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宙の彼方より!  作者: さん
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宇宙人現る!


 海辺の砂浜で空を見上げるととても良い天気だ。初夏のセミの鳴き声が暑くなり始めた人気のないビーチにも聞こえ始めていた。

今日の天気予報も晴れだと言っていたなぁ

そんなことを考えながら目の前の惨状を哀れに思う。

 私の目の前にはひと昔でいう所、悪の化身

の黒ずくめの戦闘員5~6人ほどが丸焦げに折り重なるように倒れているのである。

その内の一人が意識を取り戻し私達に超有名なきめ台詞を告げる

「くっ・・これで勝ったと思うなよ 我々にはまだ最後の一手が・・」

「やかましい!」

きめ台詞を遮る様に赤毛の彼女はその戦闘員の頭を踏みつけた。これではどちらが悪なのか私には皆目見当もつかない・・

 ”ちょっと、やりすぎじゃないのハナ”

私が少し非難するとハナは悪びれる様子もなく足元の黒ずくめの戦闘員の頭をおもっくそ力を込めてグリグリと踏みつける。

 「止めるな立夏、こいつらはこの地球を侵略しようといている悪い奴らなんだから」

 おい、ハナその君が使っている体の半分は私の体なんだが・・・


 一か月ほど前の話だが私は夕方の海辺にいた。その日はなぜだか無性に海が見たくて学校帰り一人で海辺のベンチで腰かけ海をただ何となく見ていた。ここの近くに有名なビーチがあるせいか観光客はこの浜辺ではあまり見かけたことはなく地元民、つまりは私一人だけのプライベートビーチでお気に入りの場所だ。

遠くで三味線の音と小さい頃どこかで聞いたような民謡も聞こえてきて海の波の音と合わさってなぜだかとても懐かしい・・・

人とのかかわりを煩わしく感じている私には一人でいるこの空間が心地よい感覚に感じていた。

辺りはもう薄暗く数メートル先の岬も影にしか見えなくなってきていた。

そろそろ帰るか・・そう思った矢先に不意に海辺から2~3人ほどの人影がどこからともなく現れウロウロと何かを探してるような動きでこちらを見ていた。

マズい不審者か?この海岸ではあまり人を見かけない。しかもこの薄暗さ、ライトもなく観光客がウロウロする場所でもない。ましてや地元民でも薄暗くなってからはここへは寄り付かないのは知っている。つまりは悪さをする輩しか考えられない。

辺りが薄暗いせいで影にしか見えないがその人影がこちらを認識しているのは分かった。急に不安に駆られた私は急いでこの場から逃げ出そうと後ろを振り返ると遅かった・・・

私の後ろにも顔がはっきりとは見えないが先ほどの奴と同じ様な奴が草陰から出てきた。ヤバい・・ 人間あまりの恐怖に遭遇すると声が出ないという言葉を思い出した。

頭の中には危険な警報音がガンガンと鳴り響いてはいるものの口には全く出てこないのである。息が浅くなって小さく呼吸しているのが自分でもわかる。

じりじりと影が何を語るでもなく間合いを詰めてくるが私はその影から逃げるすべがなかった。どちらにせよ後ろも前も八方塞がりなのである。

どっどっ どうする?どうなる?パニックに陥った私は、もうどうすることもできない。

不意に突然右端にいた黒ずくめが私の後ろの砂浜へ物凄い勢いで吹っ飛んでいった。これを合図に黒ずくめたちが一斉に「それ」へ  

先ほどまで一人の黒ずくめの居た場所へと飛び掛かるが「それ」から発した輝きがまわり一帯にほとばしった。

一瞬光った光、その中心にいたのは私と同じ年頃の赤髪の少女で私が「それ」を認識したのと「それ」が私を認識した時には私は深い闇の中へと引きずり込まれていった。・・


 ドンドーン、まるで何かが爆発した音がする。目を開けると目の前は火の海だ。あちこちから人の悲鳴や誰かの怒鳴り声、爆発音が聞こえる。

 ああ、夢だこれ・・そんなことを思いながら目前の火の海を見つめる。どこからともなく光の閃光が飛んできて辺り一帯を吹き飛ばす。「戦争?」・・どこか他人事のようにそんなことを考えていると不意に見知らぬ男に腕をつかまれた。

