■承
天音と琴音が帰った後、小山田は電気もつけず、暗い部屋の中で一人パソコンを睨みつけ頭を抱えていた。
まさか、パクらずに小説を書くことがこんなに大変な事だったとは……。
小山田は頭をかきむしる。ただでさえボサボサの頭が、よりいっそうボサボサになりパイナップルのような髪型になる。
基本的に他人からパクる事しか考えてこなかった小山田にとって、一から物語を考えるのは始めての事だった。その上、今回は短編とは言え一週間と言う時間制限があり、なおかつ書き上げた小説を投稿して勝負をする事になっているのだ。小山田伝説は、まさに風前の灯。伝説の幕開けと共に幕は今降りようとしていた。
「あーもう! 悩んでも仕方ない! こんな時は気分転換だ!」
悩み始めてから五分しか経過していないが、集中力に欠ける小山田にとって一つの物事を五分以上悩み続ける事は不可能である。小山田は近くにあるリモコンを手に取にとると、おもむろにテレビをつけた。
「……次のニュースです。法人税約4300万円を脱税したとして、大阪国税局が法人税法違反罪で、和歌山市の製鉄機械設置・管理会社「落目機工建設」と落目はまる社長(64)を和歌山地検に告発していたことが30日に分かりました。追徴税額は重加算税を含め約6千万円とみられ……」
テレビでは、どこぞの社長が脱税したとして、とっ捕まったニュースが流れていた。いわゆるマルサに入られたと言う奴である。
「追徴税額は6千万円……。こりゃ首吊りもんだわ」
横になってせんべいをバリバリと食べながら、小山田が呟く。
とその時、小山田は何かを思い立ったのか、急に立ち上がると机の引き出しから紙と鉛筆、そして電卓を取り出した。
「確か、印税の相場はは定価の5%~10%。例えば、一冊1000円の小説がミリオンセラーになって印税が10%だとしたら、1000円×100万×10%=1億! その場合にかかる税金は、と……」
どうやら小山田は印税で儲けた後の、国に持っていかれる税金について考え始めたようだ。これぞ、取らぬ狸の皮算用。全く無意味な計算である。そんな暇があるなら小説を書けと言いたい。
「その場合、所得税が40%で、住民税が10%だとしたら、手元に残るのはたったの5000万……。かー! 半分も持っていかれるのかよ! こりゃ脱税したくなる気持ちも分かるわ! 何で汗水垂らして稼いだ金を国なんかに持っていかれなきゃなんねーんだ?しかもその金は、どうせ腐った政治家どもの懐に流れるんだろ? あー、アホらし! 馬鹿らし!」
小山田はベッドに倒れこむと、ぼんやりと天井を眺める。
脱税ねぇ……。アホだなぁ、見つかっちゃ意味無いじゃん。俺ならもっと会社を作ったり、経費で落としたりしてうまくやるけどね……ん?
小山田は、神妙な顔をしながらガバッと起き上がる。そして、ベッドから飛び降りるといつもの意味不明な舞を踊り始めた。
「見つかったら意味が無い。言い換えればそれは、バレないように上手くやれってことだ」
当たり前の事を、さも当たり前じゃないように独りごちる小山田。今、彼の頭の中にある2ビットマシンはフル回転していた。
「そうか! そう言う事か!」
小山田の口元に不敵な笑みが浮かぶ。
「くくく、見ていろよ天音。この新生小山田次郎が、絶対にお前をギャフンと言わせてやる! 首を洗ってまっていやがれっ!」