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5話

 昼休みの教室は、無駄に明るくて騒がしかった。

 机に突っ伏してスマホの画面を見てるふりをしながら、俺はため息をついた。

 最新の投稿にコメントが1件ついていた。

 本当なら喜びたいところだけど、内容がそうさせない。

 「腹から声出せヘタクソ」

 匿名の誰かのコメントが深く突き刺さる。


(……まあ、そんな簡単にうまくいくわけねぇか)


 自分で自分にそう言い聞かせた。

 けど、胸の奥の重たいものは消えてくれなかった。


 そのとき、机の横に人影が立った。

 ギッと椅子を引く音。俺の横に腰を下ろすのは佐伯だった。


「よっ、朝倉~。元気してっか?」


 その軽い声に、思わず顔を上げると、佐伯の後ろにいつものメンツ、中村と斎藤が立ってた。


「おーい、朝倉、お前さ、玲奈にフラれたってマジ?」


 その一言で、胸の奥がズクンと痛んだ。

 心臓を指先で押されたみたいな感覚。

 みんな笑ってた。悪意っていうより、ただのノリだ。たぶん。


「……まあ、そんなとこだな」


 できるだけ軽く答えたつもりだった。

 けど、声が少しだけ掠れてた。自分でもわかった。


「うわ、マジかー! やっぱりなー! だってさ、田中先輩に勝てるわけねーだろ」


 佐伯が大げさに肩をすくめて笑った。

 中村も斎藤も「だよな」「そりゃそうだ」と続く。


(……分かってるよ、そんなこと)


 声に出さずに、心の中で呟いた。

 机の下で拳を握りしめる。爪が手のひらに食い込んで痛い。


「でもさ、朝倉、玲奈と付き合ってたとき、めっちゃ調子乗ってたよな」

「お前のくせにリア充気取りかよ」


「いや、マジでおもろかったわ~」


 ゲラゲラ笑う声が、耳の奥で反響した。

 悪意じゃない。ただのノリ。ただのからかい。それくらいわかってる。


 でも、わかってても、悔しかった。

 情けなくて、胸がギュッとなった。


「……そっか。悪かったな」


 ヘラヘラ笑って返した。

 その笑顔が引きつってるの、自分でもわかった。


 佐伯が俺の肩をポンポンと叩いた。


「ま、元気出せよ! 朝倉にもいいとこあるって、多分」


「うるせーよ」


 冗談っぽく返して、机に突っ伏した。


 笑い声が遠ざかっていく。

 なのに耳の奥には、いつまでもその声が残ってた。


「田中先輩に勝てるわけねーだろ」

「お前のくせにリア充気取り」


 頭の中で何度もリピートされた。

 机の下でまだ拳を握ってる自分に気づいた。


(クソ……なんで、こんな……)


 顔を伏せたまま、深呼吸した。

 喉の奥が苦しくて、息が詰まった。


 それでも、昼休みのチャイムが鳴るまで、ずっとそのままの姿勢でいた。

 誰にも顔を見せたくなかった。


 授業が始まっても、黒板の文字なんて目に入らなかった。

 ノートを開いて、ペンを動かしてるフリだけ。

 頭の中はずっと、佐伯たちの言葉で埋まってた。


(見返してやりてぇ……)


 その気持ちがどんどん強くなった。

 でも、どうしたらいいのかわからなかった。


 授業が終わるチャイムが鳴った瞬間、勢いよく席を立った。

 誰とも目を合わせずに、教室を飛び出した。


 廊下を歩きながら、スマホをポケットから取り出した。

 投稿ページを開く。更新ボタンを押す。

 数字は変わらない。


(……くそっ)


 小さく吐き捨てて、スマホをポケットに戻した。

 そのまま人気のない階段の踊り場に腰を下ろした。


 じっと拳を見つめる。

 赤くなった爪の跡が、手のひらにくっきり残ってた。


(……次の歌、もっとちゃんと歌わねぇと)


 ぼそっと独り言が漏れた。

 見返したい。あいつらに。玲奈に。田中先輩に。


 心の奥に、悔しさの炎が小さく灯った。


(俺は……絶対に、見返してやる)


 その決意だけが、今の自分を支えてた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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