4話
翌朝。
鏡の中の自分を見て、思わずため息が出た。
目の下のクマ、やばすぎ。
髪は寝癖でハネまくってるし、声はガラガラ。
「……どこのゾンビだよ、これ」
つぶやいて、制服を無理やり整えた。
学校へ向かう足取りは重かったけど、昨日までの絶望でズシッと沈む感じとはちょっと違った。
(……コメント、嬉しかったな)
胸の奥で、その小さな光がポッと灯ったままだった。
校舎に入ると、ちょうど昇降口で咲と鉢合わせた。
「おはよ、智也くん」
咲がにこっと笑った。
茶色がかった髪を耳にかける仕草。
目元がほんの少しだけ眠たそうだけど、優しい光が宿ってる。
制服のリボンが少し曲がってるのは、たぶん本人は気づいてない。
そのちょっとした抜け感が、咲らしいなと思った。
「お、おはよ」
声を出した瞬間、自分でも驚いた。
ガッスガスのガラガラ声。
咲が一瞬目を丸くした。
……そりゃ驚くか。
でも咲は、クスッと笑った。
「今日、なんか元気そうだね?」
「どこがだよ!」
思わず突っ込んでた。
だって、これのどこが元気そうに見えるんだ。
咲は肩をすくめて、でも目が優しかった。
「んー……なんとなく?」
その言い方が妙に引っかかった。
たぶん、俺の昨日までの様子と今日の何かを比べて、感じ取ったんだろう。
でも、咲はそれをわざわざ言葉にするような子じゃない。
「……そうか?」
俺は目をそらした。
「うん、そう。なんとなく」
「ふーんそっか。なんか……ありがとな」
「なにそれ」
自分でもよくわからない言葉が口をついて出た。
咲は不思議そうに首を傾げたけど、何も聞いてこなかった。
「じゃ、またね」
咲は小さく手を振って、友達と合流して教室に向かっていった。
その背中を見送りながら、胸の奥の小さな光が、また少しだけ強くなった気がした。
(……俺、まだちゃんと歩けるな)
ぼそっと、心の中でつぶやいた。
教室に入ると、日常のざわめきが戻ってくる。
でも、昨日までみたいに全部が灰色に見えることはなかった。
休み時間、机に突っ伏しながらスマホの画面をそっと開く。
コメントは増えてなかったけど、再生数が少しだけ伸びてた。
(……やっぱ、続けよう)
小さく息を吸って、そう決めた。
放課後、帰り道。
ポケットのスマホを握りしめながら、次に歌う曲を頭の中で探してた。
(昨日のコメント……あれだけで、どんだけ救われたんだよ俺)
今度は、もっとちゃんと歌いたい。
聴いてくれた人に、少しでも届くように。
咲の「元気そうだね?」の声が、まだ耳の奥に残ってた。
(……あいつ、なんで気づいたんだろ)
そんなことをぼんやり考えながら、夕焼けに染まる道を歩いて帰った。
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