episode5
「くらえ! ガムガムのピストル! どかーん! ぐわー! 見たか! 俺の野望は誰にも止められねえ! 俺は裏山の山賊王になる! ……何コレ?」
パソコンのディスプレイに表示されている小山田の処女作「ツーピース」を読みながら、天音は呆れた表情を見せた。
そんな天音とは裏腹に、小山田は胸を張りながら自信満々に答える。
「どうだ、俺様のオリジナル小説「ツーピース」は! この小説が世に出回れば、きっと瞬く間に印税でガッポガッポ! さらに漫画化、アニメ化、ゲーム化とメディアミックスな展開でさらにお金がガッポガッポ! 金が手に入ったら、お前らにも美味いもん食わしてやるから期待しておけ! わっはっは!」
ガッツポーズを見せながら、小山田は力説している。その横で、良く分かっていない琴音がニコニコ笑顔で拍手していた。天音は、ハァと深い溜息をついた。
「何がオリジナル小説よ。こんなの、単なるあの漫画のパクリじゃない。こんな小説で本当に印税生活が出来るとでも思っているの? 馬鹿じゃないの? アホじゃないの? 豚じゃないの?」
「な、なんだと? これのどこがパクリだって言うんだ! 台詞だって、設定だって、キャラクターの名前だって変えているじゃないか! これは俺のれっきとしたオリジナル小説だよ!」
「変えているって言っている時点でパクリだって事分かりなさいよ! ちょっと設定を変えたくらいで、こんなのがまかり通るとでも思っているの? 本当におめでたい頭しているわね、こんな小説投稿したら著作権侵害で訴えられるわよ」
天音の言葉に、小山田は両手をあげ馬鹿にしたような仕草を見せる。
「はっ。やれやれ、お前はあのサイトの愚かな住人達と同じことを言うんだな。いいか? 民主主義にて成り立っているこの国にはな、表現の自由ってものがあるんだ。情報を得て、それを形にする為には表現の自由は必要不可欠な権利。ようするに、表現の自由は民主主義の根幹をなしているのと同義なのだ。この全ての国民に与えられた権利を、単なる一高校生であるお前がどうこう言えるとでも思っているのか?」
天音は、ハッと鼻で笑った。
「何が表現の自由よ。言葉の意味を履き違えているんじゃないわよ。表現の自由ってのはね、『特別の義務と責任』を持って行わなくちゃ駄目な事ぐらい分からないの?」
「な?!」
予想もしなかった天音の言葉に、小山田は驚く。
「国際人権規約第十九条第ニ項には、表現の自由の行使に対し『他の者の権利、国の安全、公衆の健康や道徳の保護の目的のため、一定の制限を科すことができる』と記載されているわ。この意味は、他の者の権利を侵害するような事に表現の自由は行使出来ないってこと。ようするに、おじさんみたいなパクリ野郎は許されないってワケ!」
「な、なんだとおおおっ!」
――ズガガガーン!
ビシッと天音に指を突きつけられ、小山田の頭上に敗北を示す落雷が落ちる。
「ぬ、ぬ、ぬ……。お、お前、どこでそんな難しいことを……」
「ふーんだ。こんなの、学校の教科書にだって書いてあるわ。高校生の一般常識ね」
「さ、最近の教科書にはそんな事まで……む、無念」
完膚無きまでに天音に言い負かされた小山田は、ガックリと項垂れ肩を落とした。
「てな訳で、こんなゴミ小説は消去消去っと♪」
そんな打ちひしぐ小山田を尻目に、天音は鼻歌交じりに「ツーピース」の小説ファイルをゴミ箱にドラッグ移動させる。
ファイル削除の確認
記念すべき小山田次郎の処女作「ツーピース」を削除しますか?
はい いいえ
「な?! ちょ、おい、おま! 何をする気だ? や、やめろおおおおおおおっ!」
天音の不審な行動に気がついた小山田は、声をあらん限りに叫び止めようと駆け寄った。だが、コンマ一秒の差で、天は小山田の悪行を許さなかった。
「ポチっとな」
→はい
「ぐわああああああっ!」
小山田の記念すべき処女作であり、総ページ数四百二十ページの超大作「ツーピース」は天音の手によってデリートされ、この世から完全に消滅した。南無……。