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第8話「帰去来」

第八話『帰去来』


 屋敷の中に足を踏み入れた瞬間、武蔵は懐郷病的なセンチメンタルに襲われた。というのも、内開きのドアの先には、かつて日本で見慣れた土間と、履物が、整然と鎮座していたからである。

「なんということじゃ……」

 必死に肺胞を絞り出し、何とか発したことばであった。

 殴られたかのように、頭がくらくらした。ついに故郷との逢瀬を果たしたのか。否、あり得ない……といった具合に、思考が錯綜し、幾度となく同じ考えを反芻する。

 また、これまで感じたことのない感覚も、思案の妨げになっていた。

 得も言われぬ違和感。

 その感覚をまさぐるうちに、武蔵は違和感の正体を発見した。


  ――――ここには、自分以外にも日本人がいる!


 この異世界へやってきて既に数日が経っていた。

 此処では、俺ただ一人が、日本人であると、どうして妄信していたのか!そうだ、考えれば当然のことだ。


 辺りを眺めてみると、金や銀や赤や白の髪をした、バロック彫刻のように掘りの深い顔が武蔵をのぞき込んでいた。

 格子窓から差し込む光が、武蔵と土間だけを照らしているように感じられた。


 土間の中央には、土造りの竈と釜が据えてあり、壁一面に竹や木材が立て掛けられている。舐めるようにそれらを観察していくと、段を上がった襖の先に、大黒柱が屹立しているのが見えた。そして、さらにその先には地下へと続く石段が、大蛇の如くうねり、暗闇を湛えていた。

「どうしたんですか?ムサシさん」

 ルーナが不思議そうな表情をしてみせた。心配を混ぜ込んだような声色だった。

「むう……るぅな殿……いや、大事ない。」

 平然を装い答えるが、声帯の震えと、喉奥から込み上げる、得体の知れないもの……嘔吐のような感じは、確かに武蔵の動揺を助長した。その様子をやや訝しみながらも、ホウジョーは靴を脱いで、早く上がるように促した。

「ほれ、さっさと上がれぃ。」

「は、はい」

「ああ」

 ルーナ一行は、上がりかまちに腰掛け、ホウジョーの所作を真似て靴を脱いだ。ルーナの脱いだ靴が、西洋的な意匠であったことから、先ほどの、ついに故郷との逢瀬を果たしたのかという淡い希望は雲散霧消する。ホウジョーは彼らを待つことなく、ドスドスと板間を踏みしめながら、地下への階段へと向かっていった。板間の軋む音が、再び武蔵を錯覚させそうになるが、深呼吸をして抑え込んだ。

「こっちじゃ、この地下に、カタナは保存してあるんじゃ。」

 ホウジョーの声に従い、下りの階段を進んでゆく。


 そうしてゆくうちに、湿った地下の鈍重な空気が、武蔵の肺胞に飽和していくのであった。


・・・つづく・・・


今回は、少し作画を変えてみました。この作画も気に入っていただけると幸いです。


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