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第1章 風鈴の祈り  第3節 目覚めの土佐

目を開けた瞬間、眩しい光が真白の瞳を刺した。


――眩しい。

――暑い。


乾いた風が頬を叩き、土と草の匂いが鼻をついた。

地面は硬く、ざらざらとしている。

背中には砂が貼りついていた。


「……ここ、どこ?」


身体を起こすと、視界の端に黒い煙が立ち上っているのが見えた。

山の向こうで、何かが燃えている。

空は濁った灰色で、耳の奥には金属がぶつかるような音が響いていた。


――カン、カン、カン。

――ドン。


音が近づいてくる。

まるで、地鳴りのようだった。


「夢……じゃないの?」


真白は足を見下ろした。

スカートの裾は泥で汚れ、膝には擦り傷。

痛みも、汗も、風の熱も、すべてがあまりにも“本物”だった。


遠くで叫び声が上がった。

甲冑の音。怒号。泣き声。


真白は反射的に立ち上がり、逃げ出した。

木々の間を駆け抜け、息が切れる。

だが、すぐに足がもつれて転んだ。


「いっ……!」


膝に走る鋭い痛み。

その拍子に、鞄が地面に転がり、風鈴が草むらの中に落ちた。

「ちりん」とかすかに鳴る。

その音が――たった今までいた“現代”の名残のように響いた。


けれど、次の瞬間。


「そこな者、何をしておる!」


怒号が背後から飛んだ。

振り返ると、鎧に身を包んだ男が立っていた。

日焼けした顔、鋭い眼光。腰には長槍。

彼の後ろには、血にまみれた兵たちが数名――。


「……コスプレ?」

口をついて出たその言葉に、男は眉をひそめた。


「何を申す! 敵の間者か!」

「ま、間者!? えっ、ちょっと待って!」


男は槍を構え、真白に詰め寄る。

恐怖で足がすくみ、声も出ない。

どうして、こんな……。


「殿!」

別の男の声が響いた。

若い侍が馬に乗って駆け寄ってくる。

彼は真白を見て一瞬、息を呑んだ。


「……まさか、殿……?」


その目が揺れていた。

信じられないものを見るような、複雑な光。


「ち、違います! 私、殿じゃなくて!」

「声まで……いや、しかし……」


男たちは顔を見合わせ、ざわついた。

真白の目の前で、世界が急速に現実味を帯びていく。

鎧の光沢、血の臭い、馬の息づかい――。


「ここは……どこ?」

「土佐じゃ。阿波との境にて戦が始まったばかりよ。」


“土佐”という言葉に、真白の頭が真っ白になった。

歴史の授業でしか聞いたことのない地名。

それも、何百年も昔の。


「そんな、まさか……」


ふらりとよろめいた真白を、若い侍が支えた。

その手の温もりが、現実を突きつける。


「久武……久武親信と申す。殿、本当に……お戻りになられたのか?」


「ひ、さたけ……?」

その名を繰り返すうち、真白の胸の奥で風が鳴った。


「違う……私は、そんな名前じゃ――」


言葉を最後まで言う前に、空から轟音が響いた。

砲煙の匂い。火の粉が木々を舐め、馬が嘶いた。


「敵襲だ! 退け!」


久武が叫ぶ。真白の手を掴み、強く引いた。

その瞬間、足元の地面が爆ぜた。


視界が光に飲まれ、耳鳴りが世界を覆った。


……


……風鈴の音がかすかに鳴る。

泥の中で、青いガラスが陽を受けてきらめいた。

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