御所様になった
何を言っているのか。
「私はゴショサマという人とは別人です。魔法使いシオンです」
シオンは「全国魔法協会」発行の身分証を取り出そうと懐に手を伸ばしたが、そこで己の衣装が異国のものになっていることに気づいた。着替えた覚えはない。そして身分証も見つからない。
「魔法をお使いになるということは、やはり貴方様は御所様です」
男三人は皆口々に言い、ほっとしたような顔をした。どうやらゴショサマも魔法使いらしい。
「誤解です。私は御所様ではありません」
「何をおっしゃる。さあ、今日は帰りましょう」
男たちにシオンに危害を加えるような雰囲気はない。シオンはとりあえず彼らについて行くことにした。頃合いを見て逃げ出し自宅に帰ればいい。
親切なことに、彼らはシオンを馬に乗せてくれた。シオンは馬上から景色を眺めながら移動することができた。街道沿いには木で作られた家が並び立つ。そしてその先には山々が見える。
やがて大きな山の麓にある「館」に着いた。シオンはそこでも「ゴショサマ」と呼ばれ出迎えられる。
皆、シオンのことをゴショサマと勘違いしているのか。余程似ているのだろう。
「ゴショサマという人と私は別人ですよ」
「何をおっしゃるの、御所様」
ゴショサマの妻だという女がそう言いながら着替えを持ってきてくれた。
「貴方様は御所様ですよ。ご自分のお顔をご覧になって確かめてください」
女は手鏡をシオンの鼻先につきつける。
「……これは、この顔は私の顔ではない……」
そこに映っていたのは見慣れた自分の顔ではなかった。
どういうことなのか……?
「……そういえば」
と、シオンは魔法使い仲間から聞いた話を思い出す。昔、召喚術の失敗が原因で、異世界の人間と魂が入れ替わってしまうという事故があったらしい。
「私も召喚術に失敗した……?」
何ということか。シオンの魂とゴショサマという人物の魂は入れ替わってしまったのだ。