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エンジェルダスト  作者: 鈴雪
第十一章 はやなの力
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第八十話 はやなの誕生会

 その日、我が家は少々ばかり慌ただしかった。

 ばたばたとこの家に住む人間だけでなく、何人もの人が行き来する。

「朱音さん、これはどこに飾りますか?」

「あ、それは、そうねテーブルの上に置いて」

 一馬さんが朱音さんの指示で洗ったばかりのテーブルクロスに花瓶を置く。

 僕の方はアルトと一緒に折り紙で飾り付けを作っている。

「ママできたよー!」

「あ、うまくできたねー。いい子いい子」

 アルトの頭を撫でてあげるとアルトがえへへと笑う。ああもう、可愛いなあ。

 そんなアルトにほんわかしていたら、タイマーの電子音が鳴った。

「できたみたいだね」


 オーブンから美味しそうな狐色に焼きあがったスポンジを取り出す。甘く香しい匂いが広がる。

 まな板の上に広げたクッキングペーパーに乗せてから型を取る。

 周りの硬くなった皮をナイフでそぎ落とすと中の綺麗な黄色いスポンジが現れた。うん、初めてだったけど、うまくいったね。

「うまく焼けたねノエルちゃん」

 かなねえが出来栄えを褒めてくれる。

「わー、おいしそー!」

 アルトも僕のお手製ケーキに目を輝かせる。

「ケーキはまだ駄目だけど、こっちは食べていいよ」

 僕は茶色い皮の部分を取る。

「はい、あーん」

「あーん」

 ぱくっとアルトが頬張り、もぐもぐさせる。

「ん~、おいしー!」

 ぱあっとアルトが目を輝かせる。

 よかったおいしいって言ってもらえて。ちょっと心配だったんだよね。

「じゃあ、冷えたら一緒にクリーム塗ろうねアルト」

「うん!」


 で、冷えるまでの間に生クリーム作って、塗ったんだけど……なんだか、すごいことになっています。

 どろどろのびちゃびちゃで下のお皿には白い水たまりが広がっている。

「あ~」

「う~」

 冷えたと思ってクリームを塗ったものの、まだ完全には冷えてなかったようでした。ちょっとクリームが溶けてしまった。生地、びちゃびちゃになっていないよね?

「う~、ママ~」

 ちょっとアルトが泣きそうだけど、うん……

「初めてなんだし、こういうのも味があっていいよね!!」

 そう言ってごまかす。覆水盆帰らず! もう突き進むしかない。というわけでイチゴやチョコでデコレートしました。


 ごたごたとしながらもなんとか準備も終わった僕は電話を取る。

『もしもし、どなた様ですか?』

「はやなさん、僕、ノエル」

 と、すぐ電話対応にはやなさんが出た。

 まあ、柏木先生はなんか、最近忙しいらしいし、一馬さんもこっちにいるからはやなさんが出て当然なんだけど。

「えっと、今暇かな?」

『まあ、そうだね……』

 どこか残念そうな声。

 まあ、僕らが忘れてると思ってるんだろうね。

「なら、うちに遊びに来ない? アルトと一緒にケーキ焼いたんだ」

『そうなんだ! うん、すぐに行くよ!』

 すぐに弾んだ声が帰ってきた。

 よし……電話を切って振り返る。そこには準備を終えたアルト、朱音さん、かなねえ、一馬さんがいる。

「主賓が来ます! みなさんそれぞれの配置へ!」


 僕とアルトの持ち場は玄関の前。うちに来たはやなさんを迎える場所だ。

 僕は黒、アルトは純白のゴシック風の服。どっちもはやなさんが僕らに似合うと選んでくれた衣装。

 そして、電話してから数分待って、はやなさんが姿を現した。

「あれ? わざわざ外で待っててくれたの?」

 わざわざ僕らが待機していたことにはやなさんが不思議そうに小首をかしげる。

 まあねと答えながら僕はドアを開ける。

「ささ、入って入って」

「どうしたのノエル?」

 自分でも不審としか言いようのない行動にはやなさんも少々戸惑いながらも、玄関をくぐる。

 そして、

『Happy Birthdayはやなちゃん!!』

 パパパンとクラッカーが破裂する音が響いた。

 はやなさんサプライズバースデイ成功!


