その1
※こちらはカドゲ・ボドゲカフェ企画の参加作品となります。
全部でその6まであります。本日6/27中に全て投稿する予定です。
それでは最後までどうぞお楽しみくださいませ(^^♪
「それで、いったい相談ってなんだい?」
ブランが連れてきた、ふわふわした赤毛に、澄んだ青い目をした男の子に、ワオンがにこりと笑いかけました。ここは『ワオンのおとぎボドゲカフェ』です。オオカミのワオンが、おとぎの森に開いたお店ですが、普通のカフェとは違います。ボドゲカフェとは、カードゲームやボードゲームをしながら、おいしいお茶やケーキを楽しむ、とっても素敵なカフェなのです。
「大丈夫だよ、ハンス。ワオンさんはオオカミだけど、悪いオオカミじゃないんだ。それはぼくが保証するよ」
得意満面にドンッと胸をたたくブランを、双子の姉のルージュがジトッとした目で見つめます。
「あら、ついこの間まで、ワオンさんを悪いオオカミだって思ってたのは、どこの誰だったかしら?」
ルージュのツッコミを聞いて、ブランはうっと顔をそむけました。ワオンがアハハと笑います。
「まぁ、とにかくケーキとお茶でも楽しみながら、ゆっくり話してよ。もちろんおいらじゃどうしようもないことだったら、力になれないかもしれないけど、それでもできる限りのことはするよ」
ワオンに見られて、赤毛の男の子、ハンスは顔をあげました。それからこっくりうなずきます。
「うん、ありがとう。ブランとルージュちゃんは知ってると思うけど、相談っていうのはおれの妹についてなんだ」
「グレーテちゃんのこと?」
ルージュに聞かれて、ハンスはもう一度こっくりします。ワオンは軽く首をかしげました。
「その、グレーテちゃんかな? その子がどうかしたのかい?」
「あぁ、そうか、ワオンさんはグレーテちゃんのこと、というかハンスたちのことを知らないんだったな。それじゃあぼくが先に説明するよ」
目をぱちくりさせるワオンに、ブランが得意げに説明します。
「グレーテちゃんとハンスは、兄妹なんだけど、おとぎの森の中でもすごい力を持った一族なのさ」
もったいぶったいいかたをするハンスに、ワオンはロールケーキを切っていたフォークの動きを止めました。
「すごい力って、なんだい?」
「ワオンは、『ヘンゼルとグレーテル』って知ってるかい?」
唐突に聞かれて、ワオンはなにがなんだかわからない様子でうなずきます。
「おとぎ話の『ヘンゼルとグレーテル』かい? お菓子の家が出てくるお話だろう? うん、知っているよ」
「それがさ、実はおとぎ話じゃないんだよ。ハンスとグレーテちゃんは、そのヘンゼルとグレーテルの、グレーテルの子孫なんだよ」
ブランの言葉に、ワオンはさらにまん丸い目をぱちくりさせます。
「グレーテルの? へぇ、それはすごい、おとぎ話だとばかり思ってたけど、あの話は本当だったんだね」
ワオンに見つめられて、ハンスは照れたように笑いました。
「とはいっても、おれは別になんの力も持っていないんだけどね。持っているのは、妹のグレーテのほうなんだよ。おれたちの一族は、代々女の子にだけ、不思議な力が宿るっていわれているんだ。……魔女の力がね」
「えっ、魔女の?」
びっくりしすぎたのか、ワオンの口がパカッと開いたままになってしまいました。ルージュがくすくす笑います。
「ワオンさんったら……。そうよ、二人のご先祖様のグレーテルは、魔女が作ったお菓子の家のお菓子をたくさん食べたから、魔女の魔力が宿ったらしいのよ。それで、グレーテルの子孫たちは、女の子にだけ魔力が宿るようになったのよ」
「いったいどんな魔力が宿っているんだい?」
興味しんしんといった様子のワオンに、ハンスもはにかみながら説明します。
「そうだね、いろいろあるんだけど、グレーテの場合は、見えないものを見ることができたり、他の人の心の中をのぞけたり、ものを別のものに変身させたりすることもできるよ」
「すごい……! 本当に魔法使いみたいだね」
あこがれのまなざしを向けてくるワオンに、なぜかハンスは悲しそうに首を横にふったのです。
「それが、いいことばかりじゃないんだ。グレーテはまだ七歳なんだけど、そんなめちゃくちゃな力を持っているから、お友達もなかなかできなくって、それで困っているんだ。それにグレーテは力のせいで、ゲームとかして遊んでも全然楽しめないんだよ」
「ゲームで遊んでも楽しめない? どうして?」
これにはワオンだけでなく、ルージュとブランも心配そうな顔でハンスを見ます。ハンスはかばんから、古ぼけたトランプを取り出したのです。
「うちにも、トランプくらいならあるんだ。それで、グレーテがお友達と遊べないから、かわりにぼくがトランプとかで遊んであげるんだけど、グレーテはおれのカードを全部透視できちゃうから、ゲームにならないのさ。ポーカーとかも全然面白くないっていわれちゃって」
「なるほど、それでグレーテちゃんを楽しませる、なにか面白いボードゲームがないか相談しに来たんだね?」
ワオンが納得したように首をたてにふりました。ハンスも悲しそうにうつむきます。
「ゲーム以外の遊びも、たとえばおままごととかおはじきとかも、グレーテは面白いと思わないみたいだし、鬼ごっことかかけっことか、そういう遊びは苦手なんだ。グレーテは、魔女の力を持っているかわりに、すごくからだが弱いんだ。だからいつも退屈そうで、おれもグレーテがかわいそうで……。ワオンさん、なにかグレーテも楽しめる、面白いボードゲームはないのかな?」
ハンスの質問に、ルージュは難しい顔で首を横にふりました。
「相手の手札とかが全部わかっちゃうなら、カードゲームはあんまり楽しめそうにないわね。ボードゲームも、かけひきをするものはやっぱり相手の考えていることがわかっちゃうから、楽しめないわ。難しいわねぇ……」
ですが、ワオンはふむふむと考えこんでから、にこりと笑ってうなずいたのです。ハンスが驚いて顔をあげます。
「もしかして、そんなボードゲームがあるんですか?」
「うん、ちょうどピッタリなボードゲームがあるよ。あ、でも、カードを透視できるっていってたけど、それはカード自体を見なくても、絵柄がわかるってことかな?」
ワオンに聞かれて、ハンスは困ったように首をかしげました。
「えっ? うーん、とりあえずなんていうのかな、カードが透けて見えたりするらしいんだ。だからおれがカードを持っていたら、そのカードはなんのカードかわかるみたいだよ。だけど、たとえばポーカーで山札のカードを全部いい当てるってことは、難しいみたいだね。山札の一番上のカードだけしか絵柄はわからないみたいだよ」
「なるほど、じゃあたとえば、おいらがカードの束を持っていて、そのたびにカードをめくったりすれば、グレーテちゃんもカードを透視したりはできないってことだね?」
ハンスはとまどいながらも首をたてにふりました。
「うん。でも、いったいどんなゲームなんですか?」
「ま、それはあとでのお楽しみさ。じゃあ今度はグレーテちゃんといっしょにおいでよ。おいらも準備しておくからさ。あ、もちろんルージュちゃんとブラン君も来るだろう?」
ワオンの言葉に、ルージュもブランも元気よく返事するのでした。
「もちろんだわ」
「ぼくもさ」
「よし、それじゃあ決まりだ。大丈夫、きっとグレーテちゃんも気に入ってくれると思うよ」
ワオンにはげまされて、ハンスの不安そうな顔が少しゆるみました。