えっ 誰?突然のことに目を見開くとその男は「走れ!」とだけ言うと私の腕を強く引っ張ってものすごい勢いで走り出した。

 走りながら男に何か質問しようとするのだがなぜだか声が出ない。しばらく走ると少し開けた場所に出た。

広場の中央には煙突状の灯台のようなとても長い筒状の建物があった。

建物の入り口に立ち男が非常用と思われるボタンを押すと扉が開く、と同時に無理やり建物の中へと押し込まれた。

「お父さん!」

不意に私?の口から言葉がこぼれたがその男はその言葉に構わず建物の扉を閉めた。扉は透明でガラスなのかプラスチックなのか何か分からない。私?はドンドンと扉を叩きながらもう一度悲痛な声で叫ぶ

「お父さん!何でぇ・・」

言葉の最後が鳴き声なのか叫び声なのか分からない、だが父と呼ばれた男は

「すまない、母さんを一人にするわけにもいかなくてな・・」

「だったら私も!」

そう言いすがる 私?に父は

「すまない」

扉越しに顔を伏せて表情が読み取れなくても声が震えているのが分かった。

そして私?は分かった。分かってしまった。

この建物は緊急避難用の脱出ボートでそして余りにも狭すぎるのだ・・助かるのは一人だけ・・・

「母さんは足をやられて動けなくてな・・皆が乗れる救助船まではもう時間的にも無理だ、だからせめてお前だけでも・・」

私?の目の前が涙で潤んでよく見えないが父と呼ばれた男は扉の横にあるパネルで機械を操作する。

「母さんの事は父さんに任せろ。だからお前は・・」

「緊急救命脱出ボート、発射します。三 二 一 」

機械が動き出す直前、男が何かを言っていたが機械の音でよく聞き取れなかったが口の動きで分かった・・「生きろ!」と・・・

目を覚ますと部屋にいた。見覚えのある自分の部屋だ。あれ?夢にしてはすごくリアルな夢だったな・・そう思い返しながらベットから起き上がり窓のカーテンを開けた。沖縄特有の強い紫外線と光が薄暗い部屋の中に差し込んできて思わず目を細める。

「あっつ・・」生ぬるい風が部屋の中へ入ってきて机の上に置かれたプリントやらを吹き飛ばす。はぁ~・・とため息をつきながら落ちた紙を拾うが・・???

拾った紙には何か訳のわからない文字のような そう、象形文字に似た字が書かれていたのだ。

「えっ?私こんなの書いたっけ?」

一人事を言いながら改めて机の上を見てみると学校の教科書が散乱、PCは開きっぱなし・・何やら得体のしれない文字がノートに殴り書きのように書かれていた。

???あまりにも訳が分からなさすぎる。私は急いで部屋から出ると母を探した

「お母さん!」

台所では母が昼ご飯を作っている最中だった。

「なぁにそんな大きな声で」

近所迷惑だなんだとぶつくさ言いながら配膳の準備をする。

「立夏あなた大丈夫?昨日も遅くに帰ってきたと思ったら・・お風呂も入ってないんじゃないの?昨日と同じ制服着てるし」

「へぇ?」

よく見ると確かに高校の制服のままだ。しかも結構ヨレヨレ、ところどころ焦げてたり穴が開いてたりする・・

「なっ ななな・・何で?」

「何でって?・・昨日聞いたら友達の家族とビーチでBBQしたって・・しかも灰が飛んできて制服が所々焦げたって昨日言ってたでしょう?」

自分には覚えのない話だがそうだ確か昨日・・

「ほら、いつまで寝ぼけてるの学校が休みだからっていつまでもそんな恰好しないで着替えてらっしゃい」

言いたいことはいっぱいあったが、出来たてのゴーヤーチャンプルー、ふの味噌汁、デザートのドラゴンフルーツ(赤)の昼食を見て自然とグーグーと鳴り響く腹の虫、そう 私の記憶では昨日の昼食以降何も食べていないのである。

とりあえずはお腹を満たした後に考えよう。

ご飯をお代わりしたのはいつぶりだろうか?高校に入ってからは体重を気にしてあまりご飯を食べなくなった気がする。そのくせやれインスタ映えだとか何やらで でかいアイスや三段盛りのメイプルシロップがドブドブとかかったパンケーキやらをそんなに食べられはしないくせによく食べていたな、などと考えていた。

