21話
家に帰ると、部屋の前に段ボール箱が置いてあった。
宅配の不在票がポストに挟まっていて、今日届くってわかってたはずなのに、目にした瞬間に胸が高鳴った。
「……来た」
両手で抱えて部屋に持ち込む。
意外とずっしりしていて、存在感があった。
箱を開けると、中には丁寧に梱包されたインターフェースとマイク。
緩衝材の間から、黒と銀の光沢がのぞいた。
「思ったより、かっこいいじゃん……」
思わず声に出る。
自分で選んだ。自分のバイト代で買った。
欲しかったやつ。
この箱一つのために、2ヶ月近くバイトを続けてきた。
週に何度も店に立って、覚えたての接客を繰り返して。
疲れて声が出ない日も、投稿が間に合わなかった週もあった。
でも、その全部がここに繋がってると思うと、不思議と報われたような気持ちになった。
説明書を手に取り、慎重に開封していく。
ケーブルの種類、接続順、ドライバのインストール。
知らない単語にちょっとだけ詰まりながらも、一つ一つ確認していく。
パソコンとインターフェースを繋いで、マイクをスタンドに取り付ける。
ケーブルがカチッと音を立てて差し込まれるたびに、胸の奥がじんわり熱くなる。
いつもより少しだけ部屋の空気が引き締まったような気がした。
マイクの角度を調整しながら、自分の顔が少しだけニヤけているのに気づいた。
でも、それを止める理由もなかった。
(……さて)
すべての接続が終わり、録音ソフトを立ち上げる。
ヘッドホンをかけて、マイクの前に座る。
準備はできた。
あとは、声を出すだけ。
その瞬間が、やけに緊張する。
でも、同時にわくわくもしていた。
これは、俺の声。
だけど今までとは、ちょっと違う声になるはずだった。
テスト用に何度も歌った曲を選んで、録音を開始する。
マイクの前で、深く息を吸う。
「……っ」
一音目。
声が、耳の中に飛び込んできた瞬間、はっきりと分かった。
「……全然ちがう」
音の輪郭が、くっきりしている。
ノイズが少ないし、息のニュアンスや抑揚までちゃんと拾ってくれている。
今までどれだけ曇った音で歌っていたのか、逆によく分かるくらい。
録音を止めて、再生してみる。
ヘッドホンから聞こえる自分の声に、自然と背筋が伸びた。
「……俺、こんな声だったんだ」
驚きと、ちょっとした感動。
ただマイクを変えただけで、こんなにも違う。
もう一度、今度は本気で通しで歌ってみる。
リズムに乗って、ブレスを調整して、気持ちをこめて。
録り終えて、再生する。
最初の一音から、サビの盛り上がりまで、全部がはっきり聞こえた。
今までの録音にはなかった"芯"のある声が、自分の中にも響いた。
「……これは、いける」
手応えはあった。
これまでの努力が、ひとつ形になったような気がした。
マイクをそっと外して、椅子にもたれる。
天井を見上げながら、小さく笑った。
「よし、アップしよう」
言葉に出すと、不思議と心が決まった。
投稿画面を開いて、タイトルとタグを入力する。
今回は、いつもよりちょっと自信がある。
それが伝わればいい。
届けばいい。
俺はアップロードボタンを押した。
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