44話
日曜の午前十時。
駅前のロータリーは、休日らしく人が多い。カップルや買い物袋を持った家族連れの間をすり抜けながら、集合場所の時計台に向かう。
私服で外に出るのは普通なのに、今日はやけに落ち着かない。
ましてや、咲と七海と三人で会うのは初めてだ。
しかも平日とは違う私服姿。そう考えるだけで手にしたスマホが少し汗ばむ。
「おー、来た来た」
先に待っていた七海が手を振った。
いつもの制服姿とは違い、淡いグレーのパーカーに細身の黒いパンツ。髪は軽く巻かれていて、休日モード全開だ。
普段から垢抜けているのに、さらに華やかさが増して見える。
「おはよう、智也くん」
少し遅れて咲も現れる。
白いブラウスにロングスカート。ふわりと風を含むたびにやわらかい印象が増して、教室で会うときよりも大人びて見えた。
「……二人とも、なんか雰囲気違うな」
思わず口にすると、七海がニヤリと笑った。
「それだけー? もっと他にあるでしょ、ほら感想」
「え、いや……いつもと違って、その……大人っぽい?」
「ふふ、まぁね」
七海は得意げに髪を指でくるりと巻く。
すると横から咲が小さく身を乗り出した。
「ね、めっちゃかわいいでしょ?」
「お前が言うなよ……」
「だって、七海ちゃんほんとに似合ってるから」
「ありがと。ほら、咲だって今日めちゃくちゃ似合ってるよ。ね? 智也」
「あ、ああ……そうだな。なんか、教室のときより……すごいかわいい」
言葉を探して口ごもる俺を見て、咲が少しだけ頬を赤らめた。
「当たり前。これが外出用ってやつ。あんたも今日は変わってるじゃん」
「あんま服持ってないんだけどな……」
「細かいことはいいの。それより行くよ」
七海が軽く手を振って先導する。
向かった先は、駅前にそびえる大型ショッピングモール。
ガラス張りの外観に映る三人の姿が、なんだかいつもより明るく見えた。
休日の館内は多くの人で賑わい、吹き抜けから聞こえる音楽や、カフェの甘い香りが気持ちを弾ませる。
咲が隣に並び、「今日は楽しみにしてたんだ」と小声で言った。
俺は「そうか」と返しながら、胸の高鳴りをごまかすように歩調を合わせる。
モールの三階、ガラス張りの壁越しに見えたのは、白を基調とした明るい服屋だった。
入口には季節のマネキンが並び、ライトに照らされたジャケットやシャツが目を引く。
七海が迷いなく棚を回り、「これ着てみな」とシャツやジャケットを次々と俺の腕に積んでいく。咲も「こっちの色も似合いそう」と加勢するから、試着室に入るころには腕が重くなっていた。
試着室のカーテンを開けると、七海が腕を組んでじっと見てきた。
黒のシャツに細身のジャケット。さっきまでの自分とは別人みたいだ。
「……おお、悪くないじゃん」
七海が口元を上げる。
「やっと人前に出せる格好になったね」
「そんな言い方あるかよ」
苦笑しつつも、否定はできない。
「でも髪、まだボサボサじゃん」
そう言って七海がスマホを取り出し、美容院の予約画面を見せてくる。
「このまま行く。せっかくだし、全体整えてもらお」
半ば押し切られる形で美容院に入り、手早く整えてもらう。
前髪を軽くして、横のラインを耳に沿わせるだけで視界が広がったような感覚になる。
鏡の中の自分は、今朝家を出たときの俺とは明らかに違っていた。
美容院を出てふたりの元に歩いて行くとき、胸の奥に小さなざらつきを感じた。
玲奈のこと。あの不安げな顔。
俺は今こうして服や髪を整えて、笑っていていいのか――そんな疑問が一瞬よぎる。
でも、その思考を遮るように咲が笑った。
「似合ってるよ、智也くん」
その一言が、服や髪以上に胸の奥を温かくしてくる。
これなら、1万人記念配信だって怖くないかもしれない。
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