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彼女を寝取られた俺、ショックで歌い手活動に没頭してたら死ぬほど人気が出てしまう~復縁したいと言われてももう遅い~  作者: 住処


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19話

 閉店後のカフェ、店内には静かなBGMだけが流れていた。

 洗い終わった食器を棚に戻して、俺はエプロンを外す。

 制服の上着を脱ぎながら、ふと独り言のように呟いた。


「……もうすぐ、二ヶ月か」


 七海に紹介されて、ここでバイトを始めてからもうそんなに経つ。

 最初はレジもトレーの扱いもおぼつかなかったのに、今ではオーダーを聞き返すことも減った。

 ホットとアイスを間違えることもないし、ドリンクもそれなりの見た目に仕上がる。


 動作が自然になった分、接客中の会話にも少しだけ余裕が出てきた。

 常連のお客さんと簡単な挨拶を交わせるようになったのも、たぶん大きな進歩だ。


 制服を畳んで、ロッカーにしまう。


 ふと、スマホの通知が気になってポケットから取り出す。

 フォローしている投稿者の新着通知。

 思わず、胸の奥がざわついた。


(今日、録る予定だったんだけどな……)


 録音スケジュールは、もともと週に1本を目安にしていた。

 時間があるときに録りためて、投稿を途切れさせないように調整する。

 でも最近は、その時間があるときがどんどん減っていた。


 学校とバイト。

 どちらもサボれないし、どちらもそれなりに真剣にやっている。

 その分、帰ってからの時間は削られて、マイクの前に座る余裕がなくなっていた。


「……今日も、無理かも」


 自分で言って、自分で少しだけ嫌になる。


 録りたい気持ちはある。

 あのとき、七海と咲に言われた言葉だって、ちゃんと覚えてる。


 でも、体がついてこない。


 店の照明が落とされていく。

 閉店作業を終えた店長が、軽く手を振って「おつかれ」と言いながら奥に引っ込んでいく。


 俺はロッカーを閉めて、肩にバッグをかけた。

 ドアの向こう、夜の街が静かに広がっている。


 どこかのビルの上に、月がうっすらと浮かんでいた。

 それを見ながら、深く息を吐いた。


(……このままじゃ、ダメだよなぁ)



 家に帰ると、鞄をソファに放り投げ、机の前に座る。

 デスクの端に置かれたマイクを見る。

 カバーを外して、録音用ソフトを立ち上げて、深呼吸。


 ……なのに、声が出ない。


 喉は乾いていないはずなのに、うまく音にならない。

 一度目の録音は、途中で音が割れていた。

 二度目は息が続かず、リズムが乱れる。

 三度目は、最後まで歌いきったけど、聴き返してみると、どうにもこもって聞こえた。


「……違う」


 録音データを削除する。

 画面が空白に戻ると、自分の中まで空っぽになった気がした。


 スマホを取り出して、SNSを開く。

 フォローしているアカウントがいくつも、新しい投稿をしている。

 夜の時間帯は投稿が多い。

 その中のひとつが、数時間で再生数を何千と伸ばしているのを見て、胸の奥がじわりと熱くなる。


「みんな、すげぇな……」


 口に出すと、余計に虚しくなった。


 スクロールする指が止まらない。

 上手い歌、キレイな声、しっかりした機材、整った映像。


 俺の投稿なんか、比べものにならない。


 いや、比べたくて見てるわけじゃない。

 ただ、置いていかれているような気がして。


 焦りが、のどの奥に引っかかっていた。


(次の投稿、どうしよう……)


 録音が間に合わないかもしれない。

 今週はバイトのシフトも多い。

 投稿が止まったら、また誰にも知られない状態に戻るかもしれない。


 考えすぎかもしれない。

 でも、今は何もかもうまく回ってないような気がして、動けなかった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

よろしければ☆で応援してもらえると、とっても嬉しいです٩(ˊᗜˋ*)و

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