戦国時代にやってきた。
大河内の御所は予て魔法を行う兵法の達者なり 『勢州軍記』より
魔法使いシオンはその時、召喚術を試みていた。場所は自宅。床に魔法陣を描き、それを囲うように蝋燭を四本、ゆらめく四つの炎がシオンの頬を照らす。
シオンはいまだこの術に成功したためしはなく、魔法使い仲間からは冷ややかな目で見られていた。
今度は、上手くいくだろうか。
召喚するのは、うさぎ。小動物は難易度が低く、初心者向けだ。
「デイオデイオニラチコ、ホニャラララー」
呪文を唱え、目を閉じ、両手を頭上で合わせ、息を深く吐く。
上手くいけば、そこにうさぎがいるはずだ。
三、二、一……ゆっくりと瞼をあげる……。
「ん? ここはどこだ?」
自宅にいたばすのシオンは森の中にいた。魔法陣も蝋燭もなく、暖かな木漏れ日がふりそそぎ、さわやかな風がシオンの額を撫でる。
「御所様! 御所様! こちらにいらっしゃいましたか!」
木々の間をぬうようにこちらに駆けてくる男が三人。皆、奇妙な形をしている。異国の服装か。だが、言葉は通じるようだ。
「御所様!」
「ゴショサマとは?ここは何処?」
「……御所様は御所様です」
男三人は互いに顔をしばらく見合わせて黙っていたが、一番背の高い男が口を開いた。
「かなりお疲れのようですね。今日は館に戻りましょう」
このまま森の中に一人でいても帰れるかわからない。というわけで、なんだかわけのわからぬまま、シオンは三人についていくことになった。
森をぬけると、弓矢を持った数十人の男たちが跪いてシオンを出迎えた。
「この人たちは?」
「御所様の鷹狩りの従者たちです。森の中で御所様を見失ってしまい、皆で探しておりました」
「……そのゴショサマというのは誰なの?」
「……貴方様です」
「???」