風呂から上がると冷蔵庫からキンキンに冷えたさんぴん茶を出し体に一気に流し込む。

「くぅぅっ」

自然とおっさんみたいな声が出る。

母が「おじさんみたいよ」と私と同じことを言う。

母は昨日から私の様子がおかしいことを気にしてはいたが何も言わなかった。

部屋に戻るとやはり色々な疑問が湧いて出てきた。確か昨日学校帰りに海へと行ったがその後が問題だ。黒ずくめの不審者、光の中にいた少女。どれもこれも荒唐無稽。何一つさっぱりで、しかも自分の部屋の惨状も遭わせてすべてがわからないことだらけだ。

深いため息を吐きながら私はベットへ横になって枕に顔を埋めた・・

カチャカチャという音で目が覚めた・・・はずだった。

気が付くと手が勝手にPCのキーボードを操作していた。カチャカチャの音はこれかぁ などと考えていたが・・ンン?何で手が勝手にPCを?体を動かそうにも私の意志では不可能だった。

“ちっ ちょっと、どうなってるのこれ?”頭の中で一人騒いでいると

「少し静かにしてくれないか?」

私?の口から言葉が唐突に発せられた。

どうなって?私が質問しようとしたが先に彼女?が答えた。

「私はメシエ族のハナ、君たちの言葉で言う宇宙人というやつだ。」

“・・・・・はっ?いやいや、頭が追い付いて行かないのですが・・つまり私は今、宇宙人と会話をしているということですか?“

「そうだ。」

“は・・はあぁ?何イっちゃってんだこいつ頭のネジがぶっ飛んでんのか?ゴラァ!“

などと言葉にはしてはいけない事を叫びまくっていたがおもむろに私?が、立ち上がるとスタンドミラーの前に姿を映した。

そこに映っているのは私・・ではなく全く見たことない女の子がいた・・・いや、その言葉には語弊がある。全くではない、昨日あの光の中で見た赤髪の女の子だ!

私が呆気に取られて黙っていると

「私はここから約6000万光年先の彼方にある星から自分の住んでいた星に近い環境の星を探して地球ここへとたどり着いたのだ。」

「私の居た星はシャルル族とメシエ族という種族が元々住んでいたのだが知能が高い種族、シャルル族が力の強いメシエ族をある装置を使い絶対的服従を百年も敷いてきたのだ。」

“いや、それが私の見た目というか私に何の関係が?“

「まぁ聞け ある日、突発的な暴動が起こった。いつものようにあの粛清装置を使いすぐに暴動が治まると私は思っていたのだがその日は違った、装置が作動しなかったようで普段からシャルル族に不満を持っていたメシエ族が怒りの負の連鎖を引き起こし集団でチカラを使い粛清装置ごとシャルル族政府の中央管制を破壊したのだ。」

「それに恐怖を持ったシャルル族が人類破壊兵器を使い全世界で核戦争が起こった。

「私の住んでいた星はこの戦争で星ごと消滅してしまった、父と母と共に・・・」

「そうしてこの星にたどり着いたはいいがそれと同時に私の星でシャルル族によって造られた残党までもがこの星に先に不時着していたようだ。」

“造られた残党??”

「そう、君が昨日見たあの黒い奴らだ。」

“昨日って?そう、昨日何があったの?私記憶が途中で無くなって・・”そう聞き返すと少しの沈黙の後

「君は昨日死んだ、不慮の事故だった。巻き込むつもりは無かったがまさか地球人があの残党兵の中に紛れているとは思わなくて、すまない・・」

ああその「すまない」ってセリフどこかで聞いたと思ったら夢の中で聞いた言葉だったなぁと全然関係のない事を考えていた。人間自分のキャパシティーを超える話をすると脳が脳内逃避行を起こすということを初めて身をもって知る。

