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エンジェルダスト  作者: 鈴雪
最終章 星の煌き
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大型種出現!

 ――後れ馳せながら主、お誕生日おめでとうございます。

 翌日、特務室に入ると同時にクロが恭しくはやなさんを祝う。

「ありがとうクロ」

 はやなさんが笑うと、少しだけクロも嬉しそうだった。

 遅れたのは仕方ないよなあ。クロがいれるのはこの特務室とその横に急遽作られた自室。そして、最下層の訓練室だ。

 で、アグニはと言うと、僕らが入っても食い入るようにパソコンの画面を見ている。

「なに見ているの?」

 ひょいっと僕は画面を覗き込む。

 写っているのはおそらく海中。それもかなり深いから、おそらく海溝?

「ああ、ノエル、来ていたのかね」

 それでやっとアグニは僕らに気づいた。遅いよ。

「さっきからね。で、これなに?」

「日本海溝の映像だ。ここからヴェノムの反応が検出されたため、今潜水艇が調査しているのだよ」

 ふむ。こんな場所に、水圧で潰れ……ってそんな柔な外郭じゃないしなあ。

 また復活なんて展開は御免被る。敵なんだって分かってても殺すのは嫌だ。

「そうだ、見つけるにしてもまだ時間かかるだろうから今のうちに新装備を渡しとこうか」

「新装備?」

 そうそうと答えてアグニがボタンを押すと、壁の一部が展開し、中から二つの武器が出てくる。

 ひとつはハンマーだ。僕の身長ほどはある柄の先端に付いた打突部は割と小さい。デザインはピコペコハンマーに似ている。

 もうひとつはシールド。曲線を描いた分厚い板で、その裏にコネクターがある。

「シールドは強化型イージスだ。どうも手甲型では耐久に難があったようだからね。ハンマーは先日、遺跡調査班が新たに見つかった装備だ」

 説明を聞きながらハンマーを取る。

 すぐに僕の中に情報が走り抜けたんだけど……

「これ、僕のじゃないよアルトのだ」

 機械神鎚『夜光』それがこの武器の名前。僕で言う蒼窮、アルトの主要装備だった。

 後でアルトに……いや、こんな物騒なものをわたすのは、でも護身用に持たせた方が、そこまで考えて気づいた。

 僕みたいにアルトもサブウェポン持っているんだろうか?

 今まで全然考えたことがなかった。あんまりアルトが機械天使だって意識することもない。だってあの子は戦わないから。

 まあ、アルトが戦うような状況は絶対に嫌だ。でも……

 そこまで考えた瞬間だった。背筋におぞけが走る。震えそうになる自分の身体をかき抱く。

「ノエル、どうしたの?」

 朱音さんに声をかけられて、

「ノエルも感じたの?」

「はやなさんも?」

 うんと頷く彼女の顔にはびっしりと汗が張り付いている。

 ――奇遇ですね。俺もだ、

 どうやら、クロも感じたようだ。このなんだかわからないが、非常に巨大で恐ろしい力を。

「な、なんだこの反応は?!」

 アグニの動揺に僕らは弾かれたように画面を見る。

 カメラは吹き上がる泡で覆い隠されながらも、でたらめに動いているのか、微かな光を写したと思えば、奈落のような底、岸壁と目まぐるしく変わっていく。

 そして、最後になにか、巨大なものを写してカメラの映像が途切れ、『No signal』と画面に表示される。

 おそらく、潜水艇は今の何かが動いたせいで起きた水流に翻弄されてあんな出鱈目な動きをしたのだろう。そして、最後に映ったあの映像。今までの中型の比ではない。これは……

「……ねえ、アグニ、僕今すごく嫌なこと考えちゃったんだけど」

「……同感だ。現地のスタッフと繋げよう」

 意見があったところで事実を確認するためにアグニが端末を操作する。できれば、この考えが否定されることを願うけど……

 そして、すぐに繋がった。映ったのは、前に蟲の調査にもいたおじさん。

『あ、アグニさん、大変です! 潜水艇の反応がなくなって!』

「こっちでも確認している。そちらはどうだ?」

『海底から高速で浮上する物体が確認されています! あと数秒で海上に!』

 そう言っているうちにカメラが海上へと向く。

 盛り上がる海面。次の瞬間に津波が押し寄せ、映像が途切れる。

 少し待てば再び映像が回復した。困惑の声と怒号が飛び交う。船が揺れているからか、映像が安定しない。

 そして、カメラが上を向いたそこには、巨大な物体があった。

 その異様に僕の中の識別システムが瞬時に反応する。その結果に僕は震える。

 初めてとはいえ、大型種なのはカメラ越しでも自分の目で見てわかっていた。だけど、流石にその情報は信じたくない。

 大型種の中でも上位の戦闘力に位置する個体。幾多の機械天使を屠ってきた悪魔。この世界の言葉に直すならば……

「タイラント級……」

 暴君を意味するその名を口にした。


 タイラント級、全長百十メートル、全高四十メートル、幅五十メートル、体重不明。

 全身の至る所にレーザー発振器である瞳に、小型の生体ミサイルを備えている。針鼠のようなその火力に近寄ることすら困難極まりない。

 そして、その甲殻の強度は中型種の比ではなく、大型種用の兵装にてようやく粉砕できるレベル。その上急所である心臓は甲殻を砕いてもその分厚い肉によって護られているために致命傷を負わせることはこれも難しい。

