表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

第18話「漁夫の利(?)」

第十八話「漁夫の利(?)」




長い湾の出口を抜けると、さらに霧が濃くなった。




 寝ぼけ眼が、白く染まった。




 視界ゼロの濃霧の中、船はずんずん進んでゆく。


カツミの操舵技術は確かなようだ。




 船が上下するのに合わせて鳴る、チャポンチャポンと水がはねる音が、ししおどしのようで眠気を誘った。




「・・・暇じゃのう。」




 武蔵はそういって、大きくアクビをする。




 目を開いても白。




 甲板の上には、武蔵とカツミだけだった。




 そんな様子を見てか、カツミが話しかけてきた。




「にしてもォ、変だね…。


アンタ方はおかしな人達だ。


うん…。」




 操縦桿から手を離さずに、カツミが続ける。




「あんなおそろしい島に、自分から行きたがるなんてね…。」




「ウォニガ島には、刀があるからのう。」




 武蔵は頷いて答える。




「カタナってのはさ…、そんなにいい武器なのかい…?」


「うむ。


某も大抵の武具は使えるがの、アレほど器用な武器は無類だ。」




「そうか… 私には分からんな…」


 カツミは、じいっと、真っ白い前方を見つめていた。





「お~い!皆さん!メシにしましょう!」


 船室から聞こえた、コベラの威勢の良い声に、武蔵の腹が反応する。




「おお!そうするかの!」


 武蔵たちは、船室へ向かった。








 船の内部は混沌を極めていた。




 何かの道具で溢れた木箱と、ぬちょぬちょした何かが床を這っている。




「あ、やっと来ましたね!ムサシさん!」


 ルーナがwktkして言った。


続いて、カガネが口を開く。




「これでメシが食えるな。


しかし、全員揃うまで待つとは、ゴウカイっちも律儀だねェ。」




「おうよ!!海の上じゃあ、メシくれぇしか楽しみがねぇからな!!ガハハハッ」


「さあ!メシですよ!!今日はめでたい日だ!豪華なヤツ、持ってきましたよ!」


 コベラがクローシュに隠された食器をテーブルにドンッと置いた。




「それじゃあ、開けますよ~」


 そして、今、そのベールが捲られる。




「な、なんじゃこりゃあ!?」


 銀色の食器に乗っていたのは、シワシワの魚の干物だった。


一瞬、魚の骨と見間違えるほど、干からびていた。





『うっひょ~~~~~~!』




 天晴成員は、武蔵達とは対照的に、目を爛々と輝かせていた。




「あれ、皆さんの反応悪いですね?」


 コベラは首を傾げる。




「ハハハハッ!さしずめ、航海食を初めて見て、驚いたってとこか。」




「ああ!そうなんですね!」


 コベラは、ポンッと手をうった。




「これはだな、キリモンジャケの素干しだよ。


キリモンジャケは焼いた方が旨いんだけど、干すと長持ちするからよ、航海の時にゃ重宝するんだ。


こいつはそのまま食べても旨いんだが……」


 そう言って、コベラは奥から壺を出してきた。




壺の口は、紐できつく縛られていた。




「こいつをかけて食べるともっと旨いぜ!」


 コベラは壺の口を解き、中身を皿に出した。




 ツンとしたニオイが鼻を刺す。




「むむ、なんと!これは……!!」


「梅干しだよ!!」


コベラは、皿の上の干物を箸でつまみ上げ、梅干しと共に口へ放り込んだ。




「ああ……やっぱりうめえなぁ……」


「お、おい……それ、大丈夫なのかね?腐ってないのかね?」


 カガネが、怪訝な顔をする。


ルーナも、同じく顔をしかめていた。




 武蔵は毅然とした表情でフォークを梅干しに刺し、豪快にかぶりついた。





 カロ…




「んむ……❤️」


 武蔵は目を見開いて、壺から梅干しをかっこんだ。


その様子を見たルーナも恐る恐る口にする。




「うん!おいしいです!!」


『えっ』


 一同は唖然とした表情で二人を見つめた。




「な?言ったろ?」


 コベラがニヤリと笑った。





「ほぅ、どれどれ……しょっぱ。」




 カガネも、梅干しを食べてみたが、すぐさま後悔した。


いや、後梅した……。








 日が暮れた。




