一週間の作業、1垓の試行
――一週間が経過した。
思考を極限まで加速させた俺にとっては短いようでとても長い時間だった。 『エンド』の最深部を埋め尽くすのは、もはや魔物の気配ですらない。ただの「作業場」だ。
虚空から、一度に10,000体の擬似魔物が「製造」され、そのまま足元に敷き詰められた「真理の炎」へと自由落下する。 咆哮も、肉が焼ける音すらもしない。 ただ、炎に触れた瞬間に存在が消滅し、雨のように降り注ぐスキルオーブが、俺の権限へと吸収されていくだけだ。
「累計は、どれくらいになった?」
『はい、ノイン様。累計生成数は「1垓」に達しました。この世界の全生命体が、数万年かけて獲得し得るスキルの全パターンを網羅。さらにそれらを統合し、現在、ノイン様のスキル欄に存在する全権限は、世界の理そのものへと昇華されています』
1垓。 一、十、百、千、万……億、兆、京、そして垓。 もはや人間が扱うべきではない、システムの限界を超えた試行回数。 最初のうちは一匹ずつ観察していたが、今となっては、魔物の命はただの「数」でしかなかった。
「……飽きたな。もう、この世界から引き出せる『新しいコード』はないか」
今の俺のスキル欄には数え切れないほどのスキルに加えてオリジンが合成した本来この世界に存在しないスキルも多数ある。少し前の俺が構築に数分を要していた初級補助魔法ですら今の俺なら瞬きする間に1億以上発動することができる。
『肯定。現状の『エンド』の環境下で、既存の魔物コードを基に生成できるバリエーションは、すべて回収済みです。これ以上の継続は、同一データの重複による時間の浪費と判断します』
「そうか。じゃあ、切り上げるか」
俺が立ち上がると、一週間、一度も途絶えることなく燃え続けていた「影のない炎」を消した。 1垓回という殺戮を繰り返したはずの俺の体は、返り血一滴どころか、埃一つついていない。
「さぁ、行こうか」
その言葉と共に俺は指を鳴らした
目の前の景色が一瞬で切り替わる 視界を埋め尽くしていた無機質な岩盤は消え去り、代わりに目に飛び込んできたのは、眩しいほどの新緑と、どこか物悲しく鳴り響く鳥の声だった。
「久しぶりに入口まで来たな……オリジン、早速だがステータスを隠蔽してくれ。」
『了解しました、マスター。現在、ノイン様の膨大な情報を既存のステータスシステムに受理可能な数値へと圧縮……隠蔽パッチを適用します』
オリジンの冷静な声と共に、俺の全身を淡い光が包み込む。 1垓という気が遠くなるような試行回数の果てに得た、神の領域に等しい力。それを今の世界が観測可能な「Cランク冒険者」程度の器へと押し込めていく。
「……よし。これでステータスは問題ないな。」
俺は自分の手を開閉し、その感覚を確かめる。 隠蔽パッチによって、俺のステータスは「Cランク程度の凡夫」として固定されている。だが、それはあくまで『見え方』の話だ。
俺の指先には、今も一垓の試行で最適化された破壊の権限が、いつでも発動できる状態で渦巻いている。
「さて、早速街へ向かうか。せっかくだしあいつらの……勇者の「今」を見に行くとするか。」
第3話を読んでいただきありがとうございます!
続きが気になる!と思ってくださった方は、ぜひブックマークをお願いします。
※4話以降、受験勉強との兼ね合いで更新が不定期になりますが、4月以降にまた一気に加速させる予定です。ぜひお気に入り登録して続きをお待ちください!