そう、ごめんだけど彼女が今何を言っているのかわからない・・


翌朝、目が覚めると私だった。正確には私だった者。

そして昨日の話で分かったことは

彼女の名前は「ハナ」

「ハナ」には帰る星がない。

同じくしてほしの大爆発から逃げ出したシャルル族の生き残りがこの星を第二の星とすべく地球侵略を開始している

そしてここからが問題だ

シャルル族の地球侵略を阻止すべくこの地球で一人戦っていたハナだがまさかの展開で私が巻き込まれてしまったのだ。

そして昨日見たあの光は雷撃。

ハナの星、チカラに秀でたメシエ族には体に電気を造り出せる者がチラホラいたみたいでハナもその一人だ。

だがどう考えても一般のただの地球人である私がその雷撃に耐えられるはずもなくハナが放った一撃で命を落としたらしい・・

んで、それに気づいたハナは丸焦げで絶命寸前の私を助けるために自身を粒子化して私の体を再生維持していると言っていた。

つまりはこの体は私でありハナでもあるのだ。

むぅ・・何という展開、漫画かこれは!

自身の手をまじまじと見つめていると頭の中に声が聞こえた。

“どうした?手が変なのか?お前の体をベースに再構築した肉体だから違和感はないはずだが?”

「そういうことじゃない」

少しむすっとした声で言い返す。勝手に自分の体をいじくりまわされた挙句にまさか宇宙人と二心一体の体に魔改造されようとは

誰が想像できただろうか・・

「ねぇ、私の体ずっとこのままなの?」

昨日疑問に思ったことなのだがいかんせん脳がオーバーヒートを起こしてもう何も考えずに眠りたくなって寝てしまったのだ。

“いいや、こうしている間にも私の粒子の細胞が立夏の細胞を再生させていっている。ただ損傷がかなりひどい状態だったからどの位の時間がかかるかわからない。

私は戦闘には長けてはいるが傷の再生は苦手でな早くても数か月、長くなったら何年かかるか・・“

「そっか・・」

こいつは・・ハナは一応責任を感じて自分のできる最善を尽くしたことをやったのだろうでなければ私はそのまま死んでいた。

「おっし」

ペシンと両手で顔に気合を入れてベットの側のカーテンを思いっきり開けて朝日をめいいっぱい自身の体へと取り込んだ。

生きている。

私は今生きている。

学校への身支度を素早く済ませ、母が用意してくれた朝食を食べる。何気ない一日がもしかしたらもう来なかったかもしれないと考えると大好物の卵焼きも一段と美味しく食べられた。

そうか・・命を私たちは何気なく食べて生きているのか。

死んでいたかもしれないという思いから哲学的な考えが思い浮かぶ。大好物の卵焼きに感謝をしつつ家を出た。

学校までの道のりがとても新鮮に感じた。

あのいつも通るフクギ並木の通り、昔ながらの赤瓦の家。 と突然の違和感。

「何?」

“奴らだ“

体がふと軽く感じると同時に自分の体が宙に浮いていた。

「はあああぁぁ」

浮くと同時に今度はものすごい勢いで落下し、ガン!ガン!赤瓦の屋根の上を軽々と私の足が勝手に飛び越えていく。

「なななっ 何?足が勝手にぃー」

私の声とは裏腹に体は私の言うことを聞いてくれない。

「奴らが来た!」

私の体で私ではない声が話す。ちょっとぉ勝手にそう言いかけた所で体が光の粒子に包まれて体がカンペ完璧にハナに入れ変わった。

どうやら体の主導権はハナにあるらしい・・彼女が変わろうと思えば私の意志など無くとも簡単に入れ替われるようだ。

ぐぅっと悔しい気持ちが沸き起こる。

“ちょっとハナ!学校まであと30分しか時間がないんだから”と騒ぎ立てるが聞く耳持たず。

着いた場所は一昨日、私とハナが初めて あったあの場所だ。

相変わらずひとっ子一人いない無人のプライベート天然リゾートビーチ。

“うん、やっぱりいい場所だ。”

て、じゃなくてって一人で突っ込みを入れる間もなく目の前に一昨日見たあの黒ずくめ・・いや、まさしく全身黒タイツの怪しい集団が目の前に律義にも横一列で並んでいらっしゃった。

“なにアレ?”

