17話
日曜の午後。
店の前に立った瞬間、制服の看板とロゴが目に入って、ちょっとだけ足が止まった。
パステル調のロゴに、ハートマークのアクセント。
店名は「カフェ・リュミエール」。
……想像してたより、可愛かった。
「おっそーい」
先に来ていた七海が、制服姿で店の前に立っていた。
白とベージュを基調にした、ゆるふわ感のある制服。
エプロンがリボンっぽく結ばれていて、ギャルにしては妙に似合ってた。
「早く着替えなよー。男子用、まあまあかわいいから」
「かわいいのかよ……」
店の裏手にある更衣室で制服に着替える。
シャツはピンクがかったベージュ、ズボンは細めでやや短め。
カーディガンとロゴ入りエプロンをつけると……
鏡に映った自分の姿に、思わず言葉が詰まった。
「……うわ、似合ってねぇ……」
ボタンの色とか、ラインの入り方とか、いちいち柔らかい。
なんというか、全体的に中性的で可愛い方向に振ってる。
制服を着たまま表に出ると、七海が見た瞬間、盛大に吹いた。
「うわーめちゃ似合ってるよ……ぷっ」
「笑うなって言っただろ」
「いやごめんごめん。ちょい堪えらんなかった」
「おい」
そんなやりとりをしていると、店の中から誰かが出てきた。
「なにやってんのあんたら。開店前に騒がない」
出てきたのは、制服姿の女性だった。
身長は七海とあまり変わらないけど、表情のキレと目力が段違い。
髪はまとめてるけど染めていて、外見だけ見ると七海と似た系統……に見えなくもない。
「紹介しとくねー。うちのいとこ。見た目あれだけど、マジでキレる人だから」
「誰があれだ七海」
店長はそう言って、ふっと笑った。
七海の親戚がやっている店だったのか。
「朝倉くん、だっけ。七海の紹介で来たって聞いてる」
「はい。よろしくお願いします」
「まずは基本からね。今日はいろいろ覚えてもらうけど、無理だったら素直に言いな」
「はい、わかりました」
「それと、七海。制服着てるときはおふざけ一割にしときな」
「えー、三割までにしとく〜」
「却下」
そんなやりとりをしながら、開店準備が始まった。
店内は思っていたよりこぢんまりしていて、カウンターとテーブル席が数席。
観葉植物が置かれていて、照明も落ち着いている。
可愛すぎず、居心地がいい。
制服の違和感はまだ残ってるけど、それでも、思ったより悪くなかった。
七海に案内されて、カウンターの奥へ移動する。
タブレット端末が埋め込まれたレジと、給湯設備。
奥にはドリンクとスイーツ用の冷蔵ケースが並んでいた。
「まずはレジからいこっか。ここの操作覚えると他のことも楽になるから」
そう言った七海は、さっきまでのギャル口調を少し引っ込めていた。
口調も、姿勢も、目線の向け方まで、仕事モードに切り替わっているのがわかる。
「お客さん来たら、まず『いらっしゃいませ』。声のトーンは高めに。ここ、絶対に笑顔でね」
自分でも実演してみせながら、七海はスムーズに指を動かす。
「このタブレットはタッチ式。番号入力して、メニュー確認、確認押して会計。お札はこっち、硬貨はこっち」
「なるほど……」
「ドリンクのセットは必ず声かけて。あと、出すときは『失礼します』じゃなくて『お待たせしました』。カフェだからね」
覚えることは多い。でも、七海の説明は驚くほどわかりやすかった。
……え、七海ってこんなちゃんとしてんの?
口に出そうになって、寸前で飲み込む。
代わりに、心の中で言った。
(すげえ……)
普段ふざけてばっかりに見えてたけど、こういうときの七海は、なんというか、頼れる先輩だった。
「わかんないことあったら、絶対そのままにすんなよ」
七海は一拍置いてから、こっちを見て言った。
「わかったふりしてやるのが一番まずいから。ちゃんと聞いて。教えるから」
「……うん」
七海の目を見て、気を引き締めてうなずきを返した。
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