49話 逃走
「とりあえず攻撃してみる!」
いかにも硬そうな蟹に攻撃が効くかはわからなかったが、私は蟹へと走ると頭と同じ程の高さにある関節に向けて短剣を振るう。
パキッ!
そんな小気味よい音をたてたのは蟹の殻ではなく、短剣の方だった。
幸い折れはしなかったが、刀身にヒビが入ってしまっている。
「あっ!折れた!」
そのことに気づいた私はそう言って蟹から離れる。
攻撃を受けた蟹はというと、何も無かったかのように身動き1つとっていなかった。
「クウ、何か効きそうな攻撃ある?」
短剣以外の攻撃方法を持たない私はクウに望みを託す。
「ないです...」
しかし、返ってきたのはそんな言葉だった。
「よし、逃げよう!」
私はそう言うと、ダンジョンの入口へと走りはじめる。
そんな私を見てクウが言う。
「海月さん、来た方向はこっちですー!」
「あれ、そうだっけ?」
こんなところでも持ち前の迷子力を発揮するところだったが、クウのおかげで方向を間違えずに済んだ。
「帰ったら新しい攻撃手段を考えないとね...」
「私も新しい魔法を覚えられるよう頑張ります!」
蟹が動かないので楽に逃げられると思った私達はそう言いながら沼を走る。
すると、ここまで全く動いていなかった蟹が急に動きだした。
振動を感じた私が振り向くと、蟹の背についた何かをアイちゃんが取ろうとしている姿が見えた。
「「アイちゃん(さん)!?」」
クウもそれを見たようで、声が揃った。
触らぬ神に祟りなしとは言うが、1度危険な目にあった上で触りに行くアイちゃんはかなり珍しい存在なのではないかと思う。
...じゃなくて!
「アイちゃんアイテムはいいから戻ってきて!逃げるよ!」
そう叫ぶが、アイちゃんは戻ってこない。
蟹との距離が50メートル程になった時、アイちゃんが尻尾に何かを持ち飛んできた。
もちろん蟹もそれを追って、こちらへと走り出す。
「アイちゃんさん!それ返してきてくださいぃ!」
蟹は明らかにアイちゃんが持っている何かを追っているようだった。
クウがそれを知ってかそう叫ぶが、やはりアイちゃんはそれに答える様子がない。
「...仕方ないから蟹に追いつかれる前にダンジョンを出よう!もしかしたらレアアイテムも手に入るかもだし!」
あの蟹から逃げ切れる気はしないが、私はそう言って速度を上げる。
「わ、わかりましたぁ!」
クウもそう言って必死に出口まで走る。
しかし、たったの10秒程で蟹は私達との距離を無くしてきた。
私達は攻撃対象になってはいないが、少しでも速度を落とせば蟹の脚に潰されること間違いなしだ。
「海月さんっ...私、もう走れないですっ。後はお願いします、水魔法!」
全力疾走を続けること30秒、クウが立ち止まって杖を構えるとそう言った。
すると水が動き、道が出来上がった。
「任せて!」
クウが蟹に潰されるまでの数秒だけだったが、水と比べて圧倒的に走りやすいその道を駆け、私は蟹に追いつかれるまでの時間を伸ばす。
「あ、渦!」
視界に渦が入った。
ここからの距離は後100メートルといったところだろう。
「アイちゃん、パス!行って!」
ここからでは絶対に間に合わないと悟った私はそう言う。
アイちゃんはアイテムを諦めていないことがわかったのか、素直に私へと持っていたアイテムを投げると渦へと飛ぶ。
やはり蟹はアイテムを追っていたようで、動きを止めるとハサミを私へと伸ばした。
「これ、ダンジョンコア?...アイちゃん頑張って!」
落下してきたそれを手にした私は即座にそれを渦に向かうアイちゃんへと投げる。
アイちゃんがそれを尻尾で器用に掴んだ次の瞬間、私は上から降ってきたハサミに潰され死亡した。
「...それにしても、アイちゃんって私が死んでも動けるのかな?一応しばらくこのままで待ってますか」
教会で私がリスポーンした時アイちゃんは装備品扱いなのか一緒にリスポーンしたので、アイちゃんがダンジョンから出るまではここで待つことにした。
アイちゃんが蟹に潰されても自動修復で何とかなると信じて...
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「あ、上手くいったんだね」
リスポーンした私はそう言っていた。
アイちゃんが尻尾でダンジョンコアを持っていたのだ。
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トッタ!
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そう文字を表示するアイちゃんはどことなくドヤ顔をしているように見えた。
「やったねアイちゃん!」
アイテムのレア度は高くないだろうが、3人で協力して何とか手に入れたアイテム。
なんとも言えない達成感がそこにはあった。
無事アイテムが手に入ったことを伝えようと私はクウにメッセージを送る。
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アイテム手に入ったよ!
ダンジョンコアっていうアイテムだけど、いる?
無駄死ににならなくて良かったです!
確かクエストがあったので、海月さんが使わないなら
欲しいです
それじゃあ、広場に持っていくね
ありがとうございますー
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「クエストなんてあるんだね...今更だけど職業も魔法使いらしいし、どうやってなったのかな?」
広場で聞いてみようと思いながら、私は宿屋を出た。
宿屋から広場まではすぐに辿りついたので、クウはついているかと辺りを眺める。
「あ、いた!」
錬金術ギルドがある方向からクウが走ってきているのが見えた私はそう言ってクウに手を振る。
「あ、海月さんお疲れ様でした!」
私のことを見つけたクウはそう言って私に手を振り返した。
「それじゃあ、これ」
私はそう言ってクウにダンジョンコアを手渡す。
アイちゃんが羨ましそうに見つめているが、今すぐ使えるようなものでもないので別にいいだろう。
「すいません、ありがとうございます。次遊ぶ時は海月さんが欲しいもの言ってください!」
「うーん...魔法!」
「わかりました、魔法に使えそうなアイテムは渡します!それじゃあ、そろそろ落ちます。今日はありがとうございました!」
「こちらこそありがとう。またねー」
クウはそう言って少し前にきた道を戻っていった。
「それじゃあ、私は武器を直そうかな」




