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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【速報】神(?)の生贄として殺された私のその後について

作者: パンダダダ

主人公の茶々がちょくちょく入りますが状況はドシリアスですし、普通に残酷な描写が多いので注意してください。

あと一部津波にトラウマのある人もご注意ください。

 私はどこにでもいる普通の女子高生だ。随分と手垢のついた挨拶から始めてしまうけれど、本当にそうとしか言いようがないのだから許してほしい。


 私のことに関して語れることは多くない。両親がいて3つ上の兄がいて、毎日眠気と面倒くささを引きずりながら学校へ通っている。

 仲良しの友達は各クラスに数人いて、あんまり好きじゃない人の数は両手には収まらない。でも口の堅い友達と少しだけ愚痴を交わす以外は特に自分から荒波を起こすことはしない。前にお兄ちゃんにも「表立って動いて自分の非を曝すのは馬鹿のすることだ」って言われたし。

 それよりも好きなドラマやアニメ、ゴシップやSNSの話題で盛り上がる方が楽しい。お小遣いがあんまりなくて雑誌とかCDを好きなだけ買うことは出来ないけど、友達やお兄ちゃんと相談して漫画の回し読みとかを良くしている。

 将来の夢とかは特になくて、明確な目標もないけど周りが大学に行くみたいだから適当な大学に行きたい。そうしてキャンパスライフをそこそこ楽しんだ後は給料や待遇が少しでもマシなところに就職出来たら御の字だ。

 そんな、本当に特筆すべきこともない人生だった。毎日充実しているとも感じないが、大きな不満はなかった。このまま何となく流されつつも年月がすぎ、ウチの両親や祖父母と同じような人生を送り、終わるのだろうと疑うこともなかった。


 そんな考えはこの数日で呆気なく崩れ去ってしまったのだが。




 特に前触れなんてものはなかった。

 ある休日、久しぶりに数人の友達と地方に一つはある某大型デパートに足を伸ばした時のことだった。この日のために貯めてきたお小遣いと相談し、厳選に厳選を重ねて選び抜いた戦利品を掲げ、帰る方向の違う友人たちと別れを告げてバスに乗車した。それから少し後のこと。

 久しぶりに歩いたからか、席に座った途端に眠気に襲われた。高揚した気分とふわふわとした眠気が心地よく、ぼんやりとした頭で何気なく周りを見渡した。

 車内には私のほかに10人にも満たない人が乗っていた。まるで夜の最終便のようにみんなが示し合わせたように窓や手すりにもたれて寝入っている。バスの中は走行音とエアコンの音しかしなかった。

 薄らいでいく意識の中、違和感を抱く。咄嗟に席を立ち前方にいる運転手に声をかけようと近づいた。しかし急速に迫ってくる眠気に抗えず瞼を閉じる最中、見えたのはガスマスクをつけて振り返る運転手の姿だった。



 ◆◆◆



 気が付いた時には私は死んでいた。

 何を言っているか分からないと思うが、そうとしか言えないのだから仕方がない。目の前に自分を含めた複数の人間の死体が転がっており、それを見せられた私の気持ちも考えてほしい。

 私が何故、『私』の死体を見ているのかと言えば、私はいわゆる幽霊という存在になったからと言う他ない。

 どういう原理でなってしまったかは普通の女子高生に分かるはずもない。でも私以外に幽霊になった人を見ないため、私に特別な適性があったのか、はたまた私には見えないだけで他にもいるのか。幽霊の適性とか自分で言っててよく分からないが。


 閑話休題。私は突然殺され、幽霊になってしまったのだ。

 殺したのは十中八九バスの運転手やその仲間だろう。あんな怪しさバリバリのガスマスクを見て無関係だなんて流石の私も思っていない。

 幽霊になったことや殺されてしまったことに関しては最初めちゃくちゃ驚いたし腹も立ったしすごく怖かった。さんざん取り乱したし泣いた。

 でも私は案外この状況を受け入れるのも早かった。幸いというべきか、死ぬ瞬間の記憶や苦痛を受けた記憶もなくこうなってしまい、あまり現実味がないことも要因の一つかもしれない。1時間もしたらだんだん落ち着いて順応してしまった。諦めがついたともいうし、図太いともいう。

