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エンジェルダスト  作者: 鈴雪
第十一章 はやなの力
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第八十一話 彼女と朱音

 ふわふわとした感覚。

「ねえ―――」

 隣にはリン。並んで歩いている僕ら。

 あれ? なんかいろいろとやっていたような気がするけど……まあいいや。

 必要なものを買って家に帰るところだったんだよな。で、その時になんか話していたと思うんだけど……

「なにリン?」

 なんの話をしてたっけ? なんかすごく大事なことだった。

「アルトの誕生日どうする?」

 ああ、そうだ。アルトの誕生日、もうすぐだっけ。

 12月24日、それがアルトの誕生日。

 もう誕生日かあ。月日が経つのは早い。

「そうだね、みんな呼んでパーティーしようか」

 手作りケーキ、プレゼント、みんなを呼んでパーティー。

 きっと喜んでくれる。ううん喜ばせる。

「うん、きっとアルト喜んでくれるね」

 賛成してくれるリン。

 それからなんでかちょっとだけ遠い目。

「だから、君はあの子のそばにいないとだめだよ」

 リンがなにか呟いた。でも、よく聞こえなかった。

 なんかすごく大切なことだったように思える。

「なんか言ったリン?」

 だから聞き返したけど、でもなんでもないとだけ首を振るリン。

 なんでもないっていうんならいいのかな?

 だから気にせずにアルトのことを考える。

 プレゼントは何にしようかな? アルトの欲しがるものってなにかな?

 とりとめもなく考えていたら、ふっとリンが少しだけ悲しそうな顔を浮かべた。

「ごめんね……」

 またリンがなにか言ったけど、あれ? なんか眠く……


 私はむくっと起きる。うん、大丈夫。ちゃんと意識はしっかりとしているし、思ったように体は動く。でも、これはまるで他人の身体。ううん、すでにこの体はあの子のものだから仕方ないのかもしれない。

 もう、時間がないってことね。それを自覚して、早くやることをやっていかないと。

 それからアルトを起こさないように静かにベッドから降りる。

 一度アルトの方を見る。すやすやと安らいだ寝顔。それを見れるだけで私の胸は満たされる。この子が健やかに暮らせること、それがあの子の願いだったから。

「ママ……」

 その言葉に私は少しのよろこびと少しの罪悪感を覚える。だってその言葉を受けるべきは本当は……いえ、そんなことを気にしている時じゃない。

 そっとその髪に触れてから、振り切るように私は部屋を出た。

 階段を音を起てないように下りればリビングにはまだ明かりがあった。あの子の記憶通りに。

 そっとリビングに上がると彼女がワインを飲んでいる。

「こんばんわ、君も飲む?」

 私が現れたことに気づいた彼女は、どこからともなくグラスを出して私に微笑む。

「ええ、お付き合いさせていただきます」

 その言葉に彼女はグラスになみなみと血のように紅いワインを注いで私に差し出す。

 私はそのグラスを受け取ってあの子の席に座る。

「では」

「乾杯」

 ちんっと音を起てて乾杯。軽くグラスを回せばふわりとなんとも言えない香りが広がる。それを楽しんでから、すっと口元にグラスを運んで中身を口中へ注ぐ。

 おいしい。すごく芳醇な味わいで後味も爽やか。咽喉越しもすっきりしている。

 合成品とは比べ物にならない。やっぱり天然ものは違うわね。

「ところで……私は朱音。天野朱音。あなたはなんて呼べばいいのかしら?」

 当然のように私があの子じゃないと気づいていた彼女は、グラスにワインを注ぎ足しながらそんな疑問をぶつけてくる。

 ああ、しまった。まだ自己紹介すらしていなかった。うっかりしていたな。

「私は……リーンスルナス、リンって呼んでアカネ」

 私は私自身の名前を名乗った。


 朝の訪れを感じて、むくっと僕は起きる。なんか、夢を見ていたような気がするけど、その内容が全然思い出せない。

 もし彼女の夢なら最近ははっきりと認識できるようになっていたし、関係ない普通の夢かな。

 しかし、なんだろうこの奇妙な違和感? すぐに自己診断プログラムを走らせて自分の状態を確認するもののそれもいつもと変わらない。黄色と赤の警告文ばかりの状態。別に赤の量が増えたわけでもない。

 いっそのことどこかに異常があったのなら、それが違和感の原因だと言えるのに。まあ、異常がない以上、気のせいなんだろうな。気にしてもしかたないし、気持ちを切り替えないとね。

 ベッドから出てリビングに向かうと、いつも通り朝ごはんの用意をしている朱音さんが……いなかった。え?

