後方に行きたいんですけど
地図を見せてもらう。
伊勢国の主な要塞——城を皆に訊きながらその位置を確認する。
まずは、阿坂城。阿坂から南に向かっていくと大河内城があり、そこから北東の方角に細頸城。細頸城の東に大淀城。大淀城の西に五箇篠山城……
(よし、五つの城がある。魔法陣をつくることができるぞ)
五つの城に人員を配置し篝火を絶やさないようにする。それらを線で結ぶと巨大な魔法陣だ。結界をはりオダが侵入できないようにしよう。
シオンは魔法陣の真ん中にいて身を守りたいのだが……ジェネラルという立場上、どこかの城を任されるだろう……ならば後方にあたる南側の城に篭って戦が終わるまで待ちたい。南側の城は大淀か五箇篠山だ。
背後に山がある五箇篠山の方がいい。いざとなったら山に逃げて潜むことができる。
「あの、私はこのゴカササヤマに入りたいのですが……」
トモノリにそう願い出た。
「ああ、その城は野呂に一応任せているが、めったに使わない城でな。荒れたままにしてある。雲出川から離れておるし、今回の木造攻めでも使わないだろう」
「……いや、しかし……万が一敵が雲出川を越えてきた時のためにですね、南の方の城も備えておくべきです……、ですから私に南の守りを任せてください」
シオンはしどろもどろになりつつも、なんとか後方担当になるために理屈をこねた。
「大河内御所様のおっしゃる通りでございます! 南の方も固めるべきです!」
そこへキタバタケの家臣の一人が発言した。シオンを援護するかのように。
「敵は雲出川の向こうだけにいるのではありません。海の方からも侵略してくるでしょう。南の方もおろそかにしてはなりませぬ」
発言の主はノロエチゼンノカミという人物で、シオンが配置希望している五箇篠山城の城主である。
「私は常日頃、南の各所、湊に入ってくる情報に目を光らせております。どうも近頃、九鬼が織田と親しくしているようなのです。ひとたび戦になれば、必ずや織田は海側から九鬼を差し向けるでしょう」
「むっ。我らが追放した九鬼が……」
場がざわつく。
ノロの報告によって南の重要性を皆が認識し、会議の流れが一気に変わる雰囲気だ。