episode3
投稿した小説は『小説家になろう』のトップページにある、新着投稿小説欄に五分ほどのタイムラグをおいて記載される。このサイトを利用するリスナー達は、気になるタイトルや作者があれば、リンクを辿ってそのページまで飛ぶ事が出来るのだ。
サイトの利用者達は、今日も面白そうな小説が無いかチェックをしていた。とその時、彼らは気になる作者名を発見した。
小山田三郎。
その名前に、彼らは見覚えがあった。
「小山田……だ……と?」
「うわっ、小山田の野郎がまた投稿してやがる」
「あのパクリ野郎もこりねぇ奴だな。またこのサイトを炎上させる気か?」
名前を変えたはずなのに、リスナー達は小山田が投稿した事にすぐに気がついた。それもそのはず、小山田が前回投稿した時のハンドルネームは『小山田一郎』。そして今回のハンドルネームは『小山田三郎』。気がつかない方がおかしい。よくID申請が通ったものである。
小山田が前回起こした『小説家になろう大炎上事件』は、今でも2ちゃんねるで語られるくらい大きな事件だった。しかも事件が起きたのは、今からほんの10日程前。皆の記憶もまだ新しいのに、舌の根が乾く前に小山田がしょうこりも無く小説を投稿したのだ。当然数多くのリスナーが、小山田のページに殺到した。
他人の作品を堂々とパクり、しかもそれを自分のオリジナル小説だと言い張ってサイトを大炎上させた小山田。リスナー達は小山田に激しい怒りを覚え、サイト管理者も巻き込んで攻撃し、小山田はパクリ小説と共にこのサイトから永遠に消えたはずだった。その小山田が、名前を変え品を変え装いも新たに蘇ってきた。このサイトを利用する者にとって、これは由々しき事態であった。だが、彼らは小山田に対する怒りの反面、内心では期待もしていた。
小山田と言う悪を大義名分を持って真正面からパッシングする。共通悪を皆で攻撃する時の、あの一体感。それがたまらなく楽しくて仕方がなかった。
小説の数多くは、現実では起こり得ないような話が描かれている場合が多い。当然このサイトを愛用する彼らは、そんな非日常に飢えている連中ばかりだ。彼らは、小山田がまた何かをやらかすに違いないと大いに期待していた。小山田が起こす非日常と言う祭りに身を投じたかったのだ。
小山田のページまでやって来たリスナー達は、小山田が投稿した小説のタイトルを見た。そして次の瞬間、彼らは狂喜乱舞した。小山田が、見事彼らの期待に答えていたのだ。
『魁! 北斗ボール』
もうどっから突っ込めば良いのか分からない。
パクリの祭典が、今始まろうとしていた。