コンゴウは幼女と遭遇。
「腹が減って死にそうだ…。」
コンゴウは一人でつぶやいた。
自分ならば川があれば魚を、山があれば鹿や猪を素手でとれる。
その辺の木の実やキノコでもいい。
そんなふうに余裕ぶっていたら、まさか遭難してしまうとは。
こんなに腹が減るまで何も見当たらない事は、コンゴウが20年生きてきた山を降りて初めての事だった。
今思えば、住んでいたあの山が懐かしい。
住んでいた時はなんて退屈なところだろうと思っていたが、今は恋しくてたまらなかった。
コンゴウが迷い込んだ森は、異常だった。
枯れ木ばかりが立ち、生き物の気配を全く感じない。
天気もずっと小雨が降り続けている。
水の心配だけは無いが、とにかく腹が減って仕方がなかった。
さっさとこの気味の悪いところを抜け出したいと歩き続けて、すでに丸一日が経っていた。
同じところをグルグル回ってるとしか思えない。
コンゴウはこの森に差し掛かる直前に出会った、謎の老人の言葉を思い出していた。
「ここより先に進んで戻ってきたものはおらんぞ…。」
そうなんだと思って引き返したつもりだったのに、なぜか迷い込んでしまった。
まるで森に誘われたかのように。
あの老人が言っていた事も、あながち信憑性があるのかもしれない。
いわゆる呪いってやつだ。
田舎に住んでいた時に物語で聞かされてたヤツだ。
完全に迷信と思っていたが、実際はあるのかもしれない。
そうなってくると今の俺の命は風前の灯火なのかと思ってしまった。
2m近い体格のコンゴウは体力だけが自慢だったが、さすがに地面に座り込んだ。
このまま無策に歩き続けても、体力を消耗するばかりだ。
どうすればいいんだ。
ん?
しゃがんでみると前方の茂みの隙間から赤い光が見えた。
幻覚か?とコンゴウは思った。
しかし隣の山の鹿の交尾まで見える視力を持つ男が見間違える訳が無い!
家か何かがあるんだ、助かった!
コンゴウは残りの体力をふりしぼり、立ち上がって光の方へ進んだ。
枯れ草といばらの茂みはコンゴウの身長よりも高く、よく光が見えたなとコンゴウは思った。
かき分けながら(人家ならもちろん良いが、死神の誘導灯だったかもな。)などと考えていると、いきなり視界が開けた。
そこは妙な場所だった。
周りは焼け野原みたいに地面がむき出しなのに、中央に青々と茂った大木が1本立っていた。
大木に近づいてみると、木の幹の下に小さな隙間があり、そこから光が漏れてる事が分かった。
しかし大木の根っこが邪魔をしていて入れないようになっていた。
(フン、甘いな。)
コンゴウは空腹と好奇心に後押しされて、丸太のような腕を根にからめて、無理やり根っこを引き剥がした。
力だけは子供の頃から負けた事は無かった。
根を剥がしてみると、石が階段のようになっていて、その奥が部屋のようになっていた。
光はその奥から漏れているようだった。
石の作りが人工的だった為、このあたりはこういう家が流行っているのだろうかと、コンゴウは思った。
コンゴウはあまり考えないタイプの男だった。
迷いなく階段を降りてると、中は思いのほか広く、石で作られた遺跡の玄室ようなだだっ広い空間だった。
その奥に祭壇のようなものがあり、光はそこから放たれていた。
何かが光っているようだった。
コンゴウが祭壇に近づいて、光の正体を見るとそれは人間だった。
それも幼い女の子だった。
赤い髪の毛が体全体と同じ長さで、とても美しかった。
年齢は5~6歳という感じの幼女が、裸で横たわっていた。
あまり物事を深く考えないコンゴウもさすがに、考えざるを得ない状態だった。
なんでこんなところに女の子がいるんだ?
そしてなんで光ってるんだ?
そもそも生きてるのか?
疑問が次々浮かんできたところで、腹が鳴った。
さっきまで家があるんじゃないかという期待感で忘れていた空腹感が戻ってきた。
しかし子供がいるという事は、近くに家族がいるのかもしれない。
コンゴウは淡い期待を抱いたが、どう考えてもこの状況はおかしかった。
普通の人ならあまりにもおかしい事なので、逃げ出すかもしれない。
しかしコンゴウは、あまり考えない上にお人好しだった。
なぜ光ってるかは分からないが、このままにしておく訳にもいかない。
コンゴウは幼女に声をかけた。
「おい…、おい…。」
ちょっと触って揺らしてみる。
触ってみると幼女は暖かかった。
(良かった、生きてる。)と安心した。
「おい、きみ。生きてるか?」
肩を掴んでどんどん揺らしてみるが、起きる気配はない。
よっぽど熟睡してるんだな。
「おーい、起きろって、どうしてこんなところにいるんだ?」
寝ているだけと分かったら、安心した。
しかし逆になんでこんなところで寝てるのかが心配になった。
もしかして、家出か、誘拐か。
こうなってはこの子を起こさない事には分からない。
コンゴウはより強く揺さぶった。
「おい、きみ!起きろ!」
しかしまったく起きない。
「おい!大丈夫か!」
肩を掴んで思いっきり揺さぶってみた。
その瞬間、コンゴウの右手に炎が灯った。
あまり物事に動じないコンゴウも驚いた。
「うおおおおお!!!」
すぐさま手を振り回してみたが、一向に消える気配がない。
幸い幼女には燃え移ってはないみたいだったが、手の炎はどんどん大きくなって、全身に広がった。
「うぎゃああああ!!!」
こんなところでいきなり焼死するとは思わなかった。
コンゴウの意識は遠くなった。