表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/56

6話

 部屋のスピーカーから流れるサビが終わると、マイクを持っていた女子がひと呼吸ついた。

 曲が終わった瞬間、静まり返る。いや、俺の頭の中だけが。


(う、うますぎんだろ……)


 俺は絶句していた。ガチで。

 この女の子、ギャルっぽい見た目してるのに、今の歌――まじでプロじゃねえの?ってレベル。

 高音の伸びもすげぇし、リズムも外してねぇ。声も艶がある。何あれ。


 彼女――名前はたしか七海って言ったっけ――はマイクをテーブルに戻すと、こちらを見てにこっと笑った。

 自信満々で、挑発的な表情。


「どう?」


 声も可愛い。やばい。なんだこの人。


「……」


 返事ができなかった。口が開いたままだった。頭が処理追いついてない。


 その横で、咲が拍手しながらのほほんとした声を上げる。


「ななちゃん、ほんと上手~。なんかライブ行った気分になったかも」


「えへ、ありがと~。でもちょっとだけ緊張したかもー」


 なんだこの空間。俺が入ってていいのかこれ。


 ていうか、どうして俺は女子二人とカラオケボックスにいるんだって話だ。

 状況を整理しよう。




 ──きっかけは、あの一言だった。


(……次の歌、もっとちゃんと歌わねぇと)


 あの日、誰もいない廊下の踊り場で俺が漏らした独り言。

 まさか、あんなところで聞かれてたとは思ってなかった。


「ねえ、それ、どういう意味?」


 振り返ったらそこにいたのが、七海だった。

 明るい金髪に近い茶髪。制服のスカートは短くて、ネイルもばっちり。

 だけど目つきは鋭い。というか、観察力あるタイプだって、会ってすぐわかった。


「いや、なんでもねぇよ」


「嘘。歌のことだよね? 次の歌って言ったよね? 誰かとデュエットするとか? カラオケ大会とか?」


「違うって、そういうんじゃなくて――」


「スマホ見てたよね?」


「え?」


「投稿サイトとか、開いてなかった?」


 うっ。

 心臓がドクッて跳ねた。顔が引きつるのが自分でもわかった。


「なんで、それ――」


「だって、歩きながらスマホ見てて、明らかに更新ボタンみたいなの押してたし、ページが白地でちょっとだけ見えた。上の方に再生って字あったもん」


(なにその観察力)


「しかも、ひとりでもっとちゃんと歌わねぇととか言う? やってる人じゃん、絶対」


 俺は完全に詰んでた。

 心臓の音がうるさくて、声なんか出せる状態じゃなかった。


 そんな俺の反応を見て、七海はニヤッと笑う。

 その笑みが、完全に「図星だね」って言ってる。


「てかさ、咲と最近、仲いいよね?」


 唐突に話題を変えられて、思わずまばたきした。


「……いや、別に。そんなでもないけど」


「ふーん。でもよく話してるじゃん。廊下とか、昇降口とか」


(見られてたのか……)


「いや、なんかたまたま、そういうタイミングが多かったってだけで」


「へー? たまたま、ねぇ」


 七海の目が細くなる。

 からかってるような、探ってるような、でもどこか楽しそうでもある。


「でも、咲が他の男子と話してんの、あんま見たことないけど?」


「……そうなん?」


「うん。あの子、わりと人見知りだからさ。男子とは特に」


「……まあ、たまたま」


 七海はその返事に「ふーん」とだけ返して、スマホを操作しながら歩き出した。

 俺はなんとなく並んで歩いてしまって、流れで一緒に昇降口まで来ていた。


「でさ」


 靴箱の前で、七海が振り返る。

 軽く髪をかき上げながら、いたずらっぽい目を向けてきた。


「今日、咲とカラオケ行こうと思ってたんだよね。よかったら、一緒に来ない?」


「は?」


「ほら、ちょっと気になってるんだよ。歌、どんな感じか」


「……」


「別に、歌えとか言わないし。聴き専でもいいからさ。ね?」


 そのタイミングで咲が昇降口に現れた。

 俺に気づいて、小さく会釈する。


 七海がちらっと視線を向けて、にっと笑う。


「咲もいいってさ。行こ?」


最後まで読んでいただきありがとうございます!

よろしければ☆で応援してもらえると、とっても嬉しいです٩(ˊᗜˋ*)و

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