嘘つきはドロボウの始まりだよ!
フリーター歴3年。高校を卒業して、大学や専門学校には進学せず、僕はフリーターをやっている。就職という話もあったが、僕はそれを拒否した。僕が、真面目に働けるとは思っていなかったし、なにより高卒ではきっと一生良いように使われると思ったからだ。
進学については、純粋に頭が悪いため考えては居なかった。それに、学費も馬鹿にならない。我が家のようなビンボーな家庭には年間100万円以上もの大金をどぶに捨てる訳にはいかないのである。
そう、ここまででわかるのは、僕がクズであるということである。色々な言い訳を繰り返し、現在のような有様である。僕自身は、この世に唯一無二の無敵なスーパーフリーターくらいには思っているのだが、世間とのギャップはなんとも埋め難い。
僕の、日課は本屋にいくことだった。最近の本屋は、町の本屋というものはめっきり減っている。大抵、駅前か駅の中に大きな本屋が入っている事が多い。そもそも書店と本屋の違いって何だろうか。まぁ、そんなことは詳しく考えたとしても、結局は「同じ」とかそんなところに落ち着くだろう。故に考えない。
僕は、本が好きだった。本を読むと色々な発見ができるし、考えさせられる。なかなか、自分一人では考えもつかない事を世の中には考える人がいるもんだと毎度思い知らされる。まぁ、だから本を出版しお金になるのだろうけど。
本を選ぶ基準は人それぞれだが、僕はタイトルで選ぶ癖がある。ただ、それ故なのか外れも多いような気がする。こないだ買った本は、なんだか法律について書いてるらしかったのだが、どうにも作者の愚痴をまとめたようにしか見えなかった。奇抜なタイトルとその著者の人気にあやかっただけの本であったのである。
本屋の帰り道、僕は事件に遭遇した。女の人が怪しい男性におそらく教われていたのである。「おそらく」というのは、万が一合意の上での変態プレイだったということが僕の頭によぎったからである。もちろん、僕はクズなので何食わぬ顔で知らんぷりをしてその場は立ち去ったのである。むろん、後者の可能性を信じてね。
違う日の本屋の帰り道、僕は道ばたで倒れている人を見かけた。それは、男の人でスーツを着ていて、なにやら苦しそうに小さな声でうなっていた。どうして、そうなったのかはもちろん通りすがりの僕にはわからなかった。僕は、少々気になったのでその男の人に声をけけることにした。
「大丈夫ですか」
すると彼から返事が返ってきた。しかし、声が小さいため僕にはうまく聞き取れなかった。
「お……き……な……わ……」
断片的にしか聞き取れなかったのだが、「おきなわ」と言っていた。なるほど、沖縄に行ってる夢でも見ているのか。もしかしたら、この人はただの酔っぱらいで、夜遅くまで飲んでいて記憶がないのかもしれない。確かに今日は土曜日だ、それによく見ると顔も真っ青だ。きっと花金とか言って馬鹿みたいに飲んでいて二日酔いに違いない。自分以上のクズかもしれない。ならば、助ける義理はないなと思い僕は立ち去った。
さらに違う日の本屋の帰り道、僕は小学生が一人泣いているのを見つけた。もちろん、その場は立ち去った。
さらに違う日の本屋の帰り道、僕は立ち去った。
しかし、こんなめんどくさがりのクソ野郎でも人助けをしたことがある。それは、昨日の出来事だ。道を本屋の帰り道で聞かれたのである。たぶん、20歳くらいの大学生。とても可愛かった。化粧は濃くなく、身長も160センチくらいで、ワンピースがよく似合っていた。黒い髪の長い女性の中ではトップクラスであろう。この世にこんなにも可愛い人がいるものかと感心したくらいだ。生きていてよかった。聞いてきてくれて申し訳ないがこんなクソやろうでごめんなさい。と思ったくらいだ。
どうやら、東京への行き方がわからないとのことだった。僕は、自分の生き方がわからないから逆に教えてほしいくらいなんだけどね。
「えっと東京は、あの電車に乗ってあの駅で降りて、この電車に乗り換えれば東京に着くよ」
我ながらなかなかの名案内であった。しかし、それでも彼女はわからないと答えた。どうやら青森の奥地から出てきたらしく、土地勘が全くないとのことだった。なんと、美女で方向音痴とは。そういう属性の方なのだろうか。