あまりの怪しさの見た目に思わずツッコミたくなる。体だけならまだしも顔すらタイツのマスクをしていた。

一昨日の あの薄暗い海辺で見たとき暗くてよく見えないと思っていたが何のことはない全身黒タイツだったから影にしか見えなかったのか・・しかし夜遭遇したら100%即通報レベルの見た目である。

いや、今もか。

「よく来たなメシエ人の生き残りよ。ここが貴様の墓場となるのだ!」

うはははー と一人高笑いをする黒ずくめそれに合わせて周りの黒ずくめ集団も同じように笑う。個性がないんかお前ら・・

なぜか昭和の悪役のセリフがバンバン出てくる黒ずくめたちに若干の違和感を抱きつつハナに話しかける

“ハナ!大丈夫なの?”

「ああ、任せろ。一昨日のような失敗はもうしない。」

とだけ告げるとフワッと体が浮く感覚を感じる、と突然目の前にあの黒ずくめが出現した。同時にハナの繰り出した強烈なパンチの一撃で黒ずくめが海まで吹っ飛んでいった。

違うあの黒ずくめが出現したんじゃなくてハナがものすごいスピードであいつらの前まで移動したんだ。

そう考えている間にもハナはバンバン黒ずくめたちを砂浜へと沈めていく。

 「囲んで沈めろ」

黒ずくめのリーダーらしき男が金切り声を挙げて命令を下すと同時に一斉に束になって飛び掛かってきた。

“ハナ!”

私が声をかけるのと同時にハナの赤毛の髪の毛に一気に電気が駆け巡ったようにバチバチと髪の毛が逆立つ。

“これは・・”

ハナの掌がパン!と合わさると同時に一気に帯電していた電気が四方八方へと飛び散った。その雷撃に充てられた戦闘員の皆さんは所々黒焦げになりながら、まるで陸に打ち上げられた魚のようにヒクヒクとしている。

“さっすが宇宙人あの電撃で死なないんだ?”

私が変なところで感心していると

「くっ・・これで勝ったと思うなよ我々にはまだ最後の一手が・・」

「やかましい!」

そう言ってハナは戦闘員の頭をグリグリと踏みつける。

 ”ちょっと、やりすぎじゃないのハナ”

とりあえず抗議はしてみたが受け入れてくれないようだ

 若干不満の言葉がこぼれそうになるが黙っておこう・・・。

兎にも角にも今日はいい天気、遠くでセミが鳴いている声が聞こえる。もう夏だなーとそう思いながら私は目の前の惨状に心の中で一人静かに合掌した。

その日のお昼、一人校舎の屋上でお弁当を食べていた。

もちろん朝は完璧に遅刻。おかげさまでお昼に呼び出し&説教を食らって

ただいま一人寂しく遅い昼食を頂いているわけなのだが

「ハナ、あいつらっていったいどうやって地球を侵略しようとしているの?」

タコさんウインナーを頬張りながらハナへと質問をする。

“どうだろう?私はこの星に来てまだ二週間かそこらだからな。

だが奴らがこの星で何をやらかそうとしているのかは大体目星がついている。“

「わかるの?」

お次は梅の入ったおにぎりをほおばる。

“立夏、君は自然の異常気象に気がついているか?”

最近やたらと耳にするはずだ。

「えっ?洪水やら台風被害とか?」

“そうだ、昔から起こりうる災害だが年々被害が拡大しつつある。これは恐らく奴らの仕業だろう。自然を操るなどシャルル人にとっては朝飯前なはずだ。“

「そんな自然を操ることができたら人間なんてあっという間に全滅にさせられちゃう」

“いや、そこは心配ではない。奴らもこの星での労働力が欲しいから全滅などはさせないはずだ。

それにシャルル人もメシエ人ももうほとんど生き残ってはいないだろう・・

だからシャルル人は自分たちよりも弱い地球人に目を付けたのだ。

自然を操り徐々に地球人を弱らせ一気に地球征服を進めるために。“

「なにそれ怖い・・」

「でもまぁすぐには奴らも無理だろう。星の爆発から逃げてきた船にはろくに大した器材も人員もいないはずだ」

いつの間にか声が変わっていた

“ンンー!ちょっと人が話している間に勝手に入れ替わらないでよ”

「半分は私の体だ。それに一人だけうまそうな物を食べるなんてずるいだろ」

“あのねぇ 体は一つなんだから誰が食べようが一緒でしょ。”

「それは違う!いま現に立夏が食事をしても私には何の味もしない!

