表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/56

2話

 気づけば、布団の中でスマホを握りしめたまま朝を迎えていた。

 カーテンの隙間から漏れる光が、やけにまぶしくて、目を細めた。


 昨日投稿した歌。

 あれから何度もページを開いた。何回も、何回も。


 再生数――26。

 いいね――ひとつ。

 コメント――「頑張れ」って、たった一言。


(……そりゃそうだよな)


 これが現実だった。

 あんなの、深夜テンションで勢いで歌っただけだ。

 声は震えてるし、音程も不安定だし。

 冷静になって聞き返した自分の声は、ひどいものだった。


 布団をかぶった。

 頭の奥がジンジン痛む。寝不足のせいだ。


 それでもスマホを手放せなかった。

 何度見たって、数は増えてないのに。

 それでも、もしかしたらって思って見てしまう自分がいた。


(何やってんだよ……俺)


 画面を伏せて、天井を見た。

 そこには、ただ白い天井が広がってるだけだった。


 学校。

 もうそろそろ行かなきゃいけない時間だった。

 けど、体が布団から出ようとしなかった。


(……今日はサボろうか)


 そんな弱い声が、心の中で響く。

 けど、無理やり布団を蹴飛ばした。


「……はぁ」


 鏡に映る自分の顔。

 目の下にクマができて、髪もボサボサだった。


 制服に袖を通すだけで、体が重かった。


 学校では、ほとんど誰とも話さなかった。

 玲奈の姿は見ないようにした。

 いや、見たくなかった。


 クラスの空気が、いつもより冷たく感じた。

 周りがヒソヒソしてる気がして、居場所がないって思った。


 チャイムの音だけが無駄に響いて、心臓に突き刺さる。


 放課後、寄り道もせずに家に帰った。


 玄関のドアを閉めた瞬間、どっと疲れが押し寄せた。

 靴も脱ぎっぱなしで、そのまま部屋に倒れ込んだ。


 時間がわからなくなるくらい、布団の中にいた。

 飯? どうでもよかった。

 腹が減っても、コンビニのパンを一口かじって終わり。


 スマホだけは、ずっと手の中にあった。

 歌のページを開いては閉じて、SNSを開いては閉じて。


(……誰も、俺の声なんか求めてねぇよな)


 つい昨日まで、玲奈と歩いてるだけで「勝ち組だ」なんて舞い上がってた自分が、心底バカみたいだった。


(俺の何がダメだったんだ)

(あいつのどこがそんなに良かったんだ)


 そんな答えのない問いが、ぐるぐる頭の中を回った。


 寝取られた悔しさ。

 田中先輩への嫉妬。

 玲奈の冷たい目。

 それが何度もフラッシュバックして、胸の奥がずっと痛かった。


 深夜、またページを開く。


 再生数――30。

 いいね――ひとつのまま。

 コメント――「頑張れ」だけ。


 目を閉じた。


(……俺、何してんだよ)


 無理やり寝ようとした。

 でも、眠れなかった。


 数日、そんな生活が続いた。


 学校に行っても、周りの笑い声が遠く聞こえるだけだった。

 玲奈と田中先輩が話してるのを見かけないように、必要以上にうつむいて歩いた。


 昼休み。机に突っ伏して、ぼんやりしてた。


「……智也くん、大丈夫?」


 優しい声が聞こえた。


 顔を上げると、藤崎 咲が立ってた。

 同じクラスの女子。

 中学のときからの知り合いで、時々話すくらいの子だった。


 髪を耳にかけて、心配そうな目でこっちを見ていた。


「え、あ……別に、大丈夫だし」


 無理に笑ったつもりだった。けど、たぶん引きつってた。


 咲は椅子を引いて、俺の隣に腰を下ろした。


「最近、元気ないよ。何かあった?」


 その言葉が、妙に胸に刺さった。

 優しい声で、そっと触れられると、逆に心がえぐられるみたいだった。


(……バレてるよな、そりゃ)


「ほんと、何もないって。気のせいだよ」


「……そっか」


 咲は少しだけ困ったように笑った。

 でも、それ以上は何も聞いてこなかった。


「無理しないでね」


 それだけ言って、立ち上がり、友達のところへ戻っていった。


 教室のざわめきが戻った。

 でも、咲の言葉だけが、ずっと耳の奥に残ってた。


(……俺、何やってんだよ)


 自己嫌悪がさらに重くのしかかってきた。

 でも、それでも体は動かなかった。


 夜、布団の中でスマホを見つめてた。


 ページを開く。

 再生数は30のまま。

 いいねも、コメントも増えてない。


(……こんな俺の声なんか、誰も聞かねーよな)


 スマホを伏せて、天井を見た。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

よろしければ☆で応援してもらえると、とっても嬉しいです٩(ˊᗜˋ*)و

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