 朱音さんはテーブルの上でワインの瓶を枕にぐーぐーいびきを立てながら眠ってた。うわ、珍しいどころじゃない、こんな朱音さん初めてだ。

 普段の朱音さんを知っているだけにその姿にちょっと驚いた。

 たまにだけど僕も一週間に一回は晩酌に誘われる。その時も、僕は浄化装置があるから平気だけど、朱音さんはワインを少なくて一本、多ければ五本以上も空けてしまう。蟒蛇ってレベルですらない。

 プンプンとアルコールの臭いを漂わせる朱音さん。こりゃあ結構な量を飲んでるなあ。

 しかし、それでも普段の朱音さんは次の日にはケロッとした顔で問題なく過ごせるのだ。本当にどういう体をしているのだろうか? もしかして朱音さんの能力が関係してるのかな? 体内で電気分解しているとか。

 しかし、今日に限ってはまだ起きてすらいない。

 まあ、いいか。起こしてあげて……と僕は手を伸ばしてから思いとどまる。なんか、気持ちよさそうに寝てるし、起こすのもなあ。

 よし、たまには朝の支度を僕がやっておきますか。

 ぱっぱっと朝ごはんの用意をする。

 昨日のスープの残りの入った鍋を火にかけて、野菜室から取り出したレタスを千切って、その上に切ったトマトを載せて、ちょっとしたトッピングをしてサラダに。後はフライパンに油をひいてベーコンに軽く火を通してからその上に卵を落としてベーコンエッグを作る。それとパンを出して準備OK。

 うん、ヨシッと。後はみんなが起きるだけだけど、後ろでごそっと物音がした。

「ん、あれ? ノエル?」

 振り向けば、朱音さんが目を覚ました。じゅるっと涎の音を立てて、口元にできた涎の後を拭う。なんていうか、折角の美貌が台無しだよなあ。

 今の朱音さんは、普段のすれ違う人の十人の内十五人振り向く状態でなく、先に鼻を摘まむぐらいアルコール臭い。

「おはようございます朱音さん。朝ごはんの用意できましたよ」

「ありがとう。代わりにやってくれたの?」

 僕ははいっと肯定すれば、しまったなあと朱音さんは呟くと、ふあっとあくびをした。

 すっと水の入ったコップを差し出すと、ごくごくと飲み干してふうっと息を吐く。若干その息はアルコール臭かった。

「お酒ほどほどにしてくださいよ。過度のアルコールは体を壊しますからね」

 まあ、蟒蛇の朱音さんにとっては馬の耳に念仏だろうけど一応ね。

 僕の言葉にりょーかいと気の抜けた返事を返すとワインの瓶を片づけ始める。

「あと、お風呂入ってください。すっごくアルコール臭いですよ」

「んー、そうだね。ところでノエル、体の調子はどう?」

「調子ですか? 別になんともありませんよ」

 起きた時に感じた違和感も体を動かしているうちになくなったし。

 やっぱり気のせいだったのかもしれない。

「そう、ならいいんだけど」

 そう朱音さんは一人で納得する。どうしたんだろう?

 少しだけ気になったけど、すぐに僕はその問いの意味を考えずに、出来上がった朝食をテーブルに並べたのだった。

 

鈴:「どうも鈴雪です。次回からエンジェルダスト最終章へ突入します」

刹:「更新が滞っていますが、どうか最後までこのバカを見捨てずにお付き合いしていただければと願っています」

鈴:「それでは、また」

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