母上のうまそうな弁当を立夏は独り占めにしていたのだ!」

当然の権利だとして残りの弁当を全部ハナに食べられてしまった。

“いやまぁ いいけどさ”、でもこいつクールそうに見えて意外と食い意地張ってるな

同居人の新たな一面が見えてきた気がした

それから数日は何の音沙汰もなく至って平和な日常が続いた。

困りごとというと食事をしたがる宇宙人がいることか。

ハナの星では食事は栄養ドリンクのようなもので水分も栄養も一日一食で補えたらしいなので地球の食事はハナにとっては素晴らしく見た目もバラエティーに富んでいて食事とはとても楽しい事だと学んだようだ。

私と会うまでは救命船に積んであった非常食でしのいでいたと言っていたなぁ・・そりゃスポドリのような食事からこういう食事に変われば食事も楽しくなるわけだ。

ハナは母の食事を食べたがっていたので夜食を作ってもらったらそれをとても幸せそうに食べていた。そうか、ハナはお父さんとお母さんを亡くしているのを思い出した。ハナと私が融合したことによって夢での意識の共有的なことが起こるらしく、たまに私もハナの記憶の夢を見る事があった。

そういやハナも私の記憶の夢を見る事があるのだろうか?まぁ あったとしても大したことは無いだろう・・この平和な島国で一生を終えるためだけに生きている私の記憶なんて・・

その日は台風が近づいていた。学校も午前中だけで午後からは臨時休校になった。

「やった。午後から休みだー。撮りためていたドラマの一気観だー」

学校からの帰り道。

“最近観ているあの「てれび」というやつか、私の星には無かった物だ」

「あのねぇ あんたのいた星と一緒にしないでよ宇宙船だって簡単に造れちゃうような星なんでしょ。

せいぜい私たち人間は地球の周りでチョロチョロ動き回るのがやっとの人種なのよ。」

おっと、声のトーンが高くなってしまった周りの人を気にして声を落とすハナと会話をするのも小声で話さなければ。

頭の中でハナは喋っているので他人には聞こえない。ハナと話すには直接声を出さなければ通じない、頭の中で考えていることまで相手にわかると意識の混濁で自分自身が誰なのかお互い認識出来なくなるるらしい・・

めちゃめちゃ怖い話である。

ただでさえ最近独り言が増えていると母にも言われたばかりなのだ。

“気にするな、立夏が持っているあの「すまほ」とやらで「わいやれす」で会話していると言えばいい。”

こいつ、最近地球の機械に詳しくなってきていやがる。

私が観ているTVや携帯の操作を見て使い方をマスターしたハナはありとあらゆるものを観て学習したらしい。家に来た当初はPCの使い方がわからずガチャガチャ触りまくっていただけだったのに・・

恐るべし宇宙人!

「そういや明日は台風で学校休みになるし

今日は遅くまで起きる予定だからお母さんに何か夜食作ってもらおうか?」

“なに!母上に食事を⁉”

なら「おにぎり」を頼む。「たこさんうぃんなー」とやらも!

「・・何でそのチョイスなの?」

“初めて食べた食事があの「おにぎり」と「たこさんうぃんなー」でな、母上が作る食事では一番楽しくて美味しい物だった。”

食事が楽しいか・・小さい頃はそういうことを感じていただろうか?

今ではそんな気持ちも忘れていた。

「よぉし!今日は私が特別ハナにおにぎりとタコさんウィンナーを作ってあげる。」

なに!本当か!立夏も作れるのか?

“やったー”と、頭の中でハナの声が聞こえる。目の前にいたら小躍りでもしていそうな嬉しそうな声だ。何だか私まで楽しくなってきた

そうだ早く家へ帰ってハナと一緒に美味しいご飯を作ろう。

そう考えながら早足で家に向かった。

風が段々と強くなってきている。空も雲が物凄い速さで流れていく。嵐がもうそこまで来ていた。

“立夏!”

