死にたくない
シオン(大河内御所)の家臣は別室で待機している。一人で乗り切れるか不安だが、なんとかするしかない。
「さぁさぁ、大河内様は前の方へ……」
皆に促され、トモノリの隣り……ではなく、トモノリの隣りの太った男の近くに座ることに。この太った男はトモノリの息子であり「ゴホンジョ」と呼ばれるキタバタケのトップである。が、父親のトモノリの方が圧が強い……気がする。会議を上手く乗り切るためにはトモノリをヨイショするのが得策か。
シオンが加わり出席者は全員そろい、会議は始まった。トモノリは咳払いを一つすると、こう言った。
「近頃、三好が騒がしい。織田が三好に気をとられておる今のうちに木造を征伐する! 木造城を我らのものとし、いずれ織田のやつらを迎え撃つのじゃ」
シオンにはよくわからないが、とりあえずコツクリ御所を攻めるということは理解した。
コツクリか。たしか、ホシアイサエモンノスケは「クモヅ川で織田を追い返す」と言っていた。コツクリ城は川の北岸にある。キタバタケの領地は川の南側。つまり、コツクリ城を手に入れたらそこはキタバタケを守る最前線となるのだ。
「そこでだ。木造を落としたならば、木造城を大河内に任せたい」
「……え?」
「ん? 大河内、不満か?」
「え、いや、その……」
最前線に立たされるのは嫌だ。自信がないし、怖い。
なんとか後方でやり過ごしたいのだけど。
「大河内御所様が木造城にお移りになるならば、大河内にはどなたが入られるのでしょう?」
家臣の一人が質問した。
「わしじゃ。わしが大河内城の館に移る」
トモノリの答えにシオンは震える。今住んでいる館を追い出され、最前線に立たされるということか?
祖国に帰れない、イセノクニで何とか穏やかに暮らすことも叶わない。それどころか、イセノクニで死んでしまう!
「あ、あの! 私に考えがあります! ……えっと、イセノクニの地図ってあります? 見せてください!」
シオンはうわずった声で発言した。なんとか会議の流れを変えたくて苦しまぎれに出たものであった。