 だって現状、私の肉体は完全に死んでいて生き返る手段がない。ならどれだけ嘆こうと騒ごうとどうしようもないことは小学生にだって分かる。

でもせっかく手に入れた戦利品を堪能する暇もなく殺したのは絶対に許さない。末代まで祟るから覚えてろよ。


 さて、幽霊になってからの私は、端的に言って非常に暇を持て余していた。

 だってテレビもスマフォもない。周りには死体の山。コンクリート打ち付けの薄暗い室内には娯楽になりそうなものも碌にない。こんな状況、普通の女子高生に耐えられるだろうか。いや、耐えられまい。私じゃなきゃ発狂しちゃうね。

 時々部屋には変なフードを被った犯人グループの人たちが行き来するため、その断片的な会話を盗み聞くくらいしかやることがない。その内容から推測すると、どうやら彼らは人の死体を集めて神様とやらを召喚する準備をしているらしい。そして私の肉体があるここは召喚の儀式を行う場所のようだ。

 注意深く死体のある地面を見下ろすと、薄暗さと血で気付かなかったが確かに魔法陣のようなものがぐるりと床に描かれている。マジかよウケる。

 よく観察すれば机だと思っていたものは祭壇だったし、変わったインテリアだと思っていた水晶玉は魔力とかいうものを貯めたり結界を作るための物だということが判明した。

大の大人が大真面目に魔力やら神やらについて話す姿は一周回って面白くすらあった。なるほど、これがカルト集団の実態ってやつか。

 状況的にはすごく怖い場面だと分かってはいるけれど、幽霊の状態で、自分を含めた遺体の山と一緒に長時間閉じ込められているせいで正気が保てなくなっているのかもしれない。どこか冷静な自分がそう考えるが、逆にこの状況で正気を保っていた方が今度こそ精神崩壊するわと理性を空の彼方にぶん投げた。


 さて、そんなこんなで幽霊になったからまた少し時がすぎた。

 とはいえ、私自身どの程度時間が経ったのか正確には分からない。ここには窓も時計もないし、死体は何故か腐ることはない。時間の感覚なんてとうに狂ってしまった。

 もしかしたら私が思うほど時間は経っていないのかもしれないし、相当の月日が経ったのかもしれない。たまに運ばれてくる死体のおかげで徐々に山は大きくなり、床の魔法陣がぼんやりと光り始める。

 そうしてある日、10人以上のフードの人がぞろぞろと儀式の部屋にやってきた。室内はこじんまりした体育館くらいの広さがあるためまだ余裕はあるが、それにしたって絵面があまりよろしくない。というかお前らこんなにいたのかと思わずツッコんだ。

 しかし今日の犯人たちはやけに上機嫌だ。口数も多く、お互いに何かをしきりに労い合っている。内容を聞けばなるほど、遂に神様を召喚するための準備が整ったのだという。

 確かにそれは皆テンションも上がるだろう。傍から見ていただけの私も何だか感慨深いものがある。その儀式のために殺されて今の状況を強いられているわけだから嬉しくはないが。嬉しくは全くないのだが。

 気分としてはあれだ。学芸会のような学校行事。私はそういう、みんなで協力して何かを作ったり成し遂げる系のことは、実はめちゃくちゃ嫌いだ。全くやる気は起きないし面倒くさいけれど、渋々作ったセットや道具がようやく完成した時の気持ちと言えばいいのだろうか。別に達成感も嬉しさもないが、これからは朝早く登校したりあんまり親しくないクラスメイトと連携を取る必要もなく、ようやっと仕事から解放されたという清々しさ。あの気持ちが一番近いものを感じる。

 あぁ、でも当時その時の心境をお兄ちゃんに愚痴ったら、「その意見を学芸会肯定派に言った瞬間に陰口のターゲットにされるからあまり口外するなよ。ちなみに俺は面倒くさくて仕事を周りに押し付けていたが人気者だったからハブにされなかった勝ち組だ」と自慢げに言っていたっけ。死ねばいいのに。


 でもここまでのことをして、召喚する神様とやらがどんなものなのかは興味がある。結局神を召喚した目的も事情も知らされず、生贄として問答無用で殺されたのだからそれくらい知る権利はあるだろう。無いとか言われたら私と同じ目に遭わせてやる。