突然ハナが叫んだ。ダッと足が地面を蹴る木々や赤瓦を悠々と飛び越えていく。

「ハナどうしたの?」

“来た!奴らだ”

この間の海辺へ出るとまたあの黒ずくめたちが立つていた。

「よく来たなメシエ人。」

リーダー格らしき黒ずくめの男が一歩前へずいっと出る。

私たちはすでに入れ替わっており今はハナが黒ずくめのまえにいる。

「何のつもりだお前たち」

ハナの声のトーンがいつもより怖い。

黒ずくめの男は何故か口元に笑みさえ浮かべている。

ごうごうと吹き荒れる風の中ここは海沿いなので街中より強い風が吹いてそのせいもあるのかなぜだか男たちが余計に不気味に見える。

「メシエ人よ前に言ったはずだ、我々には最後の一手が残っているとな!」

そういうと海の中からドォン!と水しぶきが上がった

“えぇ!爆弾!”

「違う!」

ハナが飛び上がり間合いを取る。水しぶきの中から出てきたのは・・・

“怪獣?”

まるで海岸近くにいるあの黒いナマコが超巨大化して出てきた感じである。

“うわぁぁー グロい!やだ!”

私は精一杯拒絶する。

「見たか我々の科学力をもってすればこの地球の生命体を我々の意のままに操ることができるのだ!」

うわははーと馬鹿みたいに高笑いをしていたがその怪獣は突進してきたかと思うと黒ずくめたちを一斉にドォンと吹き飛ばしてしまった。

“えぇえ!操ってるんじゃないの?”

「ダメだ、完全に制御を外れている。このまま放っておいたら市街地まで出て暴れまわる」

“どうするの?”

「どうするもこうするも・・・」

「戦うっきゃない!」

ハナが大きく吠えながら黒ナマコの怪獣に猛突進する。

ハナのパンチが怪獣にめり込むが途端に怪獣の口からブシャと透明な液体が飛び散る。

それをすんでの所で避ける。

“なに?嘔吐したの?”

「違う、自分の身を守ったんだ」

よく見るとハナのいや、私の制服の一部が怪獣の体液で溶けていた。

“大丈夫なの”

「やるしかない」

こちらが手を出しづらい事に気が付いたのかハナめがけて突っ込んでくる。

“わわわ”

「こっの調子に乗るんじゃない!」

ハナが再び反撃に転じると口から大量の消化液を吐き出す。海岸に生えていたアダンの木や草花が見るも無残に枯れていった。

「ぐおおおぉ」

怪獣の叫び声が轟きまた襲い掛かってきた。ハナは近くに落ちていたアダンの木の枝を掴むと思いっきり怪獣へ投げつけた。

木の枝が怪獣へ刺さるが怪獣はびくともしない。

“ダメだ効かない”

私が諦めの言葉を呟く

「まだだ」

そういうとハナは怪獣めがけて飛び上がり木の枝めがけて手から雷撃を放った。

木の枝はハナの放った雷撃で炭化したがその傷口から雷撃を直接体内へ食らわせる。

“ハナ!”

光と音のスパークに私の気が遠く。

最後に見たのは黒焦げになった怪獣と落下していくハナの手とあの・・

綺麗な赤い髪だった。

「りつ・・立夏」

ハッと目を開けるとハナがいた

「ハナ・・」

無事だったんだ・・そう言いかけて何か得体のしれない違和感に気が付く。

そうだ、なぜハナが私の目の前に・・そしてここはどこ?

暖かくまるで母の胎内にいるかのような安心感のある光の空間・・

その疑問が顔に出たのかハナは

「ここは私と立夏のパーソナルスペースだ。もうそろそろ体の機能が回復して目を覚ます頃だろう。」

「助かったの私たち?」

「あの怪獣を倒すために体内エネルギーを最大限に出し切ったからな。ああでも立夏の体を修復するのに必要な分はちゃんと残したから大丈夫だ。」

「変な感じ」

「何が?」

「だってハナが目の前にいるんだもん。」

ふふふっと私が笑うとハナもつられてふっと笑う。こんな顔して笑うんだ肌の色はやけに白いのにクセっ毛でセミロングの赤い髪がとてもよく似合う。私より背の高い女の子。

「ここはとても良い所だ。」

そう言ってハナは私の手を握りしめる。

「チョっちょっとハナさん・・」

何故かものすごく動揺してしまう。あまり友達の居ない私はスキンシップをどう受け止めたらいいか訳が分からないのである。

「ここは立夏が帰りたがってた場所だ。

争いも喧騒も無い世界」

「・・・なにそれ?」

「夢で見たぞ、早くどこかへ帰りたいと」

「はっ はぁぁ~・・なっんであんたがその事を・・」

そうだ私は帰りたかったどこかへ、人と接する事が苦手な私には多くの人と集団で生活するのはとても大変な苦労が伴っていた。その中でいつも思い描いていたのが(早くどこかへ帰りたい)である。

