第七十九話 私は百合じゃない!
遊園地で遊ぶ私とノエル。
あれ? この情景どっかで見たような。
でも、なんか近い。なんで私たちが腕を絡ませてるの?
なんか気になる。でも……いいや。楽しいし。
いろんなアトラクション。笑うノエル。その顔に私はドキドキ。高鳴る鼓動。
いやマテなんかおかしいでしょ。
そして、閉園の少し前に観覧車。
高い位置から見える夜景は確かにキレイ。
でも、
「はやな」
でも、そしたらノエルが席を立って私の前に。
「ノエル」
なぜか私は瞳を閉じる。
すると、ノエルがそっと私の顎を持ち上げて、ノエルと私の唇がゆっくりと……
「きゃああああ!?」
とんでもないラストに私は悲鳴を上げて跳ね起きた。
な、な、な、なに今の!
遊園地に遊びにいった私たちが最後に、観覧車の一番高いところで……
「ううううう」
私は頭を抱える。
いや、冗談でパパだの、ノエルを襲ったりしたけど、別に私はそっち方面じゃないよ?
た、確かに私を助けてくれた時はノエルがかっこよくて、こう御姫様抱っこ……っていうにはちょっと語弊があるかもしれないけど、まあ、された時はドキドキしたし……じゃなくて!!
「はやなどうした? なんか叫び声が聞こえたんだけど?」
がちゃっとお兄ちゃんがドアを開けて顔を覗かせて、心配そうに尋ねてくれる。
「あ、あの、だ、大丈夫! ちょっと嫌な夢を見ちゃっただけだから!!」
「そうなのか? ならいいけど」
そう言ってお兄ちゃんは顔を引っ込めてドアを閉めた。
落ち着きなさい、落ち着きなさいよはやな。そう、ノエルは友達。ノエルは友達。あと神無の先輩。私は百合じゃない百合じゃない。
よし! 今日も元気に学校へ行こう!!
そして放課後に久しぶりに部活に参加した。
うーん、最近はノエルたちと一緒に訓練ばかりだったからねえ。
まあ、その間にいろいろとアイディアが生まれたからよしとしておこっかな。
と、思いつく内容を原稿に下書きしていたんだけど……
「あ、はやなちゃん。ちょっと聞きたいんだけど」
同じように原稿に向かっていた先輩が私に声をかけて、
「ノエルちゃんと付き合ってるって噂本当なの?」
先輩の言葉が耳に入った瞬間、べりっと筆圧で原稿が破けてしまった。
「な、な、な、何を言ってるんですか先輩?!」
わ、私とノエルがつ、付き合っている? 誰がそんな根も葉もない噂を流しているのよ!!
「違うの?」
「ち、違います!!」
どこか残念そうな先輩に私は断言する。
でも、なんかちくって胸が痛い。いやいや、ちょっと待ちなさいよ。落ち着きなさい。私はそっちの気はまったくないんだから。
「い、いったいなんでそんな噂が立っているんですか?」
なんとか冷静になって先輩に尋ねる。
とりあえず、なにが原因なのかを調べないとね。こういうのは元を断たないと。
「うーんと、ほら、ノエルちゃんってよく告白されてるのに誰とも付き合わないでしょう? だから、誰かもう好きな人がいるんじゃないのかって話があって。それで二人ともなんかすごく仲がよくて、最近特にそうだから、実は二人が付き合ってるんじゃないのかって」
うーん、元を断つなんて考えたけど、断てないわねこれ。でも、仲がいいからってそんな女同士で……
「あと、それから二人が遊園地で一緒に遊んだりしてるのを見た人がいてね、まるで恋人のようだったって言ったらしいけど、それも原因じゃないかな? まあ、それだけだったら二人でお出かけした程度になっちゃうけど、そんな噂が流れちゃってるからねえ」
う、遊園地に行ったのは事実だから否定できない……
でも、こ、恋人かあ。そういえば今朝の夢も……ってなんか顔が熱い! 紅くなっちゃだめよ私!!
「それにノエルちゃんって中身は実は男の子みたいでしょ? だからそんなお話が出ちゃってるんじゃないかなあ? たまにノエルちゃんにけーちゃんがダブって見えるから私もなんか納得しちゃったんだ。ごめんね」
ま、まあ、確かにノエルの中身に関しては否定できないわね。
実際にノエルの中身というか人格は朱音さんの話では、先輩の従弟だった草薙くんて子をベースにしているみたいだし、男の子っぽく、それによく知る相手からダブって当然なのかもしれない。でも、それはちょおっと不味いかもしれない。
何がって言われてもわからないけど、とにかく今度ノエルに注意するように話しておかないとね。
それから、下校時間。
ちょっと原稿が足りないから新しく買い足すためにちょっと遠回りして帰ったんだけど……
「あれ?」
お店から出ると道路を挟んだ向こうの道には見慣れた二人。お兄ちゃんと、ノエル?
何してるんだろう?
ノエルはこの前私が選んであげたシックな雰囲気のワンピース、お兄ちゃんは両手にビニール袋を提げて楽しそうに話してる。
なんていうか、こう遠目に見ると、まるで恋人同士。
ノエルは雑誌のスカウトに声をかけられるほどの美人だし、ほら、今も男の人がノエルに振り返ってる。お兄ちゃんもちょっとラフなことに目を瞑れば美男子。並んで歩いてるのが、ちょっと絵になっている。
そう考えて、また胸が痛くなる。な、なんで? べ、別に二人が一緒にいるのは悪いわけじゃないのに。うん、悪いわけじゃない。
でも、なんだろうこのじくじくとした胸の痛み。
私は自分の気持ちがなんなのかよくわからないまま、見えなくなるまで二人を見送っていた。
鈴:「お、おひさしぶりで~す」
刹:「おう、久しぶり」
鈴:「はは、エンジェルダスト更新しました。だいぶ社会人生活にもなれてきた今日この頃……」
刹:「ふーん? それで?」
鈴:「……すいません言い訳です。なかなか更新せず申し訳ありませんでした!!」
刹:「よろしい」