 そんなことをつらつら考えている間にも儀式は進行する。死体の積みあがった魔法陣を囲むようにして犯人たち、もとい信者たちが取り囲み、祈りを捧げる。

 日本語とも英語とも違う未知の言語で紡がれた歌は讃美歌にも似ていた。しかしどこか不協和音が混ざり、不穏な雰囲気が漂い始める。


 やがて魔法陣の輝きが増し、歌に合わせて地面が鳴動する。

 遺体で作られた山の頂上で、空間がぐにゃりと歪む。その光景はきっと、幽霊である私にしか認識出来なかっただろう。

 歪んだそれは徐々に形を成していき、最後に扉のような形に変貌した。宙に浮かんだままのそれを信者たちは興奮と狂気を滲ませた目で見上げる。紡ぐ祝詞が歪み、笑い声のようだと思った。

 あり得ない光景が目の前にある。恐らくはあの扉を開けば、中に神がいるのだと直感的に理解した。

 本能的な恐怖が沸き上がるが、同時にアニメや漫画のような展開にオタクとしての自分が信者と同様に興奮している。何が起こるのか。果たして神とやらは本当にいるのか。どんな姿をしているのか。もしかしたら出てくるのは神ではないかもしれないが、目の前の怪奇現象に比べたらそんなものは大した問題ではなかった。

これから何かが確実に始まる。そう思った。

様々な可能性に想いを馳せ、高ぶる気持ちを押さえながら固唾をのんでその瞬間見守っていた。

その時だ―――室内の出入り口に備え付けていた分厚い扉が勢いよく開かれたのは。




「そこまでだ! ―――全員、取り押さえろ」



 そこからは見知らぬ男性を中心に、武装した人間が複数室内に流れ込んできた。

突然の出来事に私も信者たちも呆気にとられる。慌てて信者たちも応戦するが、侵入者の彼らはやけに手慣れた様子であっと言う間に信者たちを制圧してしまった。オカルトチックな戦闘になるかと思えば普通に拳銃とか出てきてちょっと脳が混乱した。オカルトホラーからいきなり現代アクションに切り替えないでほしい。

 しかし信者たち、弱すぎでは? 某魔法学校並みの魔法やら魔術やらが出てくるのかと思ったけど全然そんなことはなかった。いや、何かしようとする素振りはあったけど、準備が整う前に武装した人に取り押さえられてた。拳銃ってすごいんだね。

 でも信者側も、ちゃんと準備が出来ていればそれなりにすごいらしい。信者自体はものの数分くらいで全員捕まっちゃったけど、結界とやらの役割をしてた水晶玉の効果はバッチリあったらしく、魔法陣の中の死体や浮かんでいる扉に近付くのに手間取っている。

 この人たち誰なんだろう。これからどうするんだろう。結局神とやらはどうするんだろうと、様々な疑問が頭をもたげていた。そんな中、リーダーと思わしき最初に入ってきた男性が面倒くさそうにため息を吐いたのが目に入った。


「全く、余計な仕事を増やしやがって……おい、結界は解除出来た。さっさとアレを退散させておけ」

「あっはい、了解です! お疲れ様です!」

「あぁ、お疲れ」


 そう、事も無げに部下らしき青年に命令した男は、神がいなくなるまで確認することもなく踵を返した。まるでゲームのデイリーミッションを消化するような、興味も熱意もなく、怠そうに去っていく後ろ姿に、


 私は、








―――は、



『ハァァアアアアアアアアアア!?!?!?!?』




 私は、心底、ブチ切れた。




『ふっざけてんじゃないの?!!! こっちはいきなり殺された上に幽霊にまでなってんだよ!!? ここで終わらせられたら私確実に無駄死にじゃない!!!!』



 何なら殺されたのが分かった時よりもキレた。怒髪天ってやつだ。

 マジであり得ない。さっき学芸会の例え話をしたけど、今回のは何日もかけて準備してようやく終わらせたセットや道具を目の前で盛大に壊されたみたいな……いや、もしくは苦労して完成させたのに、設計図やら企画やらが間違ってて全部1から作り直しの上に完成品の方は不要だからって捨てられたような気持ちに近いだろうか。


 私は生前から無駄骨や徒労という言葉が大嫌いなんだ。許せない。

 あの神とやらが出てきたら多分色々不味いことになるんだろうけど、それはそれ、これはこれ。絶対に無駄死になんてしない。別に神様に何かをしてほしいわけじゃないけど、絶対に帰らせてたまるか。ウチのお兄ちゃんだってそう言うと思います。知らないけど。


