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2.私の自己紹介

 そろそろ私の自己紹介をしておいたほうが良いだろう。何せ憶測や推測を交えた説明でモヤモヤどころか呆れられては困るというものである。私は或るコンピューターシステムのロギングを担うサブシステム、そのAIである。要はコンピューターの動作を記録しているに過ぎないが、その実体は寡黙で忠実、事実をこよなく愛する正直者、または正義の味方なのである。


 さて、そんな私が彼の夢がどうのと語っているのは、私の使命である『記録』することに尽きるだろう。冒頭でも述べた通り医療に特化している私は只管忠実、彼に行われている医療行為を記録している。それは謂わば船長が航海日誌をつけるようなものである。そこで私の全能力を駆使して彼にまつわる有りと有らゆる事象を記録している訳であるが、記録というものは後になってから確認するために存在するのであるから、ただの数値や文字の羅列では埃を被ってしまうといもの。それに事実の記録だけでは、何故そうしたのかなどの根拠などが埋没しがちである。せっかくの情報をより生かすため全ての事象と根拠、ついでにその時の医師の心情なども付加して後世に残すのが『私の使命』である。


 少し時を遡ってこれまでの経緯を説明しておこう。三ヶ月ほど前、不慮の事故により病院に搬送された彼はその時から現在に至るまで病院のベッドで昏々(こんこん)と眠り続けている。そして意識不明の重体のまま一度も意識は戻ることなく、彼は遷延せんえん性意識障害、つまり植物状態と診断された。彼の身の上に起きた『不慮の事故』について詳細は述べないが、そのとき彼はデート中であったようだ。そんな幸福の一時から一瞬で奈落の底に突き落とされ、今まさに暗闇の世界を彷徨っている状態である。


 病院に担ぎ込まれた時、いの一番に駆けつけたのは彼の母親である。どうやら母子家庭らしく一人息子の一大事とあってかなり取り乱していたことを記録している。——デート中なら彼女はどうしたのだろうか? その疑問には『彼女は一度も病院に姿を現したことがない』、つまり一切の記録が存在しないので私には答えようがないのである。それに個人情報保護により彼とその医療関係以外の件についてはそもそも記録されないことになっている。

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