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エンジェルダスト  作者: 鈴雪
第七章 ノエル
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第七話 一日の終わり

 アグニ宅から車に揺られて三十分。

「ここが今日から君も住むことになる家だよ」

 朱音さんに言われて、外を見と、そこに立派な邸宅があった。

「わお」

 朱音さんの家は白い壁の二階建ての洋風の広い家で、よく整備されてる印象を受ける庭も相まって、まるで人形の家に迷い込んだようだ。

 余談だがアグニも着いてくる気だったらしいが朱音さんにハリセンでひっぱたかれて、すごすごと諦めた。いわく、「ちゃんとデータ取りをしたかった」らしい。

 だからといって、女性の家にお邪魔しようとするのもねえ。

 車庫に収まった車から降りて門をくぐる。

「お、お邪魔します」

 緊張で少し声を上擦らせながら上がる。

「いらっしゃい」

 朱音さんはそんな僕に暖かい視線をくれるのであった。


 見た目通りに中も綺麗である。ピカピカの床、柔らかい印象を与えるクリーム色の壁。朱音さんの好みを感じられる。

「んー、さきにご飯にしようか。圭一くんもお腹すいてるよね」

 朱音さんがそう言って僕を居間までリビングしてくれる。

 朱音さんは僕をイスに座らさせると、「ちょっと待っててね」朱音さんはキッチンに引っ込んで、晩御飯の用意をし始める。

 その間、僕は部屋を観察していた。置かれている調度品はかわいらしいものが多く、主に猫か犬だ。

 壁時計はこちこちとなる振り子時計。カレンダーもかわいらしい子猫の写真が載っているもの。朱音さんって猫とかかわいいものが好きみたいだ。

 さらに視線を移して、目に止まったものがあった。写真楯だ。

 テーブルの上に置いてあって、晴れた空と綺麗な海をバックに、朱音さんと銀色の髪と青い目の、たぶん僕ぐらいの歳の少年に、ちょっとだけ年下に見える栗色の髪と澄んだ黒い目の女の子が写っている。

 三人とも顔立ちは整っている以外共通点がないから、たぶん、友達だろうな。

「はい、お待たせ」

 と、考えていたらいつの間にか朱音さんがお皿をテーブルに置いて、イスに座っていた。

 置かれた料理はサンドイッチ。それぞれに色んな具が挟まれ、パンも綺麗な狐色に焼いてあったり焼かれてなかったりと、美味しそう。

「ささっ、食べてみて」

 朱音さんがニコニコの笑顔で勧めてくれる。

 ではさっそく、

「いただきます」

 そう言って僕はまず、焼かないで、卵焼きを挟んであるパンを取って一口。

 ……思わず目を見開く。

「美味しい」

 端から聞けば失礼極まりない言葉だろうが、朱音さんの料理は思わずそう呟いてしまう美味しさだった。

 まず、柔らかいパンの食感が歯から顎に響く。さらにフワフワの卵焼きの甘さが広がる。と同時にマスタードの辛味が引き締める。しかも、卵焼きの甘味もマスタードの量も絶妙だ。

 僕はさらにのサンドイッチを取って食べる。

 今度はこんがり焼きあがったサンドイッチで、ザクッと心地いい歯ごたえの後に挟まった肉の引き締まった感じがどっしりとした重量感を感じさせてくれる。

 肉は時間が経っているのか、少しパサパサするけど、間に挟まれた瑞々しくシャキシャキのレタスで食べにくさは全然ない。

「喜んでくれると嬉しいよ」

 朱音さんが夢中でサンドイッチを食べる僕に微笑む。

 そうして、しばらく夢中でサンドイッチを食べてから、気になることが浮上した。

「朱音さん、なんで話をあそこで切り上げたんですか?」

 今思うと、若干強引に切り上げたように感じる。まだ、説明すべき点がいくつかあった筈だと思う。

「君が疲れてると思ったからだよ」

 朱音さんが柔らかい笑顔で答える。

 僕が……疲れてた?

「君は興奮してわからないだろうけど、目が覚めたら女になって、知らない人間に囲まれて、自分自身の葬式を見た。普通なら精神的に保たないよ」

 こ、興奮してるって、そうなのかな? 言われて見ると少し体が重くなってきたような……。

 途端に瞼が落ちそうになった。やばい。朱音さんが言った通り自分が思ってるより疲れてるみたいだ。

「まあ、君は目が覚めたばかりだし慌てずにゆっくり行こうよ」

 朱音さんはそう言うと自分もサンドイッチを取って食べる。僕も気を取り直してサンドイッチをパクつくのであった。


「はー、お腹いっぱい。ご馳走様です」

 僕は満足してイスに深く座り直す。おそらく、今の僕はとても満足そうな笑顔を浮かべていることであろう

 そこで、さらに瞼が重くなって眠りに堕ちそうになる。

「もう限界だね」

 朱音さんが柔らかく笑った。


「ここが君の部屋だから、自由に使ってね」

 朱音さんに言われて部屋に入る。中の装飾は最小限にとどめられていて、人が生活した後は皆無である。まあ、空き部屋って言ってたもんな。それに、限界を迎えている僕の目と思考にはベッドしか映らなくて、ろくに部屋の観察もできなかった。

「じゃあ、お休み」

 朱音さんがそう言ってドアを閉めると、部屋が真っ暗になる。余計に眠気が引き立てられて、ベッドに倒れこむ。ふかふかとして気持ちいい。ああ、瞼が落ちてきた。本当に、そろそろ、限、界……

 そこで、僕の意識のブレーカーが落ちて、僕が迷い込んだ日常生活の終わりと非日常生活の始まりが終わる。

 これから始まるのは、今までの生活からは想像できないドタバタして、破天荒で、優しくて、そして、辛い戦いの待つ日々。

 だけど、この時の僕はそれを知る術はなかった。


鈴「Eダス更新しました」

刹「お疲れ様恵一、そして、これからがんばれ」

鈴「感想、評価楽しみにしてまーす」

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