこがあればいいんだけどね。」

「ここから少し行ったとこにあるアリアン城下街ならば仕事はあると思うぞ。この辺りを統治しておる領主のマードック様の城なんじゃが、しっかりとした方で領地の治安が行き届いておるから、多くの人間が集まっておるんじゃ。わしらの村が豊かなのもこのマードック様のおかげじゃ。」

「そんな領主がいるんだな。俺の居たところの野郎は自分の事しか考えてない奴ばっかりだったけどな。」

「まあ、普通はそうじゃろうがな。しかしお主、仕事よりあの魔法使いに仕えなくて良いのか?」


そうか、よく考えたら魔法使いの手下なんだから、普通の仕事なんかしなくていいのか?

見た目が幼女だから俺が養わないといけない気持ちになっていたけど。


「しかしあまりおおっぴらに魔法使いだと言う訳にもいかんしのう。」

「えっ?何で?」

「世の中が全てお主のような世間知らずなら良いがのう。昔ならいざ知らず、魔法が使えるような物は今ではまったくおらんのじゃぞ?悪用しようとする者もおるじゃろう。しかもあの魔法使いは見た目は幼いしのう。余計なトラブルを招くじゃろう。」

「そ、そうか。確かに…。」

じいさんに言われて不安になった。


「まあ、今はとりあえず休むことじゃな。明日にでも決めれば良い。ベッドは魔法使い様が使われておるからのわしは台所で寝る事にするわい。お主はそこの毛布を使え。おやすみ。」

そう言いながら、じいさんは台所にひっこんでいった。


確かに腹は膨れたら、眠くなってきた。

今日は大変な一日だった。

そう思ったら、すぐに眠気が襲ってきた。

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