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夢語り  作者: 石子
12/13

大冒険

 どうしようどうしよう。

 道に迷っちゃったみたい!

 リナちゃんの家がこっちの方角っていうのはわかるんだけどなぁ。でも背の高いビルがいっぱい立ちふさがってて、全然進めないの。

 だから、さっきはあっちの道に行ったんだけど途中に壁があったし、今の道は車が途切れずに走ってる道路にぶち当たっちゃった。ボクにはそんな大きい道路を横切ったりするなんてとても無理。

 疲れちゃったし、今歩いてても人間がたくさんいて見つかっちゃうかもしれないからビルとビルの隙間で座ってちょっと休憩。

 あーあ。夜にならないともう進めないかな。

 そう思って少しだけ様子を見ようと大きい通りの方に顔を出した時に、

「あー! ワンちゃんだー!」

人間の子どもに大きな声で言われちゃった!

 大変大変!

 ひとりで歩いてるのが見つかったら、きっと人間にどこかに連れてかれちゃうよね!?

 慌てて顔を引っ込めようとしたんだけど、それより先にボクの目の前を飼い主に連れられた犬が横切って行った。子どもはそっちを見てたみたい。

 ビックリしたぁ。

 ボクが見つかったんじゃなかったや。

 ほっとしてまた元の場所に座る。ここなら細くて暗い路地だし、じっとしてたら見つからない。

 それにしてもさっきの犬、毛並みもきれいでお洋服も可愛かったなぁ。

 そう思って自分を見たら、なんだか悲しくなっちゃった。

 ……リナちゃんがボクのこと捨てたのは、自慢だったボクの茶色いクルッとした毛がボサボサになっちゃったからかな。

 今なんてさらに汚れて、毛がからまっちゃってるもん。

 ……ダメダメ。そんなこと思ってたらどんどん悲しくなっちゃう。今はリナちゃんのところに戻ることだけ考えよう。

 もうかなりリナちゃんの家に近付いて来てるはずだもん。

 暗くなるまで休んでから頑張ろう。




 あ! あった! あそこあそこ!

 やっとビルばっかりのところから抜け出したと思ったら、雨が降ってきちゃって足を取られて進まないし、大変だったぁ。

 でもでも、やっとリナちゃんちまで戻って来たよ。

 少し前まではあの二階の窓から外を見てたんだよね。

 もうちょっともうちょっと。


 びしゃ


 雨で濡れて重くなった足を引きずるようにして歩く。

 人気のない住宅街。向こうから人間が一人歩いてきた。

 隠れなきゃって思ったんだけど、すぐにわかった。隠れる必要なんてないや。その人間はリナちゃんだったんだから。部活で帰りが遅くなったんだね。

 ボクに気付いてくれるかな。お帰りって言ってくれるかな。

 そう思ってたら、リナちゃんが、ボクがリナちゃんの方を見てたたずんでいることに気付いたみたい!

 信じられない、って感じでこっちを見てる。ボクの方に来てくれるかな。

 ……でもリナちゃんは後ずさるような仕草をした後、

「やだ。来ないで!」

ってボクに言い置いて、走って家の中に入って行っちゃった。

 やっぱりリナちゃんはボクのことが嫌いになっちゃったんだね……。

 なんでかな?

 ボクが泥で汚れて汚くなっちゃったからかな。


 びしゃ


 縫い目がほどけて片腕がとれちゃったからかな。


 びしゃ


 縫い付けてあった目も取れかけてぶら〜んって垂れ下がってるからかな。


 びしゃ


 そもそもヌイグルミのボクのこと、いらなくなっちゃったんだよね。

 わかってたよ。


 びしゃ


 家のドアまでもう数歩。


 びしゃ


 でもいいんだ。本当に良かった。ここまで帰って来れたんだから。


 びしゃ



 リナちゃんを呪い殺すためにね。



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