話してみよう(7)
ーーーーユキチャン、マダ心配シテル。命ノ火ガ、消エヨウトスルノニ、ズットズット心配シテル。
「……この期に及んでまだ俺のことを心配?」
ーーーーアナタノコト、大好キダッタ。オ祝イシテアゲラレナイッテ、小雪ガアナタト、仲良クデキルカッテ。
ずり落ちた腕はベッドにそっと乗せられ、カチャカチャと金属が動く音がして、雪が遠くへ運ばれていく。
「雪!」
ーーーーオ願イ。安心サセテアゲテ。ズット心配シテル。大丈夫ダッテ、言ッテアゲテ。
視界は元の喫茶店へと戻っていた。
目の前には変わりなく店主がいて、隣にはみーちゃんが座っている。
目の前の白く小さな座布団の上に乗せられた指輪はもう光っていなくて、ただそこに乗せられた何の変哲もない指輪に戻っていて、周囲の人間も楽しそうにお喋りを再開していたり、電話をかけようとしていた。
世界が元に戻ったはずなのに、頭の中がまだ夢うつつでふわふわと気持ちが落ち着かない。
「雪? 雪は?」
「時間切れだよ~、お話聞けてよかったね!」
目にしていた光景がまるで夢だったかのように、いや、絵本を読み聞かせられた子どものように、満足そうに笑うみーちゃんが腹立たしく、思わずテーブルへ力強く手をついてしまった。
等間隔に並べられていた塩瓶、紙ナプキンなんかが音を鳴らし、他のテーブルにいた人達の視線が集まる。
「なぜそんなに楽観的なんだ!」
「そうでも無いよ? 逆に今更どうしてブチギレるの?」
もっともだ。
彼にとっては他人事であり過去の出来事である。そして俺自身が起こした結果であって、怒りをぶつけるなんてとんでもない八つ当たりだ。
俺が今やるべき事、それはこんなことでは無い。
雪も言っていたんだろう。
俺と小雪のこれからが心配だと。
お祝いしてあげられなかったことが心配だと。
今日は何の日だ?
いつの間に入れていたのかなんて覚えていないけれど、履いていたパンツのポケットに、しわくちゃになりつつある手のひらほどの手帳が押し込まれていて、俺はそれを無我夢中で開いていく。
丁寧で可愛らしい文字が並ぶ。
出会った日、初めて挨拶した日、デートした日、こと細かに記されるページを捲り続け、たどり着いた今日の日付。
そこにはどの文字よりも控えめに、しかも他はボールペンなりの消えないもので記されているというのに、そこだけシャーペンの細々とした文字だった。
“私の誕生日”