 部下の人や武装している人が死体の山を登ってくる。別に丁重に扱えとまではいかないけれど、自分の遺体が踏まれるのを見るのは普通に腹立つ。花の女子高生やぞ。

 怒りのままに私は宙に浮かぶ扉に飛びついた。神を外に出すためにどうしたらいいのかなんて知らない。実体のない私が扉を開けられるわけもないけれど、何とかなる気がする。根拠もなくそう思った。

 扉のようなそれは鉄や木とは異なる、泥を塗り固めたようなざらついた見た目をしている。その表面を押そうとして、私は腕ごと中に吸い込まれていった。





 扉の中は墨汁で塗りたくったかのような闇が広がっていた。

 しかし光源のないはずのその中で、何かテラテラとしたものが蠢いている。


 ……何かに見られている。


 あらゆる方向から。それは、いや、それらは(・・・・)確実に私を見つめていた。

 神なんてとんでもない。恐らくは世界中の恐怖と絶望と混沌を材料に作り上げられたのだろう存在が、今、すぐそばにいる。


 恐ろしいという言葉では到底足りない。恐らくこの空間が明るかったら、それを直視していれば、私は確実に正気を失っていただろう。

ぶわりと既に失ったはずの汗腺から冷や汗が噴き出す錯覚を覚える。無策で飛び出してきたことを後悔し始めた最中、背後から聞き覚えのない祝詞が聞こえ始めた。

 それが目の前の存在を元いた空間に還す呪文であると直感的に気が付き、恐怖により忘れかけていた怒りが再熱した。


―――これが、何かなんて知らない。でも、



「私が、私の死を無駄になんてさせない」



 既に先ほどまでの恐怖はなかった。あるのはただただ理不尽な死への怒りとくだらない意地。

きっと私がここで余計な事をしない方が世界の平和は守られる。私がこのまま、他の被害者たちと同じように物言わぬ死者として結果を傍観していれば丸く収まる。分かっている。けれどそんなのはフェアではない。


 だって、私はあの日、理不尽に奪われたのに。



 闇の中へと手を伸ばす。

 何か生温くて、不快な感触の何かに触れた気がした。そしてその『何か』が、皮膚を通して実体のない私の体へ入ってくる。最早私の中へ入っているのか、私が『何か』に取り込まれているのかは定かではない。

 同化していく。塗り替わっていく。切り替わっていく。

私の視覚が、聴覚が、嗅覚が、触覚が、感覚が、思考が―――広がってゆく。




「―――あっ ハ」



 全ての『何か』を……いや、『私』を取り込んだ。

 私だった時にはなかったもの、何かであった時にはなかったもの。あらゆる情報が統合され、最適な形へと再構築されていく。

 別の生き物に変化していくことに混乱はない。だって、それはいずれも『私』か『何か』のどちらかには備わっていたものだったから。多少、処理することが増えてしまったが、問題はない。既に使い方は覚えた。

 何だかとても、気分がいい。


 広がった視界が目の前の扉を映す。耳障りな祝詞が聴こえる。扉が開かないように向こう側で数人の人間が何かの細工をしているのを感じる。

 今までの『わたし』ならばこの扉を自力で開けることは叶わなかった。しかし、今の『私』ならば、こんなものは障害にはならない。


 さァ、出よウka


 全ての手で扉に触れた。次はすり抜けることはなかったが、触れた先から溶けた身体が扉の隙間に染み込んでいく。そうして全ての身体を外へと押し出した。



「なっ、なんだ!?」

「何かが染み出してきましたッ! これはッ…」

「ひぃ!? 助け、」


 扉の外で札のようなものを貼っていた人は、突然粘液状になった私が出てきたことに驚いていた。状況を報告するプロ精神は本当に素晴らしいけれど、そのせいで少し逃げるのが遅かったみたい。まあ逃がすつもりもなかったけど。

 ドロリとアメーバか何かみたいに出てきた私は進行方向にいた三人をそのまま飲み込んだ。下には積み上げられた大量の遺体(ごちそう)。あぁ、なるほど。信者たちは『わたし』がお腹空いてるって知ってたから一生懸命準備してたのか。うーん、理由は分かったけどやっぱり納得はしかねるよね。

 若干複雑な気持ちになったけど、ちゃんと残さず食べますとも。しかも、今は他にもたくさん新鮮な食材がいるし。テンション上がっちゃうなぁ。


「扉も開いていないのにどうして…!?」

「隊長、ここはダメです! 撤退の指示を!」

「だがアレをこのままにするわけにはいかない…総長に連絡を取れ! A班は呪文の用意、B班とC班は攻撃を開始しろ! あの玉虫色の粘液には絶対に触れるなよッ」


 さっき祝詞を歌ってた人が隊長なんだ。それにしても手慣れているなぁ。さっきいたお偉いさんは一番ムカついたから戻ってきてほしいけど、下手に強い人に来られても困るしなぁ。それにこれ以上ご飯が増えてもお腹いっぱいで食べられなかったら勿体ないし。