 部屋を暗くし、ケーキに十六本のロウソクを刺して火をつける。

『Happy Birthday to you. Happy Birthday Dier はやな. Happy Birthday to you.』

 バースデイソングをみんなで歌う。

「ふー!」

 仕上げにはやなさんがロウソクを一息で消した。この瞬間いいよね。見てるだけで、誕生日を迎えた瞬間って気がする。

「じゃあ切り分けるよ」

 ロウソクを抜いてナイフを通すと、柔らかなスポンジの感触が手に返ってくる。

「ねえねえお姉ちゃん、アルトもクリームぬるのてつだったんだよ!」

「へえ、だからこんなにおいしそうなんだね~」

 はやなさんがなでなでとアルトの頭を撫でる。

 切り分けたケーキをお皿に載せる。崩れることなくお皿に載った。思ったよりもぐちゃぐちゃになってなかったみたいでちょっと安心した。もちろん切るときに大きくなってしまったのははやなさんにだ。

 そして、はやなさんがフォークでケーキを切って口に運び、一口。

「ん、おいしい!」

 そうはやなさんが言ってくれるのにほっとする。

 よかったそう言ってもらえて。それからみんなもケーキを口にする。

「うん、おいしいよノエルちゃん、アルトちゃん」

「おいしいなこれ」

「初めてにしては十分すぎるよ」

 と、口々に僕らへ感想を述べてくれる。

 そして、アルトも。

「おいし~、朱音おねえちゃんと同じくらいおいしいよママ!」

 その笑顔に僕も自然と笑みを浮かべながらケーキを食べる。

 うん、自分で言うのもあれだけで、美味いなこれ。

「おねえちゃん、おめでとー、これアルトとママからのプレゼント」

 と、アルトがリボンで包装されたプレゼントをはやなさんに差し出す。

「わーありがとうアルトちゃん! 中はなにかな~?」

 包装を解いて中を取り出す。と、はやなさんが目を輝かせる。

「あ、これ私の欲しかった画材セット! ありがとうアルトちゃん!」

 ぎゅっとアルトを抱きしめるはやなさん。嬉しそうにアルトも笑う。

 ふう、喜んでもらえてよかった。

「アルトちゃんの誕生日、絶対お返しするね」

 そうはやなさんが言って、思い出した。そういえば、アルトの誕生日って、この時代の暦だといつになるんだろう?

 すぐに計算する。えっと、旧文明での暦の数とこっちは違うから……あらこの日って、

「アルトの誕生日は十二月二十四日だよ」

 ちょうどクリスマスイヴの日だ。

「へ~、アルトちゃんにぴったりの日だね」

 たぶん、天使って言うことを言ってるのだろうかな。

 それに僕も同意する。機械天使なんていうのじゃなく、アルトはその日が似合っている。

 アルトの誕生日かあ、祝ってあげたいな。それまで僕がアルトの傍にいられるかはわからないけど。


――大丈夫。君はあの子たちの傍にずっといられるから……


 ? なにか、声が聞こえたような……

「にしてもはやなちゃんももう十六歳なんだね。彼氏の予定とかってあるの?」

 だけど、すぐにかなねえの言葉に現実へと戻ってきた。はやなさんに彼氏?

「ええ?!」

 かなねえの言葉にはやなさんが赤面する。その反応は誰かしらいるのかな?

 ……なんだろうこのもやもやした感じ。

 するとくいくいとかなねえの袖をアルトが引っ張る。

「かなえおねえちゃん、はやなおねえちゃんはしょうらいママとけっこんするから彼氏なんていないんだよ」

 はい?

 アルトの言葉に空気が固まる。

 それから、少ししてかなねえは生暖かい目で僕らを見つめる。

「そっかあ、やっぱりそうだったんだあ」

 本気にしてるー!!

「ちょ! 香苗さん、やっぱりってどういう意味?!」

「だ、だから先輩違いますって!!」

 いいんだよ全部わかってるからと理解のあるような目をしてもダメです!!

 慌てて僕らが否定しようとして、ぽんっと肩に一馬さんの手が。

「テスタロッサさん、はやなは俺の大切な妹だ。どうか幸せにしてやってくれ」

 真剣な、本当に真剣な目の一馬さん。

 それから、なんでか反応がないと思ったら、どこからか分厚い本を持ち出した朱音さん。

 そして、本を開くと粛々と、

「永遠の愛を誓いますか?」

『誓いませーん!!!』

 僕らは朱音さんの問いを全力で否定した。



 そんなどたばたやりながらもお開きの時間になって、

「ありがとうみんな。すっごく楽しかった」

 と、はやなさんが綺麗な笑顔でそう言ってくれたので、このサプライズパーティーを用意してよかったと思った。

 また、こんなふうにやりたいなとも。

鈴:「また大変間が開いてしまいました。申し訳ありません」

刹:「うむ猛省しろ」

鈴:「次からは気を付けるよ……」


このやりとりも何度目になるかわかりませんが、気を付けたいというのは本心からですので、見捨てずに読んでいただければ嬉しいです。

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