54話 蝶
「あ、いいこと思いついた!」
トビウオを10匹程倒したところで、私は足を止めてそう言っていた。
トビウオは飛んでいるためかなり戦いにくかったのだが、それを一気に解決する方法を思いついたのだ。
「それじゃあ、作って行きますか!」
ここには錬金術をする時の大鍋がないけど、素材は沢山あるからね。
設備が整っていない状態でもアイテムを作れてこそ生産職!
必要なのは.....蔦とか蜘蛛の糸とかだね。
多分蜘蛛の糸の方が強度高いよね?
「出来れば蜘蛛には合わずに蜘蛛の巣だけ見つかりますように.....」
そう呟き、私は蜘蛛の巣を探すために再び森の中を進んでいった。
「くーものすーはどーこだ?よーこいーとすこし、たーていーとたくさん!ほーんたーいはいらない、どこにあるー?」
縦糸は粘着力が低く、横糸は粘着力が高いらしいのでこんな歌詞になっているのだが、そんな即興で作った歌を口ずさみつつ、木々を見上げながら歩いていると枝と枝の隙間で光が反射した。
「あ、あった!木登りは久しぶりにやるけど.....大丈夫だよね?」
幼稚園の頃何度かやったことはあるものの、それから10年はやっていない木登り。
今、10年ぶりの挑戦が幕を開ける!
「とりあえず掴める所は.....あそこが良さそうだね」
見つけた突起に手をかけ、足で幹を蹴って次の突起に手をかける.....
が、体を浮かしてしまった為突起を掴んだ左手に体重がかかり、私は木から落下してしまう。
「いたた.....次はもっと慎重にやらないとね」
立ち上がって体についた土を払い、私は再び突起に手をかける。
今度はゆっくりと体を持ち上げて2つ目の突起に手をかけ、最初の突起に片足を乗せることに成功した。
「いい感じだけど.....人に見られる前に終わらせないと!」
いくらゲームとはいえ、必死に木登りをしている姿を見られるのはかなり恥ずかしい。
そんなことに今更ながら気づいた私は丁寧かつ素早く木を登っていく。
そして、木登りを始めてから5分程で誰にも見られることなく蜘蛛の巣がある枝の上に辿り着くことができた。
「ふう.....ここまで来れば見られても大丈夫だね」
状況としては全く同じで木登りをしているだけなのだが、枝の上にいると見られても大丈夫という気持ちになる。
「人間って不思議だね.....じゃなくて、早速巣を回収しますか!」
精神の不思議を忘れ、改めて蜘蛛の巣を見ると普通の蜘蛛の数十倍大きいだけあって巣もかなり大きい。
教室一部屋ぐらいはあると思う。
巣が大きければ、もちろん巣の主である蜘蛛も大きく、もちろん獲物も同じ以上に大きい。
今かかっているのは透き通った水色の羽を持つ1匹の蝶だけだったが、羽があるせいか蜘蛛よりもふた周り程大きいように見える。
「それにしても、こんなモンスターが森にいたんだね。草原の鳥といい、隠しモンスターが多いのかな?」
そう呟き再び蝶をまじまじと眺めていると、蜘蛛が蝶に向かって歩き始めた。
おそらく、蝶を食べようとしているのだろう。
それを見た私は反射的に巣の縦糸に触れ、強く巣を揺すっていた。
それに驚いた蜘蛛は動きを止め、もう動けない蝶よりも私が脅威だと判断したのか、こちらへと体を動かした。
さて、なぜ私がこんな行動を取ったかだが、もちろん蝶を助けたかったからではない。
私は蜘蛛を睨みつけ、メイスをしまって言った。
「ふふふ.....レア素材は渡さないよ!」
ゲームプレイヤーなんてこんなものでしょ?
「こっちのハンデとしては、蝶が傷つくかもしれないからできるだけ巣への攻撃禁止、足場がすごく悪い.....まあ、何とかなるでしょ!」
私の言葉が終わると、蜘蛛が凄まじい速度で巣を駆け下りてきた。
そして、私の攻撃が届かない程度の距離から液体を口から吐き出す。
「はやっ!?」
蜘蛛の移動と吐き出しの速度が合わさった液体は、私に目を瞑ることすら許さなかった。
「うわっ!汚いし臭い!再生!」
液体に包まれた私は瞬時にそう言って体に再生の薄水色の光を纏った。
匂いはどうしようもないが、これで毒のダメージを相殺できる。
「それじゃあ、今度はこっちの番だよっ!」
私はそう言うと、蜘蛛の巣を探していた時に見つけた薬草を数枚手に取り、横糸を掴む。
こうして横糸に道を作り、私は蜘蛛へと一直線に突き進んでいった。
蜘蛛は液体を吐く以外の攻撃手段がないのか、その場から動かずに私を待ち構える。
そんな蜘蛛の虚をつくため、私はある程度進んだところで下に落ち、反発力を使って蜘蛛がいる場所へと一気に跳躍する。
そして、すかさずウエストポーチからメイスを取り出し、蜘蛛の頭へと叩きつけた。
「やったね!」
頭を失った蜘蛛を眺めながら私はそう言って左手に薬草を持って蜘蛛の巣を掴む。
「さて.....これからどうしようかな?」
後は動けない蝶を倒すだけなのだが、これがなかなか難しい。
下手に蜘蛛の巣に攻撃してさらに羽を傷つけたくはないが、他に手段がある訳でもない。
とりあえず倒してから考えようと、薬草を手に蜘蛛の巣に手をかけたところで、私の後ろから1本の矢が飛来し、蝶の胴体を射抜いた。
「あ、私の蝶!」
そう叫ぶが無常にも蝶は素材すら残さず光の粒となって消えてしまった。
矢が飛んできた方向を見ると、木の影に迷彩服を着た明らかなプレイヤーが弓を手に立っていた。
迷彩服は私の視線に気がついたのか、木の影から1歩前に出ると、私に向かって弓を構え、獰猛に笑いながら言った。
「よぉ、遊ぼうぜ?」




