一之太刀
白い髪で小柄な男がいた。ツカハラ先生だ。
「もう何も教えて差し上げるものはございません。この卜伝は伊勢を去ります」
「?」
「最後に、貴殿に一太刀を伝授しようと本日は参りました」
「ヒトツノタチ?」
なんだかよくわからない。それはもしかして、魔法のことか?
ツカハラ先生は大魔法使いで、ゴショサマはその弟子なのだろうか。
「そのヒトツノタチを自分のものにできたならば、何でも可能になるのでしょうか?」
なんかすごそうな魔法を習得したら祖国に帰れるかもしれない。
「それは貴方様のお心がけしだいでございます」
ツカハラ先生の言葉にシオンはハッとする。魔法を習い始めた頃に師匠に言われた言葉と同じだったからだ。魔法はあらゆる事を可能にする。しかし、自分の気持ちによっては何もできなくなるのだ。
「ツカハラ先生、ぜひ、伝授してください。ヒトツノタチを」
「ええ。では、私と勝負をしましょう」
シオンはおのれの魔法を試してみることにした。伊勢国で通用するのかわからないが、やるしかない。
「ヨンケ、レマト、ヨンケ、レマト……」
シオンはツカハラの目を見つめながら呪文を唱える。ツカハラもそれに応えるかのように瞳を微動だにしない。視線と視線が衝突しお互い身動きができないような状況になっている。
「……うっ」
先に苦悶の声をもらしたのはツカハラであった。その機をのがさないようにシオンはさらに呪文を唱えつづける。
「ヨンケ、レマト、ヨンケ、レマト」
そこからツカハラが崩れ落ちるまで早かった。
「……お見事です。貴殿はすでに一太刀を体得しておられた……」
「???」
わけがわからないが、シオンの勝ちということらしい。
こうしてツカハラ先生は伊勢を去ることになったのだが、出立の直前、シオンに意味深なあることを告げていった。
「オダが伊勢を狙っています。ゆめゆめ兵をおろそかになさいませぬよう…」