その5 ~ゲーム本編~
※こちらはカドゲ・ボドゲカフェ企画の参加作品となります。
全部でその6まであります。本日6/27中に全て投稿する予定です。
ワオンから配られたカードを見て、ブランは固まってしまいました。ルージュがくすくす笑います。
「これ、ぬすっと動物の絵じゃないか! うわぁっ、しかもこいつ、チーズケーキを盗んでるぞ!」
ブランのカードにはカラスが3羽描かれていたのです。それぞれチーズケーキを1つずつ、くちばしにくわえてにやにやしています。カードと自分のお菓子の家を交互に見て、ブランは盛大にため息をついてしまいました。
「はぁーっ、よりによってチーズケーキかぁ。壁の、一番下のところにあるよ」
「とりあえず絵にはチーズケーキが3つ描かれているから、ブラン君はチーズケーキを1つと、あとはそれ以外の、好きなお菓子を2つ家から外してね。もちろん崩さないように気をつけてよ」
ワオンにいわれて、ブランはうぐっと口ごもってしまいました。うらめしそうにお菓子の家をながめまわしていましたが、ようやくピンセットを持ったのです。
「ブラン、気をつけろよ。これ、けっこうすぐバランス崩れるからな」
ハンスのはげましにブランも真剣な顔でうなずきます。グレーテとルージュも、息をのんでハンスのピンセットを見つめます。
「とりあえず、まずは屋根の部分のパズルピースを2つ、外さないと……」
せっかく作りかけていた屋根を、ブランは惜しむように見ていましたが、とうとうその一番はしっこを、ピンセットで慎重につまんだのです。指が、そしてピンセットがプルプルふるえます。もちろんみんなも、息をひそめてピンセットの動きを見守ります。
「……はぁっ……!」
なんとかバランスを崩さずに、パズルピースを1枚外して、ブランは「フーッ」と大きく息をはきました。さらにもう1枚、これもゆっくり、じわじわと外したので、なんとか崩さずに抜き取ることができました。
「フーッ、あぁ、緊張したなぁ。ドキドキして指がふるえてさ。あとちょっとで落とすところだったよ」
「よっしゃ、ブランがんばれ、あと1枚だぜ!」
ハンスの言葉に、再びブランは意識を集中して、お菓子の家の壁をしっかと見つめます。ピンセットをカチカチと鳴らして、チーズケーキの絵が描かれた、一番下のパズルピースの状態を調べます。
「……うげっ、ちょっと引っかかってないか、これ……」
ブランが苦々しげな顔をします。ルージュたちも、邪魔にならないようにそっとパズルピースを観察します。
「ホントだわ、となりのピースと、しっかりはまっていないみたいね。ブラン、これ、けっこうやっかいよ」
ルージュが難しげな顔でささやきました。ブランも小さく首をたてに振り、それからパズルピースの取っ手にピンセットを引っかけました。
「いったんピンセットで持ちあげて、土台に差しこまれたところを抜かないと外れないぞ、これ」
「わかってるさ、とにかくじっくりいくよ。頼むぜ、崩れないでくれよ……」
プルプルとピンセットをふるわせながら、ブランは取っ手をゆーっくりと持ちあげていきます。
「大丈夫か、ブラン……」
静まり返った中で、ハンスのつぶやきが響きました。引っかかっていたとなりのピースが、わずかにバランスを崩します。
「ヒッ……!」
息をのむルージュでしたが、ブランは一瞬ピンセットの動きを止めます。
「頼む、ぜ……」
さらにそーっと、かたつむりの行進のように、じわじわとピンセットを動かしていったのです。
「あとちょっとだよ、ブランお兄ちゃん!」
応援するようにいったあとに、あわててグレーテが口を手で押さえます。ハンスは完全に集中している様子で、それにも気を取られずに、じょじょにパズルピースを持ちあげていきます。
「土台から、完全に浮いたぞ……」
土台に差しこまれていたピースの下の部分が、浮き上がって見えてきました。ですが、他のピースにも引っかかっていて、お菓子の家の壁全体も浮き上がってしまっています。
「あせるなよ、大丈夫……ぼくなら、できる!」
カッと目を見開いて、ブランがすばやくパズルピースを引っぱりました。そして……。
「うおおっ! やったぞブラン、すげぇな!」
なんとかバランスを崩しながらも、ブランはチーズケーキのピースを抜き取ることができたのです。これにはハンスだけでなく、ルージュもグレーテも、それにもちろんワオンも大盛り上がりです。
「すごいわね、ブラン! 絶対崩れるって思ったのに、やるじゃないの!」
「ブランお兄ちゃん、かっこいい!」
ルージュとグレーテに口々にほめられて、ブランはもう有頂天です。えへんと胸をそらします。
「ま、ざっとこんなもんさ。ぼくにかかればぬすっと動物カードなんて、楽勝だよ」
「いやでも、ホントにすごいね。この様子じゃ、以前ブラン君がトップかな?」
ワオンの言葉に、みんなそれぞれのお菓子の家に視線を移します。確かにパズルピースの多さでいえば、ブランが一番多い気がします。
「うふふ、でもまだ勝負はこれからよ。さ、次はわたしね」
優雅にほほえむルージュでしたが、次のカードを見て「あら」と思わず声をあげてしまいました。
「おっ、ルージュもぬすっと動物カードじゃないか! しかもこの羊、キャラメルを毛の中にいっぱい隠してるぞ。1つ、2つ、3つ……4つだ!」
ブランのいう通り、ルージュのカードにはにっこりしている羊の絵が描かれていたのです。羊のふわふわの毛には、ところどころキャラメルがはさまっていたのでした。
「あちゃー、ルージュちゃん、キャラメル4つだけど大丈夫かな?」
ワオンに聞かれても、ルージュはおすまし顔で笑っているだけでした。ブランが首をかしげます。
「なんだよ、ルージュったら、ずいぶん余裕じゃないか。確かキャラメルって、一番最初にルージュが引いたカードだろ? それなら壁の一番下に使われているから、外すの難しいんじゃ……あっ!」
ルージュのお菓子の家をじろじろ見ていたブランは、ハッとしてルージュの顔を見つめたのです。ルージュは笑ってうなずきました。
「そうよ、わたしはぬすっと動物カードが出たときのために、お菓子をばらばらに配置してたの。だからほら、キャラメルも……」
ルージュはうふふと得意げにブランを見てから、まだ上にパズルピースが乗せられていないキャラメルのピースを一つ外しました。ブランがあわあわしているうちに、ルージュはすっすっと、簡単にキャラメルのピースを外していき、結局少しも崩すことなく、4枚全部を取り終わったのです。これにはブランだけではなく、みんな口をあんぐり開けてしまっています。
「さ、次はハンス君の番でしょ? まだまだ始まったばかりだし、勝負はわからないわよ」
すました顔のルージュに、グレーテがあこがれのまなざしを向けています。
「ルージュお姉ちゃん、カッコイイ!」
「うふふ、でも、これでわたしもピースは減っちゃったから、今一番有利なのは、グレーテちゃんかもよ」
ルージュにいわれて、グレーテのりんご色のほおが、さらに色づき、コクコクッと何度も頭をふるのでした。