dokuduku(ドクヅク) dシリーズ3
「ふん。キミもしぶといもんだ」
相も変わらず偉そうにして。
「何がしぶといって?」
「だってなあ」
ここでヤツはこちらの手元に目をやり
「まだやめてないし」
「ああ、煙草か。こればっかりはね」
箱より抜き出した、今や高価な一本の煙草。だが、吸った経験もないヤツには言われたくない。
「やめる気がないのか? はたまた単に意志薄弱なだけなのか? ま、こっちには関係ないが」
そして相手は、カップにコーヒーを注ぎながら
「それで、さっきの話の続きなんだがね。部屋で二人きりでいて、その相手が自分に殺意を抱いていて襲ってきたとしよう」
それにしても好きだよねえ、講釈垂れるのが。
「はいはい」
「だがな、そんな素振りなんて気づくに決まっている。人間、そう易々とは殺されないし、抵抗するか逃げようとするか試みるものなんだ」
「そんなもんなのか」
これに数度頷くヤツ。
「だから、いとも容易く殺される巷の推理小説など、これっぽちも科学的じゃない」
あらら、自信満々だ。
「なるほどね」
そう答えた俺はその煙草を机の上放り、次の瞬間、予定通り相手に飛びかかった。
勢いで床に転がった二人だが、馬乗りになった俺は相手の喉に黒の手袋で覆われた二本の親指を食い込ませている。
「うぐっ」
「理屈ばかりを並べているが、大事な点が欠落しているんだよね!」
さらに力を注ぎ込む。
「ぐうっ」
「相手の心理状況すら読めず、いや無視して、どこが科学的……」
ここで、その首が大きく右に揺れた。
暫し確認した俺は、その面に吐いてやった。
「まずな、手袋をしたまま煙草を吸うのを不審に思わなくちゃな。第一、火なんて点けてないじゃん!」