46話
昼休み、購買のパンを片手に廊下を歩いていると、前方の曲がり角で声がした。
聞き慣れない女子の笑い声。たぶん隣のクラスのやつらだ。
そのまま通り過ぎようとした時。
「この前さ、白川さん泣いてなかった?」
歩く速度が勝手に遅くなる。。
「え、うそ」
「ほんと。トイレで見たんだって」
「えー……白川さんってあんまりそういうとこ見せないじゃん」
「だからびっくりして。目がすごい真っ赤だったみたいでさ」
「へぇ……何があったんだろね」
パンの袋を握る手に力が入る。
別に聞き耳を立ててるわけじゃない。だけど、耳が勝手に拾ってしまう。
気づけば足が止まりかけていて、後ろから来た男子に軽く肩をぶつけられた。
「あ、悪い」
男子はそう言ってすぐ行ってしまった。そのおかげで思考が段々と戻ってくる。
関係ない。
そう自分に言い聞かせ、購買帰りの生徒に紛れるように歩き出した。
そのまま教室に戻ればいいのに、曲がり角を過ぎても女子たちの声は耳の奥に残っていた。
昨日、廊下で見かけた玲奈の固い表情が勝手にその話と重なる。
見たわけでもない泣き顔が、頭の中で勝手に形を持ち始めるのが嫌だった。
教室の前まで来ると、ちょうど咲が席から顔を上げた。
「あ、智也くん。パン買ってきたんだ」
「……ああ」
「なんか……顔こわいけど、大丈夫?」
「ん? ああ、欲しいパンちょうど目の前で売り切れたんだよ」
なるべく短く聞こえるように返して、自分の席にパンを置く。
袋を破る手が少しぎこちない。
「カレーパンにしたんだ。前食べたけど結構辛くて大変だったんだ~」
「マジか」
一口食べてみるとスパイスがしっかり効いててたしかに辛い。
でも、咲の言うほどではない。ちょうどいいくらいの辛さでむしろ思っていたよりも美味い。
「咲は舌がおこちゃまだからね」
「もうななちゃん」
咲と七海のからかうようなやり取りを見ながらも、結局さっきの会話が頭から離れない。
その考えを振り払いたくて、ふたりの会話に入って一緒に咲をからかって笑うと少しだけ気分が軽くなった。
放課後。
鞄に教科書を詰めていると、廊下の奥から男子の笑い声が聞こえてきた。
何気なく耳を向けた瞬間、声のトーンが妙に低くなる。
「なあ、田中先輩、昨日ヤバい動画見せてきたんだけど」
その一言で、手が止まった。
「え、マジ? どんなやつ?」
「スマホでさ、ほら……ちょっとだけ。名前までは言わなかったけど」
「ふーん……」
「でもさ、制服がうちの学校っぽかったんだよな」
「おお……そういうやつ?」
男子の片方が声を潜める。
「顔はほとんど映ってなかったんだけどさ。スタイルめっちゃよくてクソエロかった」
「マジかよ。俺も見てー」
「頼んだら見せてくれるかもよ」
それから小さく笑いが上がるのが聞こえた。その笑い方がいやに生々しくて耳に残った。
「それ……誰だと思う?」
「いやー……そこまではわかんねーけど」
「だよなー」
二人は肩をぶつけ合って笑いながら、廊下の先へ歩いていく。
鞄の中の教科書を乱暴に押し込む。
制服がうちの学校、顔ははっきり映ってない。
たったそれだけの情報なのに、頭に最初に浮かんだ顔を振り払えない。
気づけばため息が出ていた。
「……智也?」
顔を上げると、七海が廊下からひょいと顔を出していた。
「おー、いたいた。何してんの」
「いや……今行く」
「早くしろよー、咲待ってるし」
二人の男子が歩いて行った先をチラリと目をやって、すぐに七海のもとへ向き直る。
鞄を雑に肩へかけて足を早めた。
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