しかし、僕は困った。確かに天下無双で唯一無二の無敵のスーパーフリーターで時間は、あまりあるほどあるのだが、その日に限っては残念ながらきつかった。夕方に放送されるロボットアニメを正座して見ないといけないからだ。僕は、ロボットアニメが特に好きだった。どうして、この世に自分で操作できる自然の原理原則を無視したあんなロボットが存在しないのかと落ち込むくらいだ。
「あの……もしよかったら東京まで送ってもらえますか……」
なんと、その絶世の美女が僕に上目遣いで東京までの同伴出勤を所望してきたのである。僕は、激しく興奮してしまった。いや、そんな上目遣いは反則ではないか。それで、断る男性は正直いないのではないかと僕は思った。
「いいですよ」
僕は、ニッコリとスマイルを彼女に向けておくった。彼女も大変喜んでくれた。仕方がない。今日のロボットアニメは録画で我慢しよう。一応HDDには録画予約はしてあることだし。それよりもなによりも困っている人を助けない事には。人間のクズでも人助けはできるのだということを、どこかの神様に見せつけておかないといけないのだ。見ておれ、なんとか神よ。僕の実力を。
「それでは、行きましょうか」
僕は、彼女をエスコートして電車の構内に向かった。
切符売り場についた。僕は、東京までの料金を確認した。なるほど。580円ばかし、かかるらしかった。手持ちは、2,000円札が一枚。正直厳しかった。修羅であるスーパーフリーターの僕であってもさすがにこの金額は死活問題であった。しかし、僕の真横にいる困っている彼女の前で恥をかくわけにはいかなかった。でも、躊躇している自分がいた。
「あの……、せっかくついてきてもらうんで、あたしが電車代は出しますから。さすがに悪いんで」
そういって、彼女は僕に電車代金を聞いて、切符を買ってきた。いや、僕は買おうと思ってたんだよ。君が買ってきちゃったのが悪いんだよ。ははは。
「あの……お仕事とか何してるんですか」
いきなり、電車で隣同士座っていると彼女が話しかけてきた。
「ぼ、僕ですか。あー、建築関係ですかね。あ、といってもこう現場作業じゃなくて設計のほうで」
「あ、じゃあ将来的には建築士とか目指している感じなんですか」
「まぁ、そんな感じですかね。いま、建築事務所で働いているので、資格自体はもう持ってるんですよ」
大見栄をきったのであった。
「ええーじゃあ、もうもしかしてあたしよりも年上なんですか?」
「25……ですかね」
また、嘘をついた。
「ええー!結構いってますね。てっきり、21歳くらいであたしと同じくらいだと思っていたんですよ。あ、ちなみあたしは21なんですけどね」
ほほう。どうやら彼女は、同い年らしかった。しかし、既に僕は嘘をついているため、に同い年にはなりえなかったのだが。
「彼女とか……いるんですか」
いきなり、直球が来た。フルスイングしたい気分だった。
「いや、こないだ別れちゃったんですよね……残念ながら」
21年間彼女がいないですが何か。変化球待ちの僕は見送ってしまった。
「そうなんですか。聞いちゃいけない質問でしたかね。きっといい人見つかりますよ。なんだかすいません。」
そういうと、彼女は少々落ち込んだ顔を僕に見せた。
「いえ、そんな……全然。僕がフって別れたんで全然気にしてないですから。ははは」
そういうと、彼女は笑みを取り戻してくれた。よかった。
「そうでしたか。ははは。あ、ちなみにあたしも今いないんですよね。彼氏的な人」
見送ってしまったボールはどうやらボールの判定らしく、見送り三振は免れることが出来たようだ。
40分くらいだろうか。電車を乗り継いでようやく東京の駅に到着した。
「着きましたね」
僕は、彼女に言った。
「そうですね……」
なんだか、彼女は浮かない表情を浮かべていた。
「どうかしました?」
僕は、彼女を気遣った。
「実は……こんな遠くまで来てもらって悪いんですが、行かないと行けない場所が地図を見てもさっぱりわからなくて。いや、東京着いたら違う人に聞こうかと思ったんですが、あまりにも優しい人なのでもう少し、聞いちゃってもいいかなって思って……」
僕は、当たり前のようにドキッとしてしまった。そんな表情で「優しい人」なんて言われて喜ばない男はいないだろう。
「まぁ、乗りかかった船ですしね。沈没させるわけにはいきませんよ」
なんだか、柄にもない旨い事を言おうとして失敗している感はあったが、彼女は「ユニークなんですね」と言って笑ってくれた。可愛い人だ。