「ここはいい場所だが寂しいな・・」

「なんで?」

私が問いただすとハナは

「一人だからだ。」

「あっ・・」

そうだ争いも喧騒のない世界、ぶっちゃけ誰もい無くなれだ。一人だと争いも生まれない他人との確執も無い 何もないのである。

私が何も言わず黙っているとハナは

「確かに他人といると窮屈かもしれない、でも誰もいないのは心がもっと窮屈になってしまう。少しづつでいいんだもう少し立夏の心を広げよう。いや広げたい。私という人間

・・・いや宇宙人か・・」

言葉の落差に少し笑ってしまう。

「まあとにかく私といた時間は無駄では無かったと分かってほしい。」

こいつ、もしかして慰めてるのか?そう言おうとした時

「そろそろ時間だ・・」

唐突に終わりの時が来てしまう。

「立夏、君と出会えて良かった」

「どういうこと?」

まるで最後のお別れのようなセリフにドキリとしてしまう。

「もう時間が無いんだ。」

そういうとハナの手が私の手を離した。ハナが突如出現した暗い空間に吸い込まれるように消えていく。

「ハナ!待って」

「君と過ごした時間は私の中では宝物になった。立夏もそう思ってくれると嬉しいな。」

「ハナ待って!私ちゃんとハナにお礼が言えてないそれに今日はハナにおにぎりとタコさんウィンナー作ってあげるって約束したじゃない」

走って追いかけるが追い付かない

「待って、ハナー」

目を開けると一人砂浜に倒れていた

空は茜色に染まってさっきまでの嵐が嘘のようにし静まり帰って波の音しか聞こえない。

「ハナ?」

そう声をかけるが返事がない。いない、なくなってしまった。私は大声をあげて泣いた。     子供の頃以来だろうこんなに声を上げて泣いたのは。


あれから半年過ぎた。世界は何も変わらず過ごしていた。ハナにこの島国が、ううん世界が救われたことを知らず・・・

私は学校の帰り道たまにあの海辺へと出かける。季節は冬、さすがに北風が寒いが何だか無性に海が観たくなる。またもしかしたらハナに会える気がして・・・

「うわっはっはー見つけたぞメシエ人の知り合いの地球人!あのメシエ人の居場所はどこだ!」

あの黒ずくめの集団だった・・

「生きてたのあんたたち!」

てっきり怪獣に踏み潰されていたと思っていたがどうやらしぶとく生きていたらしい・・

「ハナだったらもう・・」

もういないと言いかけたその時

「私ならここにいる」

声が私の声じゃない、へぇ?と声を出す間もなく体が金色の粒子に包まれたかと思うと黒ずくめの一人が吹っ飛んでいった。

「メシエ人貴様、人間に寄生していたのか?」

「寄生とは人聞きの悪い。共依存だ」

ふんぞり返った声でハナが返事をする。

“ハナあんた生きていたの?”

「生きていた?死んだつもりは無いが?」

「時間が無い、お別れだって・・」

「ああそれは体力を極限まで使用したのでスリープモードに入っただけだ。あの位では死にはしない。」

“・・何かすんごい疲れた・・“

「疲れた?それでは少し休んでいるといい私がこいつらを片付けて家に帰ったらあの、おにぎりとうぃんなーを作ってくれ。約束しただろう」

そう嬉しそうに言うとハナは黒ずくめの集団に飛び掛かっていく。

冬空は曇りでどんよりとしているけどこれももう少しで終わり夏が来る。

今年はあの青い海に一緒に出掛けよう。そう思いつつやっぱり目の前のボロボロの黒ずくめたちの惨状に心の中で一人合掌した。

                 END


宇宙人モノというとひと昔前の王道なネタではありますが。異世界物が流行っているのであえての王道で挑みたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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