 仕方がない、早めに終わらせようか。


「なっ、なんだ!?」

「どうして急に増えッ――!」


 私は質量を増やし、身体を天井付近まで高く高く持ち上げた。イメージとしては、津波。『わたし』にはなかった知識を使い、私はより効率的に目の前のご飯を飲み込んでいった。









「―――ケフッ」



 すっかり静かになった儀式のお部屋には既に私以外誰もいない。宙に浮かんでいた扉はいつの間にかなく、ご馳走は全て私の腹の中だ。

 出入口の外に気配はない。私はここに連れてこられて初めて部屋の外に出た。そこにはまっすぐに通路が伸び、しばらく進んだ先には上り階段がある。ズリズリと這い上がって行けばステンドグラスのある寂れた教会。どうやら今までの部屋は地下だったようだ。

 わずかに人の声や気配を感じ、細い触手を伸ばして探したら教会の外に何台もの大型車と見張りを数人見つけた。どうやら地下組の帰りを待っていたようだ。

 残念ながらあのリーダーみたいな人はいないけれど、いつまで経っても下にいるはずの人たちが来ないと怪しまれるかな? と思い、見張りにいた数名を平らげた。食後のデザートは別腹なので。

 そうしてようやく人の気配が消えた。

 私は増やしていた質量を戻し、更に小さく圧縮していく。コツが分からず少し時間はかかったが、腹の中にある『私』の肉体をもとに私を形作っていく。




「縺ゅ�縺ゅ�縲� アっ、あーあ~~……よし」


 満月の明るい深夜。人のいる町や民家から離れ、鬱蒼とした草木が生い茂った中にある教会の前で、私は自分の姿を確認していた。まだあどけなさの残る少女は間違いなく私自身だ。ちゃんと声も前と同じに発せられる。

 どういう技術かは分からないけれど、私の遺体が腐ってなかったのって確実にあの魔法陣の効果だよね。あれなかったら流石に元の姿にはなれなかった気がする。危なかった。


「うーん、でも…どうしよっか」


 元の私の姿に成ることが出来た。これは素直に喜ばしい。

 けれど、さっきは怒りに任せて行動していただけでその後のこととかノープランだったから、今後のことについて何も考えていない。困った。

 一応大型車の中にあったスマフォとかで私が誘拐されてからの日数を確認したら3か月くらいしか経ってなかったみたいだ。意外に短い。まあでもいきなり行方不明になったら家族には心配かけたんだろうな…あっ、やっぱりニュースになってる。

 ちなみにスマフォにはロックがかけられてたけど、一回取り込んだ物の情報は全て記憶しているから、一時的に指紋をスマフォの持ち主のものに変化させて使っている。予想以上に便利だな『わたし』。


 一通り私が死んだ後のことについて調べた後、考える。

 正直、私は神様とやらに取り込まれて消滅するのだと思っていた。取り込まれたらきっと私の意思は消滅するか、自我を失って暴れまわってさっきの人たちに消されるかのどちらかだと思っていた。

 個人的にはムカつく相手に一矢報いてやれたらいいなとは思ってたけど、最悪神の養分か何かになって少しでも無駄要素がなくせたら御の字だとも考えていた。

 それが、まさかこんなことになるとは。人生何があるか分からないものだ。


 何はともあれ、人ではなくなってしまったが、私は生き延び、元の身体に擬態することも出来る。

 邪魔者はいないし家族は心配している。さっき確認したら待ち望んでいたアニメの二期が決定したとの情報も手に入った。

 それなら、取る行動は一つしかないだろう。




「……かえろっか」


 誰に言うでもなく、私は呟いた。

 『私』がいた証拠も、『わたし』がいた痕跡も全て消した教会が炎に焼かれる。その光を背に、私はドロリと身体を融解させ、近くにいたフクロウを取り込んで姿を変えた。

 ここから北にまっすぐ向かえば私の住んでいた町まではおよそ半日で着くだろう。私は翼を広げ、初めての空の旅を楽しみながら、発見された時の言い訳に頭を悩ませるのだった。


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