 攻防両方とも完璧ということだ。

 ただ大型種タイプは例外を除いて機動力がないため、基本的に攻撃を避けたりはしない。

 故に注意を引き付ける牽制役、甲殻を砕く役、露出した肉を裂き中枢を破壊する役とチームで当たらなければいけない相手。

 だけど、こっちにはそれができない。

 まず戦力でいえば大型種は空中にいるため、戦闘は僕とクロになるだろう。現代の戦闘機は正直言って足手まといにしかならないと思う。せいぜい注意を引き付けるくらいか。

 そして、僕とクロにおいても問題がある。

 まず僕。精霊炉の出力が低下しているため、第二種兵装を使ってもおそらく奴の甲殻を砕くほどのパワーが出せない。できたとして罅を入れるくらいだろう。その上、第二種兵装なんて重いものを持って接近できるとは思えない。

 次にクロ。もしも僕がうまく甲殻を砕けたとして、すかさずクロが肉を裂いて奥で守られた急所である心臓を破壊する役だが、クロが限界まで刃を伸ばしたとしても、表面を裂くのみで届かない。レーザーも難しいだろう。

 これはクロ、というか小型種がもともと機械天使との戦闘のために生まれた種のためだ。

 まあ、要するに……

「どうすればいいのかなあ……」

 数がない。攻撃力がない。決め手がない。ないないない、ないものだらけ。

 こうなったら、何度も僕が突撃をかけるかとか考えたけど、正直に言おう。成功させる自信がまったくない。

「ふむ、確かに君の知る手札ではそうなるだろうが、神無にはもう一つ手段がある」

 うーん、と悩んでいた僕にアグニがそう言い放つ。

 なんですと?

「着いてきたまえ」

 そう言ってアグニが部屋から出て、言われた通りに僕たちはついていく。

 エレベーターに乗ると、アグニが何らかの操作をしてエレベーターが下り始めた。

 どんどん下りて行って最下層まで来て、止まらなかった。さらに下に下りてエレベーターが止まった。

 ここにいったい何が?

 エレベーターを降りると、広い空間が僕らを迎えた。そこに何かが鎮座している。カメラを切り替えようとする前にライトが点いた。

 そして、その威容が僕らの前に現れる。

 それは、一言で言うなら、翼のない戦闘機だった。いや、正確には翼はあるものの、異様に小さい。優美な流線型を描くそれは通常の戦闘機よりも二回りは大きかった。その後部には円柱が斜め上に突き出している。機首は現代の戦闘機、確かF-15、だったかな。それの機首が接続されていてなんだかアンバランスだった。

 武装は下部に接続された巨大な砲門。その横に副砲と思わしき銃口が左右に一つずつ。他にもところどころにあるハッチの下にはミサイル発射管があるのを知っている。

「これ、強襲突撃機?」

 それは、目的の場所に迅速にかつ機械天使の消耗を最低限に抑えるために作り出された戦闘機だった。

「ああ、君の身体の前に見つかった遺産だ。コクピットかAIが搭載されてたであろう機首以外は無事だったため既存の戦闘機のコックピットを無理やり接続したものだ」

 ああ、だからまるで取って着けたかのようにあそこが浮いていたのね。

 でも、これは心強い。味方が一つ増えた上に、この武装は攻撃力に懸念のある僕らにとってはかなり嬉しい。

 ――だが、誰が乗るのだ?

 あ、そうだ。確かに誰が乗るんだこれ? 僕が乗るとなるとやっぱり戦力が二つになるんだけど。

「あ、私が乗るわよ」

 クロの疑問にあっさりと朱音さんが答える。

 そうか、朱音さんが乗るんだ。なら千人力……

「って、本気ですか?!」

 はっきり言おう、この機は人間が乗ることは考えていない。全て機械天使を基準に考えている。

 消耗を抑えるためにある程度の慣性制御システムを搭載しているものの、もし乗ろうものなら常に通常の戦闘機の倍のGがかかるだろう。

「心配しなくて大丈夫。今は少しでも戦力がいるんだから、勝つことだけを考えればいいの」

 そう言って朱音さんは不敵に笑った。


鈴:「ついに最終章です」

刹:「よおし、頑張れ一気に駆け抜けろ。遅れるなよ」

鈴:「努力しますので、最後までお付き合いしていただければ嬉しいです」

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