地図を見せてもらうと、正直僕もわけがわからなかった。しかし、彼女に、いや最愛のフィアンセに恥ずかしい所は見せられないと僕は知ったかぶりをした。
「ふむふむ……わかりました。こっちですよ」
「さすがですねー。建築士の卵ともなるとこういう、地図とかっていうのはやっぱり得意なんですね」
「もちろんですよ」
すっかり、建築士気取りだった。いや、正確には無敗無敵のスーパーフリーターなのだが。
しばらく歩いていると、なんだか怪しいホテル街を通っていた。僕は、少し焦った。地図を確認してみると確かにこっちであっているらしかった。地図には詳しくその辺の状況が書かれていなかったので気づかなかったらしい。
「あの……」
急に彼女が僕に話しかけてきた。
「どうしました?」
「ちょっと、歩き疲れちゃったんで、休憩がしたいかな……なんて」
彼女はモジモジとしながら僕に目配せをしてきた。どうやら、そのホテル街におけるホテルを指しているようだった。
「え」
開いた口がふさがらなかった。僕のようなクズにまさかこうも突然にあの瞬間が訪れるなんて。
「えっとあー」
僕は、かなり動揺していた。なんとも格好の悪かった。
「あの、あたしじゃ駄目ですか?そんなに魅力ないですかね……」
いえ!魅力100%ミルク120%です! 僕の頭の中は既にあんなことこんなことで一杯であった。彼女となんとかしてやりたい。そればかりが頭の中でバタフライを繰り返していた。
「じゃあ……」
僕は、そういうと彼女の手を握った。そして、誘導するかのように彼女と二人でホテルの入り口を目指して歩いた。
丁度、そのホテルの入り口付近に差し掛かった頃だろうか。声が聞こえた。
「サキ!」
すると、となりの絶世の美女がその声のする方向に振り返った。
「け、ケンちゃん!」
僕は、正直よく状況が飲み込めていなかった。け、ケンちゃん?
「サキどこいってたんだよ。待ち合わせの場所に居たのにいつまで経ってもこないから不安で来てみたら……。っかあんた誰?俺の彼女になんか用なの?」
そのケンちゃんという可愛らしい名前とは裏腹に、随分と強面の大柄なスキンヘッドの男は僕を睨みつけてきた。
「えっと……」
僕は、声に詰まった。
「ケンちゃん、この人は東京まで送ってくれた人なの」
この状況を察したのか、彼女が助け舟を出してくれたらしい。僕は、その助け舟にのり、頷いて同意した。
「で、その恩人が、どうして俺の彼女とホテルに入ろうとしてるんだよ」
確かにそうだ。ここは、彼女のナイスな対応に期待せざる終えない。
「そう、送ってくれるまではいい人だったんだけど、いきなりここを通ったら発情しやがって無理矢理連れてかれそうになっていたとこなの!」
急に彼女は叫んだ。俺は、動揺していた。
「なんだと。いい加減その手を離せや!」
そう言われると、確かに僕は彼女の手を握っていた。そして、手汗はダラダラだった。緊張は否めなかった。
「あ、いや……」
そして、次の瞬間、僕は殴られ、視界に落ちて行く映像に変わった。そして、僕は気を失った。
「ありがとーケンちゃん♡」
「んだよ。本当は駅のトイレの予定じゃなかったのかよ」
「ごめんごめん。ちょっと予定がくるっちゃってさ。で、コイツ金持ってた?なんか建築関係の仕事してるらしいよ。よくわかんないんだけど」
「あーコイツ?全然金持ってね。あと二千円冊一枚」
「えーウッソー」
「おまえ、お仕置きな。着いてこい」
そういうと、スキンヘッドは馬鹿そうな長い黒髪の手をひっぱりホテルの中へ連れ込んで行った。
僕は、目を覚ました。目を覚ますと既に当たりは暗くなっていた。誰かが気を利かせてくれたのか、僕はホテルの外壁に寄りかかっていた。顔面の痛さに気がつき、触ってみると当たり前のように痛かった。これは青あざになる気配が満点だった。
僕は、なにか盗まれていないか確認したところ、現金が無くなっていたがそれ以外のキャッシュカードや一万ポイント貯まったレンタルビデオ屋の会員カードなどは無事だった。
僕は、ちょっとした絶望感を感じていた。まさか、騙されるとは。しかし、今になって思うとあの女は標準語だった。なまりなど一切感じられなかったのだ。
「帰るか」
僕は、帰り道思った。建築士ってどうやったらなれるんだろう。なってみようかな。
すべてフィクションです。登場人物等はまったく関係ございません。ってか、東京駅付近の徒歩圏内にこんな場所ないと書いてて思いました笑。