その3 ~インスト~
※こちらはカドゲ・ボドゲカフェ企画の参加作品となります。
全部でその6まであります。本日6/27中に全て投稿する予定です。
ワオンは四人に、手のひらに乗るくらいの大きさのボードを配りました。ボードには溝がいくつも掘られています。と、そのボードをじぃっと観察していたグレーテが、「あっ」と声をあげたのです。
「これ、チョコレートでしょ!」
「正解。そうだよ、これはみんなが作る、お菓子の家の土台なんだ。もちろん本物のチョコレートじゃないけど、板チョコみたいでおいしそうでしょ? みんなはこれから、このボード、というか土台に、パズルのピースを差しこんでいって、好きな家を作っていくのさ」
ワオンはそういって、箱の中に入っていた無数のパズルのピースを一つ、指でつまんで取り出しました。もちろん爪は引っこめて、傷つけないようにしています。
「例えばこのピースだけど、お菓子の絵が描かれているでしょう?」
「ホントだ、これは……ビスケットだ!」
グレーテが歓声をあげます。ワオンはにこっとして、ピースをグレーテに渡しました。
「そうだよ、正解だ。そしてほら、これを見てごらん」
今度はカードの束の中から、グレーテに渡したピースと同じ絵柄のものを見せたのです。ビスケットが三枚描かれたそのカードには、『ビスケット・3枚』と書かれています。
「ワオンさん、これは?」
「このゲームはね、みんなで順番にこのカードを引いていくんだけど、カードにはこんな感じで、どのお菓子を何枚使うかが描かれているんだ。このカードなら、ビスケットを3枚使うってことだよ。ちなみにほら、こんな感じでちょっと小さなビスケットのピースもあるんだよ」
ワオンがパズルのピースから、先ほどよりも小さなものを渡しました。
「こっちはお菓子の家の中、家具を作ったりするためのピースだね。このゲームには、家の壁や屋根を作るピースと、家具を作るピースがあるんだ。それで、みんなはどっちのピースを使うか選ぶことができるよ」
「家具を作ったりもできるのね」
なるほどとうなずくルージュに、ワオンは楽しそうに笑みを浮かべます。
「そうだよ。ちなみにどのお菓子を使うか、そして家具や家の大きさで得点が決まるんだけど、今回は初めてだし、得点はあんまり気にしないでいいよ。ただ、ルールとして、家具は必ず2つ、そして家の壁はピース3枚分の高さを持っていないといけないから、そこだけ気をつけてね」
「でもこの土台、けっこう小さいですけど、中に家具を作るのは難しくないですか?」
ハンスに聞かれて、ワオンはうなずき、箱の中からピンセットを取り出しました。
「そうさ。だから家具のピースをはめこむときは、このピンセットを使ってするといいよ。あと、ピースを外すときも同じようにピンセットを使うといいよ。ピースにちょっと取っ手がついているだろう? それを引っぱれば外れるからさ」
ワオンの言葉に、ルージュがまゆをひそめました。
「ピースを外すって、そんなことがあるの?」
「そうさ。実はこのゲームの一番面白いところが、そこなんだよ」
そういって、ワオンは先ほどのカードの束から、別の絵柄をみんなに見せたのです。そこにはかわいらしい子ネコが、キャンディを口に1つ加えています。さらにしっぽにも、キャンディを1つ巻きつけていたのです。
「こいつはね、『ぬすっと動物』っていうカードだよ。ぬすっと動物はけっこうやっかいなやつらでね。たとえばこのカードだったら、キャンディを2つ盗まれちゃったってことになるんだ」
「あっ、わかった! じゃあそのぬすっと動物のカードを引いたら、キャンディ二つをお菓子の家から取っちゃうのね?」
グレーテが手をあげて答えます。ワオンはおかしそうにふふっと笑ってうなずきました。
「そう、正解だよ。だからこのぬすっと動物のカードを引いたらさぁ大変。せっかく作った家の壁や屋根、家具とかから、キャンディだったらキャンディを、チョコレートだったらチョコレートを、そーっと、崩れないようにピンセットでピースを抜き取らないといけないのさ」
「くずれちゃったら、どうなるの?」
恐る恐るブランが質問します。ワオンはとびっきりの怖い顔でにたっと笑い、答えました。
「そしたら、くずれちゃったピースも全部ぬすっと動物に盗まれちゃうのさ。だからまた作り直しになっちゃう。ぬすっと動物のカードを引いたら、慎重にピースを外すようにしてね」
「でも、もしぬすっと動物の絵に描かれたお菓子が、家の材料に使われてなかったらどうするの?」
今度はルージュの質問です。ワオンはまたしてもうれしそうな顔で答えました。
「いい質問だね。その場合は、好きなお菓子を外していいよ。ちなみにさっきのカードは、キャンディ2つ盗まれちゃうことになるけど、もし自分のお菓子の家に、キャンディが1つしか使われていなかったら、キャンディ1つと、あと他の好きなお菓子を1つ外すことになるよ」
ワオンの説明に、ルージュは納得したようにほほえみ、レモンティーを一口飲みました。それを見ていたグレーテも、自分のはちみつ入りホットミルクを口に運びます。
「わっ、おいしい!」
グレーテは青い目をまん丸くして、思わずワオンを見あげました。ワオンはあははと笑います。
「よかった、気に入ってもらえて。グレーテちゃんのホットミルクは、はちみつだけじゃなくて、リンゴのジャムを入れてあるんだ。だから普通のはちみつ入りホットミルクと比べて、甘酸っぱくて優しい味になってるでしょ?」
グレーテはこくこくして、さらにホットミルクを飲んで、それからバームクーヘンを手に取りました。はむっと食べるグレーテを、みんなにこやかな顔で見守っています。
「さ、それじゃあルールの説明はこのくらいにして、そろそろ実際にやってみようか。あ、ちなみにおいらは最初は進行役ってことで、プレイしないから、みんなで好きなお菓子の家を建ててみてね」
「えっ、ワオンさんはプレイしないの?」
驚くブランに、ワオンはうなずいてカードの束を手に取りました。
「うん。おいら今日は、みんなにカードを配る役をするよ。おいらが持ってたら、グレーテちゃんも楽しめるだろう?」
ハンスが、グレーテには見えないものを見る力があるといっていたことを思い出して、みんな納得したようにワオンを見ました。当のグレーテは、バームクーヘンをもぐもぐしながら、はちみつ入りホットミルクに夢中になっています。
「んぐっ、もぐ……。ごちそうさま、ワオンさん、ありがとう」
「グレーテってば、ゲームをする前に食べちゃったら、ゲームしてるときにお腹空いても知らないぞ」
一気にバームクーヘンを食べてしまったグレーテを、ハンスは笑いながらからかいます。グレーテはぷくっとりんご色のほおをふくらませて、ハンスをじろりとにらみます。
「もう、お兄ちゃんのいじわる。……そんなことにはならないわ。ちゃんとおいしく食べられるもの」
「えっ? ちゃんとおいしく食べられるって、どういうことだい?」
目をぱちくりさせるハンスでしたが、グレーテはもう聞いていない様子で、せかすようにワオンにいいます。
「ワオンさん、早くゲームしよう! あたしもやってみたいわ!」
「わっ、グレーテ、すごい気合入ってるな。よし、それじゃあ兄ちゃんもがんばってお菓子の家を建てるぞ!」
さぁ、それではいよいよゲームの開始です!