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ひとヒラ

作者: 霜月黎夜
掲載日:2005/07/26

一応、二人は高校生だけれど……本当に高校生?

こんな会話、現実にするかなぁ?

 ふと、読んでいた文庫本から視線を上げ、

「…核が落ちてきたら嫌だなぁ」

 なんとなく呟いてみた。

 十分休憩の賑わしい教室で。

「は?」

 私の前、他人ヒトの席に我物顔で座る千夜ちやが怪訝な表情をした。

「なに? カク?」

 ウエーブのかかった小豆色の髪を揺らめかし、確認してくる。

「それって、原爆のコト?」

「…………嫌だよねー」

 別に同意を求める訳でもなく、単に気になったから口にしてみただけなんだけど……

「なに、急に?」

 千夜の眉間に深い皺が……

「本の読み過ぎなんじゃない?」

「んん?! どうして?」

 さっきの私の発言と本の読み過ぎと、どういう繋がりがあるんだ?

 首を傾げていると、千夜が頬杖をつきポツリと。

「核なんて、落ちる訳ないでしょ」

「千夜ちゃん?」

 ちょっと待って。どこから来るんだ、その自信は。

「どうして言い切れるのかなぁ?」

「なんとなく」

「なんとなく…って、何?」

 まあ、予想はしていたけど……やっぱり、なんとなくか。

「なんとなくはなんとなくよ」

「何それ…」

 曖昧な答え方につっかかる私。

 千夜は特に表情も変えず、無関心な眼差しをどこかへ向けていた。

結羽ゆはは、なんとなくを説明できるの?」

「……」

 ズバリと切り返されて、言葉に窮する。

 これも、予想していなかった訳ではない……

「……ごめんなさい。説明できません」

 私は眉をしかめ、頭を下げた。口許に手を当てた千夜は、くつくつ笑う。

「…でもさ、気にならない? 核…」

「別にィ」

「ニュース見てる?」

「さあ」

「その答え方はおかしいでしょ。見てる?」

「見てない」

 即答ですか……ちょっと落ち込むよ、私。

 そんな私をよそに、千夜は自分の爪を眺めたり弄ったりしている。

 千夜の爪は丁寧に手入れされてるから綺麗。羨ましい……って、私は面倒臭がってるから駄目なんだけどね。

「もう…現在いまの世界的な日本の立場は怪しいんだよ?」

「うん…」

「いつ潰されてもおかしくないの……あ、それは違うか。日本はイイ金蔓かねづるだから、潰すのは惜しまれるか……」

「……」

 腕を組み、首を上へ、横へ捻り、考えた。

「いや、待てよ……実際はどうなんだろう……やっぱり、潰されてもおかしくないのか」

 うん、と、独り納得し、視線を上げる。

「……なに、その哀れむような目は……」

 千夜の冷たい視線とまともにぶつかった。

「別に。若いのになぁ、と」

 思った事を偽りもせず、素直に零す。

「……千夜には、危機感とかないの?」

 先の言葉にはコメントせず、話を戻した。

「ないと言えば、ない。あると言えば、ある」

「何だよソレ……」

 またも、曖昧な答え。

「核だよ? 知ってる? 全部消えて無くなるんだって!」

「知ってる」

「じゃあ、もっと気にしてもいいじゃん! 本当に知ってるの? 全部だよ? 好きな本も映画も音楽も、何もかもだよ?!」

「そうだね」

 次第に熱が籠る私に、千夜は適当な相槌しか打たない。

「何にも無くなるとか、ありえないし……」

「そうね」

「今まで、文句言いながらも、平和に暮らしてきたのに、いきなり全部無くなるとか……耐えられない」

 乗らない千夜に肩を落とし、言い様のない不安に胸が締めつけられた。

「……全部だよ?」

「――――まるで、経験して来たかのように話すのね」

 依然、口許に手を当てたまま、千夜はその愛らしい唇を歪める。

「原爆が落とされたのは、あたしたちが生まれる前のコトなのに……」

 濃い紫色の毒が吐かれているようだ。

 それは、私を侵食し、苦しめる。

「でも……もし、落とされたら?」

 千夜の喋り方には、少なからず怒りを覚えた。

 それでも、私は声を荒げるのが嫌いだから、怒りを抑える。

「その時は、その時。受け入れるしかないんじゃない?」

「無理、だよ……」

 弱弱しく首を振り、千夜の視線から逃げるように俯いた。

「結羽。今、あたしたちがこんな討論していても、日本の立場は良くならないでしょう? 戦争が起こっても、あたしたちの力ではどうにもならないわ」

 静かに諭す声だけが、千夜の存在を大きくする。

「戦争を止められないように、核が落とされるコトも止められないわ。あたしたちは、消えるしかないのよ」

 ……消える?

 消えたら、どうなるの?

 ……怖い。

「政治家なんて、当てにならない。そうでしょ? 日本の立場が悪いのも、政治家がしっかりしないからでしょ? ……こんな事を言うと、こちらにも理由ワケがあるんだって言われそうだけど……」

 鼻から息を抜かす気配。

「結羽。あたしはね、日本の未来がどうなろうが、興味はないの。あたしはあたしが大事だから」

 頭に、千夜の手の感触が降る。緩慢な動作で、私の頭を撫でてくれた。

 その手が、すごく温かい。

「もちもん、結羽も大事」

 顔を上げると、柔和に微笑む千夜がいた。

「わかってくれる? 今が最高なの。どんなに嘆いても、人間は死ぬんだから……世界なんて、関係ない」

 ね?、と、小首を傾げる千夜。なんて、頼もしい存在だろう。

「……うん」

 私は小さく笑い返し、微かに潤んだ視界を晴らした。

「……なんか、千夜、達観してるね」

 思わず苦笑いをすると、千夜も呆れたように表情を崩す。

「我ながら、ね」

 二人でクスクス笑い合った。

 いま悩んでいたことが、バカみたいに思える。

「ね、結羽。死ぬ時は、空に向かって叫ぼうね」

「え? 何て?」

 一頻り笑った後、千夜が突然提案した。

「死んでも親友だー!!って」

「げ。恥っずかしー! そんなコト叫ぶの?」

「イケてるでしょ?」

 恥ずかしげもなく、にっと笑う千夜。

「くっさー…」

「親友は、そういう関係なの」

「えー?」

 妙な結論の仕方に、私は笑うしかない。

「約束。最高の臭いセリフでしょ? カッコよく行こ!」

 誇らしげに胸を張る千夜をじいっと見つめて、ひとつ頷く。

「……よし! 約束。絶対だよ? 逃げるなよ?」

「任せろ」

 グッと親指を立てる千夜を、私も真似る。

 ちょうどチャイムが鳴り、休憩時間の終わりを告げた。

 静まり返った教室で二人だけ……ん?

「――――って! 次、移動教室だったんじゃん!!」

「あ!」

 私の声に、千夜も目を丸くする。

「「やばっ!!」」

 私たちは慌てて教室を飛び出した。

 廊下に足音がこだまする。



 ……でも…でもね、千夜。

 やっぱり、怖いよ。

 消えるって、どういうことなんだろう……



読んでくれた人!

ありがとうございます!!

この短編は、弟(12)との会話から思いつきました(笑)…どんな会話しとんねん!って、感じですね(汗)

では、またどこかで…。


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― 新着の感想 ―
[一言] 面白いですね。最初のノリがいい。 でも、死んでも親友だー!!はクサイですよ(^_^;) てか、弟との会話ってどんだけ現実的なんですか!?
2008/03/09 01:07 退会済み
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