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 翌日――

 目を覚ましたティルダは、自身の口を塞ぐ者があることに気がついた。何者かが後ろから抱きすくめているようだった。昨晩、確かにベッドに入ったはずなのに、いまティルダが座っているのは、硬い床の上だった。

 ティルダは自分の置かれた状況に思い及ぶと、悲鳴を上げようとした。しかし、口が塞がれているので思ったように声が出せない。

 もごもごとくぐもった声しか出ず、誰かもわからない腕の中から逃れようと、ティルダは懸命に手を動かしてもがいた。

 ティルダが起きたことに気づいた何者かが、ティルダを抱き込む腕に力を籠める。

 ティルダが恐怖で身を竦ませたとき、耳元で声がした。


「伯母上、俺です。起きたんならちょうどいい。自分で歩けますか?」


 俺って誰よ、ティルダは思ったが、声の主が自分のことを伯母と呼んだことにすぐに気がついた。目だけを動かし、自分を抑え込んでいる人物の顔を確認する。

 そこにいたのはブレニンだった。

 了解を告げるべく、口を塞いでいる手をタップすると、ブレニンが拘束を解いた。

 すぐさま距離を取って乱れた箇所を整える。

 ティルダは自分がまだ寝衣一枚であったことに気づき、いくら甥とはいえ、気恥ずかしさを覚えた。


「どうしたの――」

「しっ」


 声を上げようとしたティルダの声を、ブレニンが鋭い声で制した。その様子から、なにかまずいことが起きたことだけは感じ取れた。

 ブレニンが付いてくるよう手で指示し、頭の上の位置にある外に面した窓の下を屈んで進むのを見て、ティルダも四つん這いになり、後を追った。

 廊下の先には台所へ通じる扉がある。

 そこからレージュが顔を出し、ティルダとブレニンを手招きした。

 ティルダたちがレージュの元まで行くと、


「用意ができました」


 ティルダたちにだけ聞こえる声でそういって、台所の奥にある裏口を指し示す。

 ティルダは訳もわからぬまま二人のあとに続き、示された扉をくぐった。くぐった先は外だった。表からは見えない位置になっている。そこに昨日乗ってきた馬車が用意されていた。ブレニンが乗ってきた馬の姿もある。


「奥様、お早く――」


 レージュに促されるまま、馬車まで寄るとステップに足をかけた。

 直後、ティルダたちが出てきた扉から、後ろを気にするようにニュールとミストが現れた。ティルダに続き、馬車に乗り込もうとしていたレージュのそばへ駆け寄ると、手に持っていた包みを渡してくる。


「時間がなくて、これしか用意できなかったんだけど……」

「途中で食べてね」


 レージュはお礼をいって受け取ると、急いで馬車へ乗り込む。その際、二人に危ないから馬車から離れてといい添えた。うなずいたニュールとミストが裏口の扉のところまで下がる。

 馬車の扉を閉めたレージュが、コンと天井を叩いた。それを合図に極力音を立てないよう、御者台に座ったエディが馬車を動かす。

 ヘイズの家から十分離れ、木立の間に入ると、馬車は一気に加速した。

 声を潜める必要は無くなったと判断したティルダは、隣に座るレージュに説明を求めた。

 レージュも状況がよく飲み込めていないのか、戸惑う様子で口を開いた。


「今朝早く、マール商会の者がヘイズの家を訪ねてきまして――」


 マール商会はフィオリオ領を拠点にしており、この辺りでは名の知られた商会だった。

 家を訪ねてきた者の話では、先日荷を積んだ馬車が襲われたらしい。積んでいた荷物が盗まれたので怪しい者を見かけなかったか、この辺りの家を訪ねて回っているのだそうだ。それを聞いたティルダは首を傾げた。


「私たちは荷を盗んだりなんかしてないわ。あんな風に出てくる必要はなかったように思うけど……」

「私もそう思ったのですが、ブレニン様が……」


 レージュはティルダが寝ている間にブレニンと交わした会話を思い出したのか、顔をしかめた。


「わたくしどもは品評会に行くだけです。当然、荷は屋敷から運んできたものですし……封印紙だって貼ってあります。正直にいえばすむ話ではないのですか?」

「伯母上づきの侍女殿は、伯母上に似てのんびりでいらっしゃる」


 バカ丁寧に自分のみならずティルダのことまで悪くいわれ、レージュは眉間に少し青筋を立てた。ブレニンはそんなレージュの顔を見て鼻を鳴らした。


「そんなもの、箱を取り換えたとでもいわれてしまえばおしまいだろう。茶葉に名前が書いてあるわけでなし。箱の中味が誰のものかなど分かりようもない」


 いいから家の者が応対しているうちにさっさと出る支度をしろ、というのでヘイズが玄関で話をしている間にモナに断りを入れ、家を出る準備をした。

 あとはティルダの知っている通りだ。

 ティルダはレージュの話を聞き、嘆息した。レージュの話だけではブレニンが何をそんなに気にしているのかよくわからない。


「……あとで話を聞く必要がありそうね」


 ティルダは窓の外に目をやった。馬車は一台通るのがやっと、という木立に囲まれた道を走っているため、座席からはブレニンの姿は見えない。

 ティルダは不意に感じた不安から、胸に提げた香袋を服の上から抑えた。

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