 辺りは真っ暗だった。


暗澹たる濃霧の中に、月明かりが唯一、おぼろげな光を滴らせていた。


小さな月明かりは、今にも溶けて、深い夜に消え入りそうに思われた。




「夜の海って、こんなに暗いんですね……」


 ルーナは、呪嚥の森でのことを思い出して、身震いした。




「よし!!じゃあそろそろ寝ましょうかね」


 コベラの号令で、一行は船室へ向かった。


それを、ゴウカイが制止する。




「待てい!!!見張り番を決めなきゃならん。」




「見張り番……ですか?」


 ルーナは首を傾げる。




「ああ、クラーケン以外にも魔物はいるのだ。


だから、夜襲に備えてな。


見張り番は二人一組で交代制だ。」




「しかしゴウカイっちよ、どうやって順番を決めるんだ?」




「……じゃんけんだ。」





 異様な空気が船中に漲った。




 潮騒の音だけが、えらく不気味に聞こえている。





 ザバァーン




 ザバァーーーーーン





 一同は、やおらに拳を構えた。





『最初はグー』


『じゃんけん ポン!!』







「腹減ったのぉ~……」


「そうですね……」


 武蔵とルーナの二人は、甲板の上で見張り番をしていた。




「仕方ないですよ。


船の上は食糧が少ないから……」


「ふむ……じゃがのう……。


あの干し魚だけじゃのう……。」




 武蔵は不満げな表情で腕を組む。




「まあ、分からないことも無いですけど……。




ああ、私、反対側の見張り番行ってきますね。」




「うむ、気をつけるのじゃぞ。」




 ルーナは頷くと、船室を挟んだ反対の側へ向かった。








 ルーナは、しばらく海をぼーっと見ていたが、突然立ち上がった。




「なに、あれ……。」




 小さな灯が、真っ暗な海からポツンと浮かんでいる。


目を凝らしてみてみると、その灯はゆっくり、動いていた。




 ヒッ、と小さな悲鳴を洩らし、ルーナは後退りする。




 霧を跨いでゆらゆら揺れる灯。


波音の作り出すノイズ。


船がギシギシ軋む音。


どれをとっても、不気味だった。




 「ひ、人魂……?人魂だ……!!」


 どうしていつも私だけこんな目に。


ルーナは、そう思わずにはいられなかった。




「だ、誰か……ムサシさん、ムサ……ムサシさん!!!」


 慌てて、武蔵を呼びにいく。




「ムサシさん!大変です!ムサシさん!!」


「む、どうした?るうな殿。」




「おばけが!人魂が!人魂が……!」


「何!!真か!!」


武蔵は、ルーナが指差した方向へ駆け出す。




「ムサシさん!!待ってください!」







「むむ……これは……。




何もないではないか。」




「ほ、本当ですよ!私見たんです!!」


 ルーナは必死に武蔵に食い下がった。




「見間違いじゃろ」


「そ、そんなはずは……」


「るうな殿。


あまり思い詰めると体に毒じゃぞ? ……さ、見張りへ戻ろうかの。」




「……はい。」








 あれから、人魂が現れることは無かった。




 日が昇り、海が白んでくる。


いつの間にか、霧はすっかり消えていた。




「おはようございます!」


 先ほどまで見張り番をしていたコベラが、船室のドアを開け入ってきた。




「なんじゃ、もう朝か……。」




「ああ、おはよう。」




「おはよう!!!!!」


 武蔵、カガネ、ゴウカイが返事をする。




「あ、おはようございます……」


 ルーナは元気なく返事をした。


、昨夜のことが尾を引いているのか、眠れなかったためだ。




「さあ、諸君。


そろそろヤツの巣だぞ!!」


 カツミが甲板から声をかける。




「血沸く血沸く……」


「ゲソに合う酒持ってきたか~!!!!!?がーはっはっは」


「カタナの前に、腹ごしらえだ!!」


 雰囲気は絶好調だった。




「いくかのう……」


 武蔵が呟いた直後。


カツミが慌てて叫んだ。




「おい!大変だ!!皆来てくれ!!」




「……"ヤツ"が!!"デカ"が死んでるんだ!!!」




・・・つづく・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